〇一年のフランス映画「ジェヴォーダンの獣」は、じっさいにルイ十五世政権下のフランスで起きたとされる怪事件を下敷きにしたフィクション。日本でいうならば鬼ヶ島伝説を映像化したようなものでしょうか。
一七六四年のフランス。
ジェヴォーダン地方では、謎の怪物が女子どもを襲うという事件が多発。国王は王室博物学者のフロンサックを調査に向かわせる。フロンサックは学者とはいえ剣の腕も立つ男で、お供にしたがうのはアメリカ新大陸から連れ帰り固い兄弟の契りを交わしたインディアンのモニ。
彼らふたりが派遣された地方で拘留中も、獣の正体は杳として知れない。二度目の派遣で正体を暴いたフロンサックが目にしたのは、おそるべき政治的陰謀だった。
ところところ魔術的なフィクションはあるにせよ、息も吐かせぬアクションと先がよみにくいサスペンスは、なかなか見応えがありました。
とくにいい役どころを演じていたのは、エキゾチックな雰囲気をただよわせているモニと、最後まで敵なのか味方なのかわからない色香をにおわせている情婦シルヴィア。
陰謀の影にひそんでいたのは、悲しき貴族の禁断の愛。
けっきょく、フロンサックの暗躍により国家転覆は阻まれるのですが、つぎの治世が、フランス革命によって体制の崩壊を呼んでしまったことは、獣であったのは血の殺戮をのぞんだ民衆であったのか、それとも国民をくるしめて貪っていた貴族王族だったのかと。
冒頭とのつながりがおもしろく、飽きさせない構成でした。映像としても美しさがあります。
ところで、日本の鬼ヶ島伝説というのは、じつは日本神話にもとづいているらしく。
岡山では、半島からの渡来人である豪族が吉備で叛乱をおこし、大和朝廷の大王の王子が征伐にいく話だそうですね。
(〇九年二月二十日)