陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

若者たちの映画「ミーン・ストリート」

2023-01-15 | 映画──社会派・青春・恋愛

成人式の新成人のやんちゃっぷりが毎年伝えられきたものです。
コロナ禍で一時期式が延期あるいは中止に追い込まれましたけども。この記事を予約投稿したのは2021年9月ですが、さて、記事が掲載されたころには収束されていますでしょうか。

1973年のアメリカ映画「ミーン・ストリート」(原題:Mean Streets)は、ギャングの世界に身を投じながらも悩める若者の生き様を追った青春群像劇。「レイジング・ブル」「タクシードライバー」で知られるマーティン・スコセッシ監督の初期作。評価が分かれる作品ですね。

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ニューヨーク、リトルイタリー地区。
ならず者の青年チャーリーは信仰心は厚いが、定職にも就かず、いつも仲間とつるんでいるチンピラ。叔父ジョバンニの営むイタリアンレストランを任されるが、その条件は悪友のジョニー・ボーイと縁を切ることだった。金遣いが荒く、酒と女には目がないジョニーはこの界隈では鼻つまみ者。チャーリーだけがジョニーを庇い続けるが、その友情のために二人は追いつめられていく…。

仲間うちでもチャーリーはしっかり身なりを整えていて、ジョニーへの借金のために激しやすい高利貸しマイケルの抑え役。信仰を茶化す仲間にまじめに言い返すあたり、彼だけこの遊んだ雰囲気から浮きあがっているように感じられます。ニューヨークを取り仕切る叔父の威力に憧れるいっぽうで、一度でもしくじれば明日には死体となって転がされているような街の裏側に接し、引け目を感じているチャーリー。ジョニーのいとこでテレサという恋人もいますが、彼女とともに街を出ていくこともできません。

やがて、チャーリーの温情で助けたはずの暴利の借金も踏み倒し、ビルの屋上で発砲騒ぎを起こすジョニー。
仲間うちの友情に亀裂が入りはじめます。チャーリー、ジョニー、テレサの三人は街を逃げ出すことにするのですが、悲劇が待ち構えています。運命が暗転するラスト五分はなんとも強烈なシーンですね。

個人的にチンピラを描いた映画はあまり好きではありませんが、冒頭から流れるロックの熱いビートと、至る所に宗教をモチーフにした演出がさりげなく施され信仰をテーマにしたつくりが絶妙に組み合わさっています。聖人アッシジのフランチェスコに自分をなぞらえたチャーリーは、自分こそ友人を救えると信じて疑わない。彼の行動は見返りを求めない慈善や無償の愛なのか、それとも燃えさかる炎に指をつっこんで火傷の痛みをこらえるような度胸試しなのか。─「教会で罪は購えない。我々は街や家庭で罪を購う」という冒頭のモノローグは、信仰というものが日常に根付いていることを感じさせます。チャーリーの抱える息苦しさとは何なのか。彼は何のために自分に刑を科そうとしているのか。冒頭のラブソングは二度目に観なおすとなんとも意味深なかぶせ方ですね。チャーリーのジョニーへのひたむきな友情がそれだとはあきらさまに描かれてないですが、それに近いのではななかったかと思われます。

ドキュメンタリー調にしあげたカメラワークによってリアリティを醸し出しています。都会の猥雑感だとか、排気ガスまみれで薄汚れた路地裏に生きる若者の懊悩とかはよく表現されているといえるのではないでしょうか。

ただジョニーみたいなだらしのない人間は友人にしたくはないでしょうけれどね。
人間の善意を逆手にとって世の中を舐めて生きているとしか思えない。この映画は一部に熱烈な支持がありますが、きっと、こういう弾けた生き方に憧れてしまう世代なのではないでしょうか。

主演ハーヴェイ・カルテル。
ジョニーを演じたのが名優ロバート・デ・ニーロ。本作で全米映画批評家協会賞の助演男優賞を受賞しています。

(2011年6月19日)


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