陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「やさしい嘘」

2010-04-01 | 映画──社会派・青春・恋愛
二〇〇三年のフランス・ベルギー合作映画「やさしい嘘」は、母娘三世代の葛藤と絆をおだやかに描いたヒューマンドラマです。とりたててドラマティックなことが起きたわけでもないのですが、お互いの心事を慮って、嘘をつらぬいてしまう母娘のすがたには、感動を覚えます。
以下、ネタバレあり。


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小国グルジアに暮らす高齢のエカは、亡父の宝物であったフランス語の書物を後生大事に保管し、パリに移住して医師をしているはずの息子のオタールからの手紙を楽しみに暮らす毎日を送っています。オタールの姉マリーナの娘アダはフランス語に通じ、叔父からの手紙を祖母に読み聞かせるのが日課。

ある日、オタールがパリで事故死したことを知るマリーナとアダ。しかも、就労ビザを持たないで工事現場で働いていたため、雇い主は雇用関係を否定し、無名の不法入国者扱いで埋葬されてしまったのです。老い先短いエカの落胆を考え、母子はオタールからを装って手紙を出しつづけます。

発作をかかえている母を案じているマリーナは、嘘を貫くことに迷いがありません。いっぽう、孫娘のアダは祖母を欺きつづけることに次第に疑問を感じはじめます。アフガニスタンで夫を亡くし、優秀な弟に愛情が注がれてきたことに劣等感をかかえてきたマリーナ。叔父の代わりに偽りの手紙をつづることで、パリでの生活に思い馳せるアダ。ふたりは事あるごとに衝突してしまいます。

いっぽう、何も知らないエカは、夫の蔵書を売り払ってパリ行きを決意。マリーナもアダもとうとうエカに真実を告げることができないまま。しかし、ふたりの想いを汲んだエカが最後につく嘘がいいですね。

この映画は、単に嘘を巡って家族の模様をやさしく描いただけでなく、ソ連崩壊後の閉塞感をかかえる東欧の小国の、不安定な情勢をも暗示しているのでしょう。
アダは祖母に嘘をつきつづける生活からというよりは、偽りの希望で国民を欺いてきた国家から逃れようとしています。ハッピーエンドではありますが、フランスでの自立を決意した彼女に降りかかる今後の困難を思うと、胸が痛みますね。

監督はジュリー・ベルトゥチェリ。
主演のエカ役には、八十五歳にして映画デヴューしたというエステール・ゴランタン。
〇四年八月に来日して、キュートなおばあちゃんぶりで話題にもなりました。

「やさしい嘘」エステール・ゴランタン来日記者会見(Webstyle FUN! FUN! MOVIE)

(〇九年十二月三日)


やさしい嘘(2003) - goo 映画

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