陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

子どもの日に観たい映画「赤い風船」

2022-05-05 | 映画──ファンタジー・コメディ

1956年のフランス映画「赤い風船」(原題:Le Ballon Rouge )は、こころ優しい男の子と、寄り添う赤い風船とのふしぎな友情を描いた短編映画。
三十数分のきわめて短いストーリーで、台詞が少ないので、あまり複雑に物語に入れこまずに観ることができます。最近、フィクションであれこれとキャラクターの深い背景に思い来したり、エピソードを関連づけて考えたりするのがめんどうになってきたので、よけいな頭を使わずに癒されたい、という人にはおすすめの一作ですね。

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通学途中の外灯にからまった赤い風船を見つけた男の子。
風船はその日から男の子とつかず離れずの関係に。学校にもくっついてくるし、家でもおばあちゃんに捨てられそうになっても、帰ってくる。しかし、街の虐めっ子たちが風船を狙って追いかけてくることになり…。

台詞と言えば、男の子が風船に話しかける言葉しかない単純明快さ。
この赤い風船がいったいなにを象徴しているのかはさだかではありませんが、私が思いますに、これは人間の心臓というか、ハートだと思うわけです。風船を邪慳に扱わず、傘に入れてくれたり可愛がってくれる者どうしには親近感をいだく。いっぽう、体罰を加えようとする陰険な教師やいじわるなバスの乗客、いじめっ子たちには、ぜったいになびこうとはしない。この男の子はあまり家庭に恵まれていないようなので、この風船は、男の子の親代わりといいますか、守り神のような存在なのかもしれません。

終盤になると、いじめっ子集団に囚われてしまった風船が、悲惨な末路を迎えてしまいます。このときの風船の火山地帯のような発憤ぶりの演出に驚かされることでしょう。と同時に、すでに意思をもった生命のように情を寄せてやまなくなった観客とても、胸を痛めてしまう場面です。しかし、それもつかのま、男の子には圧巻のラストシーンが用意されています。街中から飛び出した善意の群れが、男の子を自由の空へと浮かび上がらせるラストで、爽やかな幸福感に包まれる。ダイナミックな音楽もなく、熟達した演技や台詞回しもない。なのに、なぜかうまいと思わざるを得ない、こころに残る名作ですね。

監督、脚本はアルベール・ラモリス。
主演は監督の子息のパスカル・ラモリス。

1956年のアカデミー賞で脚本賞を受賞、同年のカンヌ国際映画祭で短編パルム・ドールを受賞した話題作。

ちなみに私が本作を視聴したのは二度目。
初見は学生時代でしたが、当時は退屈して眠ってしまい、ストーリーの深部まで覚えていませんでした。フランス映画は印象派の絵画を読み解くように、それとなく視覚的な要素で心情を動かすものが多いので、理解するには年数が必要だったのかもしれません。

(2013年1月26日)

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