陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

とある民俗資料館を訪ねて

2012-09-13 | 芸術・文化・科学・歴史
すこし前のことですが、とある農村にある民俗資料館におじゃましました。
最近は地方自治体が財政難で、地方の美術館でもあまり大がかりな作品が呼び込めないものですが、来館者がほとんどいないのに、しかも入場無料でしっかり運営しているミュージアムもあるものなのですね。

さて、この資料館、なにを展示してあるかと言いますと。
江戸時代から昭和初期までのその地域の暮らしぶりを紹介したもの。とある町の名士がコレクションを寄附をしたり、古くからある旧家の蔵に眠っていたような農具などがあって、展示物には困らないようで。それを家をまるごと館内に移築して展示してあるんですね。明治、大正時代にタイムスリップしたようで、懐かしい空気に包まれました。

どちらかといえば、美術全集に載っているような世界の名画などの展覧会よりも、土着的な生活品をあつかった展示の方が好きですね。職人技がうかがえるような、個人の表現性が極めて低いもの。誰それが生み出したものというクレジットを伏せて、向き合ったときにビビッとくるもの。

学生時代は、現代アートをよく観に行ったもんですが、最近はとんとごぶさたになりました。現代で影響力を与える文化ってのは、アートだのデザインだのかしこまってるクリエイターのつくるものではなく、物語訴求力のある漫画やアニメ、映画だと思ってますし。そう思ってるのは、いわゆる高尚な芸術作品は研究対象なんだけど、命を救われたという想いがするものではなかったからかもしれません。作品にこちらに働きかけてくる人格がないものに惹かれないのです。

その時代だからこそ生まれて愛されたかたちや色あいは、現代のデジタルな感性ではとても追いつけないのです。いつまで経ってもきれいで新しいのと、使い込まれて古さびた奥行きがあるもの。欲しいのは後者ですね。大事に使用されたのだという持ち主の思いやりがかいまみれる道具などを見ると、とても優しい気持ちにさせられるからなのです。

ところで、Msablogさんの記事で知ったのですが、あの人気アニメ「エヴァンゲリヲン」とコラボしたという日本刀の展示があるそうで。岡山県にある備前長船刀剣博物館で9月17日まで開催中。十年ぐらい前だったか、滋賀県かどこかの美術館でセーラームーンの展示をしたというポスターを観たときはびっくりしましたけど、いまはアニメが文化として浸透してるんですね。「マリア様がみてる」が吉屋信子とか明治大正の文学館とコラボしたり、「魔法少女リリカルなのは」が軍事博物館とか車の企業博物館とコラボしたり、「神無月の巫女」が出雲大社などの歴史博物館とコラボしたりしたら嬉しくて泣きそうになりますが、まさかそんなことを企画してくれるオタクな学芸員はいないでしょうね(笑)

自分たちが現在なじんでいるものの、いったい、何パーセントが百年後に貴重とされているのでしょうか。昔の人は価値のために保存しておく、なんて考えはなかったのでしょうけれどね。

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