陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「サハラに舞う羽根」

2009-04-14 | 映画──SF・アクション・戦争

〇二年の英米合作映画「サハラに舞う羽根」
広大な砂漠を舞台にしての戦争と恋愛の大河ドラマ。好意的にいえばそうなのでしょうけれど、はっきりいいまして訴えてくるものがありませんでした。いちばん、描きたかったのはさしづめ男同士の友情だったのでしょうか。
以下、ネタばれあり。

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時代は二〇世紀初頭、エリザベス一世が王位に就いた時代、英国は世界の四分の一を植民地化するいきおい。
エリート風を吹かせる青年将校ハリーは、友人たちからの人望も厚く、美しい恋人エスネとの結婚も間近。しかし、植民地であるアフリカ大陸スーダンへの派遣が決まるやいなや、除隊してしまいます。
臆病者(chicken)とののしられた彼に送りつけられたのは、かつての友人たちからの屈辱のしるし、四枚の羽根。そして、婚約したはずの恋人にすら、去られてしまいます。
しかし、ハリーの親友ジャックたちをふくめた師団がサハラで潰滅の危機におちいったとき、友人たちを救ったのは、ハリーだった。

というのが、おおまかな筋なのですが。
ハリーの行動の根底になるのが、軍人たちのいう名誉欲ではなく、単に友人を助けたいという、キリスト教的博愛。彼は植民地支配に加担することを嫌い、戦争反対のために除隊したのですが、この部分の主張があいまい。けっきょくそれは建前で、彼は社会的地位を得るためにかりそめに軍役に服しただけで、戦う気はなかったということが強調されてみえます。
つまり、彼はけっして平和主義者ではない。大陸入りした彼が奴隷の女性をかばったりしはするものの、けっきょく、武器をとり、敵の首領を殺してしまうことから、それはわかります。

要するに、臆病な若者が異国で命がけの冒険をして最後には勝利も愛も手にしてしまうという、おさだまなりな成長譚。サハラから帰還できた彼は、かつて侮蔑した友人や恋人と再会し、名誉を回復することもできます。でも、なんだか、とんとん拍子につごうよく事が運びすぎ。

戦闘シーンを心えぐられるほどにかなり陰惨に描いたことからも、監督としては戦争の悲惨さを伝えたかったのでしょうけれど。この主人公が、けっきょくは身近な愛する人びとしか救えていない、という事実が、彼の成長をつまらないものとしています。この人が現地の土着民に武力ではない交流をして、英国兵士と多少なりとも和解がある、といったような展開ならまだしも(史実に基づいていますので、それは難しいかもしれませんが)
けっきょく、英国の植民地化という暗い歴史を批判するどころか賛美しているようにも、刃向かってくる原住民を野蛮人として侮蔑しているところも、やはり英米いや白人らしい感覚と言えますよね。

プロットはイマイチなのに、やたらと実力派俳優を頭数揃えてしまったがために、彼らの存在感だけで売っているところがあります。とくにハリーを助けてくれるスーダン人アブーを演じたジャイモン・フンスー。ダンサーにしてモデル出身なだけあって、立ち姿が凛々しい。ハリーのアフリカでの奮戦は、そも、この人の活躍あってこそなので、英国に戻ったあとの彼を称えれられても、ちゃんちゃらおかしく感じてしまいます。
それとハリーが捕虜になった友人とともに脱走するための方法は、すこしまえに観た「ジェヴォーダンの獣」とまったくおなじでしたので、おもしろみに欠け。
英国はやはり、オセロとかロミジュリ的な手法をつかってシェイクスピア文学の影響をうけているんだなと思わさせられることしきり。

そして、いちばん腑に落ちないのが、主人公の恋人エスネの態度。そもそも、彼女がハリーをうけとめてあげていれば、彼とてこんな無謀な冒険をしなかったわけで。しかも、ハリーが除隊したあと、三角関係だった親友のジャックと婚約してしまったり。そして、また元の鞘におさまったりと、すこし虫が良すぎやしないか、と。もちろん、彼女も当時の帝国主義(そして、軍隊に入らなければ出世できない階級社会)の精神的な犠牲者だったのですが。なんといいますか、ゆいいつのヒロインだった女がこんな二股な人だったことが、よけいにこの愛を安っぽくしてるように思えてしかたありません。いちばんかわいそうなのは、ジャックに見えましたね。

しかし、愛する人間だけを守るためなら武器をとっていい、という正義は、人類みな兄弟という神の教えに反するように思われるのですが。こういうキリスト教原理主義がしばしば中東で衝突して不幸な歴史を生んできたことはいうまでもなく。
敵のリーダーをぎりぎりまで処刑することをためらっていて、けっきょくこの映画のなかで、それらしい剣をふるうことも、銃を放つこともしなかったジャックこそが、じつは「汝の敵を愛せよ」という教えと死の恐怖との瀬戸際にやりとりをしながら戦っていたのではないでしょうか。ハリーじゃなくて、いっそ、この人が主人公ならよかったのに。

将校たちが、グリーンスリーブスを口ずさんでいたのが時代を感じさせます。しかし、この歌にエリザベス女王の両親ヘンリー八世の求愛ではなく、悲劇の王妃アンの暗黙の叫びをみとめてしまう(拙稿「Greensleeves ─愛しい人よ、あなたは間違っている─」参照)私にとって、女王に忠誠を誓う将校たちが楽しげに合唱していたのは、どことはなしに帝国主義への皮肉のようにも思われます。
それは、友人たちが屈辱と侮蔑の証としてあたえた羽根を、お守りとして肌身離さずもっていた主人公と通ずるのかも。

ちなみに、原作はかねてより英国の古典文学と名高いA・E・W・メイソンの小説『四枚の羽根』で、すでに五回も映像化されているとのこと。過去作はもっとおもしろかったのでしょうか。
主演のヒース・レジャーは〇八年に急逝、死後にその演技を惜しまれ「ダークナイト」でアカデミー助演男優賞受賞。

(〇九年四月九日)



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