陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

神無月の巫女精察─姫子と千歌音を中心に─(四)

2016-10-21 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


──あなたに会いたい。あなたに会いたい。

その眼差しで私を見つめ、怯える私を支えてくれた。
微笑みも、喜びも、元気も、未来も…
私の中の宝物、全部全部見つけてくれた。
いつでも凛と輝いて、迷子の私を導いてくれた。

大好きなあなたが。大切なあなたが。
あなたに会いたい。あなたに会いたい。

あなたに会いたいよ。──

(旧版DVDブックレット第五巻より抜粋)



七年目の神無月の巫女語り、まだまだ続いています。

今回は、怒濤の第十一話「剣の舞踏会」、つづく最終話「神無月の巫女」について。
千歌音の真意を確かめるために、そしてまた剣神アメノムラクモに搭乗してオロチとの最終戦に臨むために、姫子は千歌音へと至る道を走り抜けていくのです。
(千歌音いわく「邪魔なお伴も連れてきて」いましたが、もはやただのムラクモ内臨時自動操縦桿みたいなものなので無視していいでしょう。そして、へんてこな石像がまた一体増えました(笑)そういやツバサ兄は石化しなかったよね…)

そこで姫子が単身辿り着いた先は、月の社。
二人だけの剣の舞踏会、嵐の花咲くたましいの故郷。
そこで、おなじみ詩情あふれ情熱たぎる脚本家・植竹先生のポエムが炸裂します。




アニメ史上に残る(?)愛の名告白シーンでしょう、これは。

「貴女が好きなの。
貴女の瞳が好き。春の銀河のようにきらめく瞳が好き。春の陽射しのような優しい眼差しが好き。
貴女の髪が好き。そよ風にひらめくシルクのようなサラサラの髪が好き。
貴女の唇が好き。 蜜のような口づけをくれる、切ない吐息を聴かせてくれる、唇が好き。
貴女の声が好き。 高くて甘い、心に染みこむ、澄みきった声が好き。
貴女の体が好き。 抱きしめると折れてしまいそうな華奢な腰が、薄くてでも形のよい胸が、 重ねた肌から伝わってくる温もりが好き。
でも、一番好きなのは貴女の心。 脆くて傷つきやすい、でもどこまでも純粋で美しい、決して誰も責めたりしない、 すべてを許す優しさに満ちた魂が。 好きよ。大好き。 貴女のすべてが愛おしくて堪らないの、姫子」


殺したいと宣言したのに、嫌いだとは言わない。
憎んでいるとも言わない。
なぜかというに、姫子の自尊心を傷つけるような言葉を投げつけても、戦意をなくすだけだから。萎縮して刀を手放してしまうだけだから。膝をついて、うなだれて涙ながして謝罪するだけだから。それだけは避けねばならない。千歌音は姫子に前を向かせねばならない。かつてなく残酷なやりかたで。人間は行動と言葉が一致しないとき、いかほどにも哀しみを感じてしまう。

猛烈なインパクトがありますよね。陶酔したくなるようなこの言葉。
この台詞にはいる前の、二人の間にある沈黙の一瞬、慈悲のつけいる余地も与えられぬほどに張りつめた空気の鋭さ。「好きなの」という言葉の連呼が、千歌音が振りかざす剣の切っ先以上に、姫子を惑わせていく。姫子は揺れ、ためらい、薙ぎ倒されそうになる。それでもまたよろめきつつも起きあがる。千歌音は動揺しないのか、恐れないのか。好きという呪縛で姫子の足をとめ、手を休め、うっかり愛しいその身を切り裂いてしまうかもしれないのに。おそらく間一髪で姫子に致命傷を与えないように動いていたのでしょう。前世でかぶった紅い仮面に頼らずとも、姫宮千歌音は鬼に化けることができるのです。その覚悟たるや、いかばかりか。

京四郎も同じようにポエティックな告白を白鳥くうに対して言ってましたが、その言葉の重みが違う。
違うのは、前半部であれほど千歌音が姫子に尽くして尽くして耐え抜き、耐え忍んだ行動の積み重ねがあったればこそ。願うならば、姫宮千歌音は血染めの剣ではなく美しい薔薇の花束でも添えて、この台詞を吐きたかったことでしょう。






でも、運命がそうさせてはくれない。
情け容赦のない宿命は、二人を優しい時間の流れへと戻してはくれない。なにもかも、望んだとおりには動かない。そして、それは世の摂理である。だからこそ、身に沁みるほどに哀しい。ふたりが築きあげた切ない時間がただただ愛おしい。彼女たちは運命をくりかえす、ただ結末だけが動かしがたい、その運命をまた辿って生きてしまう。出逢っては別れてしまうだけのさだめに。何度観ても胸に突き上げてくる哀しさがありますね。こみあげてくる苦しさがありますね。

そして、千歌音のとった姫子を怒らせる手段が世界の破滅を呼び、と同時にそれは千歌音自身の自滅をも招く…。
散りゆく花はこの世の名残りに、去りゆくこの声はこの世の手向けに。この身今生の別れにと千歌音は最後、あまりにも守るには脆すぎるその真実を花びらのように姫子の手に握らせる…。







せつな、通じあったかと思ったがまたの別れ。
このあとのことは語るより、映像を観ていただく他ないでしょう。
神無月の巫女公式小説集(二)および神無月の巫女公式小説集(三)ですでに語り尽くしてしまいましたので、仔細は割愛します。



【各記事の目次】
神無月の巫女精察─姫子と千歌音を中心に─(目次)
アニメ「神無月の巫女」を、ロボット作品としてではなく、百合作品として考察してみよう、という企画。お蔵入りになりかけた記事の在庫一掃セールです。

【アニメ「神無月の巫女」 レヴュー一覧】


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