陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「グッバイ、レーニン!」

2014-04-01 | 映画──ファンタジー・コメディ
2003年のドイツ映画「グッバイ、レーニン!」(原題 : Good Bye、Lenin!)は、1970年から90年にかけての旧東ドイツのとある一家を描いた作品。表題のレーニンとは、まさに共産主義の象徴に他ならないのです。


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1970年代の旧東ドイツのとある一家。
夫が愛人と共に西側に亡命したショックで、一時期精神を患った母クリスティアーネ。姉のアリアネと弟のアレックスは物寂しい子ども時代を過ごすが、気丈な母はすぐさま立ち直り、大学の講師として共産主義の強化に努め、勲章を与えられるまでになった。

1989年10月7日。
ベルリンの壁崩壊直後、建国四十周年の記念式典のその夜、成人したアレックスは、民主化を訴えるデモ行進に参加していた。軍と衝突し、多くの同胞とともに連行される姿を、クリスティアーネに目撃されてしまう。
ショックで失神したクリスティアーネは心臓発作を起こし、意識不明の重体に陥って、病床の身となってしまう。

その8ヶ月後。
母は奇跡的に覚醒するが、医者からはショックを与えるものは禁物だと諭される。
熱心な共産主義の活動家であった母は、この数箇月で急速に民主化して目まぐるしく変化した生活を知らない。
かくしてアレックスは一計を案じ、母のためにいまだ旧東ドイツが繁栄しているかのように装う暮らしをはじめる…。


愛する家族のいのちを守るため、精神を救うために嘘をつくという構図はまさに、「聖なる嘘つき」「やさしい嘘」・「ライフ・イズ・ビューティフル」などではおなじみ。ただし、これらがどこか命がけの嘘で、どこかしら当時の体制批判を含むシニカルさを匂わせていくのに対し、本作は半分がコミカルに演出されています。

たとえば、母親への偽装工作のために、アレックスが同僚のデニスと仕組んだ壮大な嘘しかけのシーンは、「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」(この衝撃作の主人公の名前を借りていると思われる)で知られるスタンリー・キューブリックへのオマージュととられるお遊びがふんだんに盛り込まれていて、なんとも映画ファンを楽しませてくれます。

アレックスが自分の恋人や姉のパートナー、ご近所の方々、はてはかつて尊敬していたが落ちぶれた元宇宙飛行士までを巻き込んだ壮大なひと芝居は、いくども破れ目をみせようとするも、そのたびに必死になんども取り繕うとする。疲弊して関係が崩壊しそうになる家族をよそに、アレックスは真剣そのもの。
そのうち、実は記憶喪失だった母が父にまつわるある秘密を告白し、東西で別れた家族は再会を果たすことに。

最終的には母の安らかな死をもってして、偽の東ドイツの存命は終わりを迎えてしまいます。アレックスの理想の東ドイツごっこは、母親のなかに永遠に封じられてしまったのです。
しかし、主人公たちはでっちあげで延命した幻の社会主義国家を誇らしげに思う。出世主義や大量消費社会とは無縁で、いざ何か金融不安があれば銀行の預金口座に人びとが大挙して押し寄せることのない、社会主義。軍事力の台頭や思想コントロールを除けば、それはあんがい望ましい世界なのではなかったか、と訴えるようなあのモノローグは、まさに統一しても西側に虐げれている旧東ドイツ国民の声にできない本音だったのではないでしょうか。

世界的な長期の不況で、資本主義が手詰まり感をひろげている現在、一考に値するテーマを投げかける映画ともいえましょうね。

監督はヴォルフガング・ベッカー。
2003年ドイツ・アカデミー賞9部門、2004年ベルリン国際映画祭最優秀ヨーロッパ映画賞嘆きの天使賞を受賞。

(2010年10月7日 ベルリンの壁崩壊の日に)


グッバイ、レーニン! - goo 映画

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