陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

原作者は、ファン活動としての無償二次創作を死にさらせと呪っている?!

2022-09-18 | 二次創作論・オタクの位相

タイトルからおわかりのとおり。
この記事には、プロの作家さんにとって不機嫌になる内容がふくまれています。
閲覧にはくれぐれもご注意ください。

***

ツイッター上では、しばしば二次創作関連の話題が湧出するものです。
2020年11月下旬にトレンド入りした話題は、とある漫画家が匿名で漏らした愚痴でした。こういう本音をこぼす行為を昨今は、お気持ち表明というそうです。

「ファン活動としての二次創作活動を許容しなければならない空気感と文化を破壊したい」

この文面、いささか論点が多岐にわたっていますので、箇条書きで拾い出してみます。

・日本のクリエイターが自作の二次創作活動容認を強いられている
・精魂こめてつくりあげた自作キャラと設定とを他人にいじられたくない
・読者に寛容な作家像であることに苦痛を覚えている、媚びたくはない
・憧れの先輩作家が編集者と揉めて干されてしまい不安が募る
・二次創作ガイドラインを作成してほしいが、編集や出版社が乗り気ではない
・SNS上で二次創作尊いという空気感を破壊したい
・自分が業界の大御所になって、二次創作容認の流れを変えたい
・許せないのは作品愛の表現として二次創作をするファンであり、金儲けの同人ゴロは否定しない

語り口は柔らかなのですが、呪いたいと明言しているあたりに、商業作家の闇を感じます。ツイッターやらピクシブやらで、自分そっちのけでファンの二次創作交流されたり、作家の持ち味を否定するような捏造されたり、公式突撃されたりとか、さぞやいやなことがあったのかとお察しします。見たくないものを避けるにはSNSから距離を置くしかないと思うのですが、いまの時代、出版社が作家個人にツイッターで宣伝をさせるので、逃れられないのかもしれないですね。ブロックとかミュートかできないのですかね。

この匿名投稿者が本文のなかで書いているように、ツイッター上ではまさに真逆の反論が生じています。しかも、名のあるプロの漫画家やら作家からも続々と自作の二次創作を描いてもOKという声が輪になって連なっていくばかり。
そしてツイッター民はセンセイ太っ腹!という感じで大盛り上がり。そら、応援したくもなりますよね。

しかし、反面思うのですが、ツイッター上の多数の声あるいはインフルエンサーのご意見イコール世論であって正論である、という空気感が、このご本人は嫌なのでしょう。これには同意です。多数決なら許されるの? そうじゃない。嫌なものを嫌だと表明するマイノリティの言論の自由は護られるべきです。ご本人もツイッター上で炎上するのが怖くて、場を変えたのでしょう。ですから、名を明かして表明すべきという反論もやむなしでしょう。

私自身も二次創作者の端くれですので、原作者さま含めた公式版権者の利害に反するような行為は慎むべきだと感じています。
ただ、この匿名漫画家のお気持ち表明には、いささか不明点があります。

まず第一に、二次創作ガイドラインをなぜ作成できないのか?
2018年にアニメ放映された「SSSS.グリッドマン」は、円谷プロが過去に海外の制作会社と訴訟沙汰になったため、同人活動を制限しました。二次創作者からは不満の声があがったそうですが、だからといいまして、この作品を純粋に好きなファンが離れたわけでもなく、経済的打撃があったとも思えません。二次創作ガイドラインとは、二次創作を全面禁止するだけではなく、18禁はダメなどの制限もかけることができます。ファンに対する抑止力であって、なぜそれを「編集や出版社に取り合ってもらえないのか」、その辺の裏事情が書かれていないのです。訴える相手が間違っていませんか?

第二に、無償のファン活動としての二次創作だけは許せないという点。
お金が絡んでいる同人ゴロはOKです、と。つまり、有償頒布の同人誌活動でキャラ崩壊や原作展開無視のエロ創作は見逃すよ、と。無償のオン活動だけは許せない。イベント即売会にサークル参加しない連中は、作家様ではないので、黙っておとなしくネット上で感想だけ書いてろということでしょうか。同人ゴロって言いかたも失礼だと思うのですが、表現物に対価が発生している者だから理解しあえる? 同人誌描いている方でも、一人称やら服装やらいい加減で描いていますよね。版権物にお金落として研究しているファンで気まぐれ二次創作者からすると、そちらこそ駆逐してほしいと思っていたりするのですが。ご自身も副業で同人ゴロだから見逃すの? 公式が二次創作者を選別したいなら、なおさら正式表明すべきでは。

第三に、「自分で」精魂込めて考えたキャラや設定を利用しないでという点。
これは繰り返しますが、「版権者の権利として」二次創作ガイドラインをつくるしかないですし、それを読者側へ「原作者の正義として」強要することには無理があります。ここで、この商業漫画家の勘違いだと思うのは、自作を「ひとりで生み出した」と主張している点です。だいたいの商業漫画は、漫画家の名義であるにせよ、編集者のアイデアや出版社の企画の方向性も加味されていますし、そもそもアシスタントさんが背景を描いてくれないと作品にならないものもあるでしょう。つまり、プロになった時点で、自分の要望通りに好き勝手に描いて金が入る仕事、ではない。版権者も作家本人だけではないのです。

第四に、著作権について勘違いしているのではないか、という点。
知的財産権として、自作のキャラと似た造形を、他人のオリジナルとして発表されたら訴えることはできるでしょう。意匠権の侵害だからで、しかし、この場合、親告罪ですから、版権者本人が告発すればよい。しかし、私は言いたいのですが、いまのアニメも漫画も過去の有名キャラの激似ばかりです。そしてまた、設定やらアイデアやらには著作権がありません。この匿名漫画家は、自分が将来的に描きたい、あるいは、編集の意見で潰されたネタを、無償公開の二次創作者がやっていることに腹が立ってしまったのでしょうか。自分の飯のタネをタダで披露して、それがネット上で好評なのが許せない、…と。

第五に、自身が「業界の超大御所」になって、この二次創作容認の流れを変えたいと書いています。
その心意気やよし、なのですが。なのですが…なぜ、その考えを自作の漫画にして発表しないのでしょうか? プロフェッショナルならば、それを創作の糧にしなさいよ。編集や出版社にとめられているならば、別名義のアカウントで発表すればいいわけで。今となってはツイッター上でバズったのにもったいないという気がします。いや、ほんとにこれは思います。創作のプロなら戦い方を考えてほしい。

第六に、二次創作の存在を否定するデメリットを考慮しているか、という点。
この商業漫画家の属する界隈は、二次創作容認派が多いのでしょう。では、なぜ自分の嫌いな二次創作が許容されるのか、その理由を自分の頭で考えたことがあるのでしょうか。無償公開する二次創作者だって原作物の買い手です。最近は、商業漫画家がエンドカード(アニメ作品のEDあとに放映される漫画家の寄稿イラスト)や公式アンソロジー参加、作詞や脚本を任されるケースが増えています。SNS上でセーラームーンチャレンジなるものが世界的にブームになりましたけれど、有名作品の二次絵を描くことで返り咲くことができないわけではない。SNS上で誰かの目にとどまり続けることができる。もし自作のオリジナルが売れなくなった時に、仕事が干されたときに、そうした復帰の道をみずから塞ぐことになりかねませんかね。

第七に、プロフェッショナルとして自意識過剰すぎて痛い、という点。
商業漫画家の矜持が高いわりには、自分の苦境ばかり語っていて、買い手である読者の気持ちに添えていません。大物クリエイターになれば、自分の独善的な思想で読者=愚かな大衆の気持ちを塗りかえ、世の中を動かせるとお考えになっている。そもそも、絵描きになれば周囲を見下せる、選民意識が高いままデビューしたのでしょうか。他の仕事をしたことがないのか。「二次創作は文化ではない」というのは、裏返せば「文化をつくるのはお前たちではない」と。だとしたら、漫画家ではなく、一点ものをつくる芸術家になればよろしかったんですよ。もしくは、自分が出版社をたちあげて、二次創作禁止に同意する作家ばかりを集めて営業していけばいい。編集や属する出版社を動かせないのに、なぜ、一般読者ばかりに訴えようとするのか。

編集者や出版社などの大人の事情に縛られて自由に描けない、もはや自分の作品に冷めかけている、プロ作家の嘆きに見えます。そして、ネット上では「のびのびと」「お金に囚われずに」仲間と共に楽しく創作している、手前ども素人二次創作者風情に対する、クリエイター様の毒吐きでしかない。

とてもとても失礼ながら私には、そう感じました。
版権者が二次創作をやめてといえば、だいたいの二次創作者はやめるでしょう。公式が正式に表明すれば。ただし、そのままファン活動を続けてくれるかは疑問です。二次創作に寛容な他ジャンルに逃げるかもしれないし、とくに二次小説の場合は好き勝手に改変したストーリーをオリジナルものとして発表し、とてもめんどうくさい存在になる可能性もありえます。

しかし、プロの作家の二次創作者に対する苦言もよくわかるし。そもそも、この漫画家さんは売れなくて不満があるのではないかと察するので、そのあたりの論を次稿で詰めてみたいと思います。


(2020/11/24)



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