陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

大人の階段のぼる、でも君はまだ…坊やだからさ(前)

2018-06-30 | 政治・経済・産業・社会・法務

米国のSF作家ロバート・ハインラインの代表作『月は無慈悲な夜の女王』に、こんな台詞があります。地球の流刑地である月の独立戦争に、世間知らずの子どもを同志に巻き込むかどうかを論じて、老教授が放つ言葉です。

「子供というものは死が自分のところへもやってくるのだということを、なかなかつかめないものなんだ。成人とは、人間が必ず死ななければならないことを知り…そして、その宣告をうろたえることなく受け入れられる年齢だと定義してもいいぐらいなんだよ」

この定義に則れば、自分がナイフで刺せば相手が確実に死ぬことが冷徹にわかっていて行った小中学生はオトナであるので、成人並みに罰を受けねばならない、となるのでしょうか。それとも精神的に未熟なので更生の機会を与えるべきなのか…。

****

モリカケ問題で空転状態だった国会ですが、働き方改革法案などの審議は進んでいた模様。この6月の目玉となったのは、民法改正。民法とはなんぞや? 憲法、商法、刑法、民事訴訟法および刑事訴訟法らをふくむ六法のひとつ。売買、賃貸借、結婚、相続など市民社会でおこる法律関係を規律する。まあ、平たく言ってしまえば、人としてこの国で生存するための決まり事の基本。私たちは生きるための権利能力を、公共の福祉に反しない限りにおいて、法律で認められています。

6月13日の参院本会議にて成立し、日本では明治29年(1896)の民法制定以来およそ120年ぶりに、「成人」の定義が引き下げとなります。具体的には民法の、第4条(成年)、第5条(未成年者の法律行為)、第6条(未成年者の営業許可)、第8条(成年被後見人及び成年後見人)、第9条(成年被後見人の法律行為)など。あわせて、関連法も改正されるでしょう。

2022年4月1日からは、満18歳からが正式に成人。
じつは、民法上、20歳未満の未成年者は「制限行為能力者」とされ法律行為に制限がありましたが、その抜け穴もありました。20歳未満でも既婚者なら「制限行為能力者」と見做されない。つまり16歳の少女でも婚姻すれば、大人扱いで法定代理人たる親の同意なくして契約などが可能だった。未成年の間に離婚しても変わりません。今回は、このずれを解消したものともとれます。

ところで、皆さん、ご存じでした?
日本ではすでに18歳で成人と見做された方々がいます。そう、皇室。皇室典範には18歳で成人とされていたんですね。満年齢は「年齢に関する法律」により、誕生日の前日に一歳加算されることになります。なぜ、誕生日の前日にするかといえば、1月1日の午前0時に生まれた人も23時59分に生まれた人も、前日12月31日を満何歳とすれば、誕生日には確実に一歳加算されていることになるからといわれています。

すでに2015年には公職選挙法改正にて、18歳から投票がすでに国政選挙で実現しています。ただし、いまだに、20歳未満禁止維持の行為もあります。ここで、確認しておきましょう。

【16歳→18歳へ】
民法第731条(婚姻適齢)

男女ともに18歳から婚姻できます。10代女性の既婚率が0.5パーセントと低いので統一したそう。うちの嫁は永遠に17歳だからオッケー♪という方には、もはやどうでもいいですね。

【20歳→18歳へ】
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 第3条(性別の取扱いの変更の審判)

性別変更の申し立てができます。魔法少女になりたいおっさんは駄目です。なお、成年でも婚姻している、未成年の子がいる、生殖機能がないなどあれば、変更不可です。請求するには、医師の診断書が必要。

民事訴訟法 第28条(原則)および第31条(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
代理人無しで民事裁判を起こせます。
ただし、民法の第5条、6条、780条などの規定によれば、もともと「法定代理人の同意なく」できる法律行為があります。具体的には、負担のない贈与をうける、債務の免除、学費や旅費や小遣いを自由につかう、親権者の許可を得て家業の商売をする、子どもの認知。高校生のカップルが妊娠しても、本人が育てたかったら反対できない。また、養子になるのや遺言をするのは、もともと15歳以上から可能。

弁護士法、公認会計士法などの各種士業法など
公認会計士などの資格を取得できます。成人であっても、学歴要件や実務経験年数を問われる士業資格もあるので注意。公認会計士ならば資格取得が18歳からになりますが、受験年齢はそれ以下でも可。会計士は二年間の実務経験が必要なので、受験して16歳で合格すれば、18歳で資格取得できるという意味です。地球の小学生・高町なのはさんは、時空管理局所属の魔導師すなわち、外国の国家公務員になれましたが、リアル世界は、未成年者は法律行為に制限があるので駄目です。JCやJKに世の中を救ってもらって大人は何もしなくていい、このふざけた世界へようこそは、アニメのなかだけですよ、もちろん。

旅券法第5条(一般旅券の発行)
10年パスポートを取得できます。未成年者(既婚者のぞく)のパスポート申請は5年ですが、親権者ないし後見人の署名もしくは同意書が必要です。脳内妄想で異世界トリップは、パスポートの期限ないから楽ちんですよね♪

割賦販売法
法定代理人(親権者)の同意なく、クレジットカードの契約できます。車や家の購入のためのローンを組むことや、スマホの分割払いも親権者の同意なくできます。貸与を受けた奨学金でもそうですが、支払いが遅延すれば個人信用情報機関に登録(いわゆるブラックリスト)されて、将来的に不利益をこうむります。支払名義人が親であっても滞納すれば、契約者本人が登録されてしまいます。スマホの料金を親御さんに払わせているからといって安心しないように。というか、大学生ぐらいになったらスマホ代金ぐらい自分で負担しましょう。あと、クレカでリボリング払いは絶対にやってはいけません。自分の消費行動をコントロールできずに家計がいつも火の車という人は、カード支払いをやめましょう。

【20歳のまま】
競馬・競輪・競艇、オートレースなどの公営ギャンブル、飲酒喫煙は20歳まで禁止。若いうちからの健康被害や非行の助長となるのを恐れてのため。課金ゲームも禁止したほうがいいのでは。


少年法の適用年齢を18歳未満にするかについては、いまだ争われています。
成人年齢引き下げについては、世論調査では半数以上が反対。経済的に自立できていない若者が多い、大人としての自覚が芽生えるとは思えない、が主な理由。


大人の階段のぼる、でも君はまだ…坊やだからさ(後)
若者の早期社会参加を促すための成人年齢引き下げというが、大人の責任を果たせていない中高年以上の意識改革や、キャリアデザイン教育、職場の労働環境改善、健康管理の周知、年金ふくめた社会保障改革も抱き合わせで行わないといけませんよね…。

この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 新聞は、すばらしい作家との... | TOP | ★==★= 創 作 小 説 御 案 ... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 政治・経済・産業・社会・法務