映画「波止場」

1954年の映画「波止場」は、辛い肉体労働の港湾作業員の窮状を訴える社会派ドラマ。
小林多喜二の『蟹工船』が話題になりましたが、働いても暮らしが楽になれないワーキングプアと、搾取する側のワーキングリッチとの格差問題のある現在を、先取りしたような作品。

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元ボクサーのテリーは、波止場の日雇い労働者。
ある日、兄貴分のチャーリーが港を仕切るマフィアのボスのジョニーに命じられて、同僚を殺す現場を目撃してしまう。兄貴のためにも、そしてジョニーからの脅しがあって、警察にもテリーは口を噤んでしまう。
しかし、ジョニーはやがて都合の悪い人物を次々に葬りはじめた。犠牲者の妹であるイディの悲嘆を目にし、そして彼女に恋をしたテリーは、ジョニーの悪事を暴くために法廷で証言台に立とうとするが…。

テリーとイディの恋路はとってつけたようなものですが。最初は無言の圧力に屈して不正に加担してしまっていた自分を恥じ、ひとり立ち向かおうとする。
法廷での証言ののち、警察の護衛も断って、兄貴の敵討ちのためにジョニーに拳をあげるシーン。しかし、港湾の労働者たちは仕事を失うことを恐れて、加勢してくれない。
ずたぼろにされて、けれども血塗れなのに、立ち上がってその日の仕事のために歩いていくテリーの姿。ほんとうのヒーローとはこうあるべきなのではないでしょうか。
その姿に心うたれて、テリーを囲む人々の空気も変わる。ジョニーの言いつけにはそっぽを向き、別の雇用者のもとへ仕事を求めにいく。
とても、感動的です。派手な演出はないけれど、こういういぶし銀的な魅力の社会派ドラマはいいですね。時代が変わっても、得るものがあるテーマです。

テリーの恋人となるイディも、きつい労働で娘に学をつけさせようとした父親の思いを汲みつつ、波止場の悪しき空気のために神父とともにたちあがったところが、いいですね。亡き兄の無念も晴れたことでしょう。

主演は、本作でアカデミー主演男優賞に輝き、一躍トップスターになったマーロン・ブランド。「ゴッドファーザー」の ドン・ヴィト・コルレオーネ役で知られる、戦後アメリカを代表する名優。フランシス・コッポラ監督の話題作「地獄の黙示録」でも、ベトナム戦争で造反した将校をカリスマ性たっぷりに演じています。スタニスラフスキー・システムの実践者であり、この映画でも、鋭い目つきの若い労働者を自然に演じています。台詞ではなく、存在感で威圧感を与えるタイプですよね。

監督は「エデンの東」のエリア・カザン。
本作は、1954年のアカデミー賞にて作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞など8部門を受賞。