陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

神無月の巫女公式小説集(三)

2011-11-10 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女



神無月の巫女公式小説シリーズご案内の三回目。
「輪廻の花園~あり得ざるもう一つのかたち~」(DVD六巻ブックレット所収)の続きからとなります。

構成上ややこしくなるのは承知のうえで、アナザーストーリーとテレビ放映版とを比較してみます。
アニメ神無月の巫女最終話、自分の言葉で自分に追いうちをかけてしまう千歌音ちゃん。私は許されていいはずがない、とうつむいてはひたすら嘆く千歌音ちゃん。その声には血のにじむような懊悩がある。やるせないですね。でも、姫子にだけは許しを請いたいと聞こえなくもない。姫子はもちろん許しますとも、千歌音がおそらく予想していた柔らかな言葉よりも、大きくて、熱いちからで包みこんで。

とつおいつ責めさいなんでやまない千歌音を黙らせる、この姫子の実力行使(しかも「ハッピーバースデー」で二回も…!!)。胸を衝く、瞳ひらかれる、なんとも美しい瞬間ですね。色っぽいのだけど、さほどいやらしい味がしない。唇というのが人間のふさがることのない濡れた傷ぐちだとすると、そこから洩れる懺悔をとめだてるためには、やはりこうするしかないのか、と。そして、この瞬間こそ姫子と千歌音がはじめてこころが合わさった瞬間なのですね。

ときめきのその一瞬で、千歌音のとるにいたった過ちを、拭い切れない暗い記憶の咎を、全身にぴったりと張りついてやまない重く濡れた罪悪感を、なんのことなく姫子は羽毛のようにふわりと軽く吹き飛ばしてしまった。そのあと、お月様がどうとか、とか、お陽様がどうとか、まともに聞くと謎かけとんちのような、でも姫子なりの一生懸命な不可思議ロジックを吐きまくって、なぜか千歌音ちゃんをなだめてしまいます。姫子、さすがだな。そして、これが胸に沁みこんだ千歌音ちゃんも、さすがだな。それはもう二人だけにしか通じない対話だったのでしょう。ああ、もう、飴のとろけたような千歌音ちゃんの法悦の表情ときたら。

そして、ここが一話の衝撃的なラスト(あのロボットの下で秘密の…)とつながり、さらにまた、もう言うまでもありませんが、アニメ「京四郎と永遠の空」にも受け継がれてしまうシーンなのですね。二話と最終話はみごとなつながりとなっております。惜しむらくは、こちら、周囲に外野が多すぎたこと(とくに二話の妄想娘の実況中継はいらん)。





このアナザーストーリー「輪廻の花園」でも、どっちかというと姫子の方が会話の後半は主導権握っていて、ちょいと男前(?)な感じがします。
「二人でするキスはきっと違うよね」──たしかに京四郎世界では、違った意味をもってしまいましたが(泣)──って、恥ずかしげもなく言っちゃうんだ、この子は。言っちゃえるんだ、この子は…(艶笑)。いやー、たまりませんな。再会した瞬間に、ためらいもなく交差点のど真ん中でほんとにしてそうですよね、この二人だったら。

アニメ神無月の巫女最終話の薔薇園のシーン。
別れを辛いものにさせないために、自分の苦しみの種を最後に姫子に残してしまわないために、千歌音がわざと気丈にふるまっていたのですよね。むしろ、姫子の方がアルバムの白紙の頁を二人だけのメモリアルで埋め尽くしたいのに、とすがろうとする。このほんらいの関係に戻ったところがまたいいんですよね。日常の楽しいひとときを取り戻したいがために、あの薔薇園が現出した。それは巫女の悲恋を憐れんだアメノムラクモの温情だったのでしょうか。それとも、一分一秒でも長く二人でいたいと願う巫女ふたりの奇跡だったのでしょうか。
その直後、風に流されて二人の手が離れようかというときになって涙あふるるばかりに叫ぶ、というあのシーンがまたなんとも胸につまるものがありますね。あのシーンだけ、何十回再生しても泣けてなけてしかたがない。






ところで、このアナザーストーリー、アニメ版とは異なる姫子の心象を決定づける台詞があります。
そのひとつが「神無月の巫女でよかった」
「神無月の巫女」という語句は、アニメ最終話にしてはじめて語られるもの。千歌音が二人の巫女が背負う残酷な宿命のことを明かして言うもので、そこには真実がもたらされたと同時に、それはどうにも動かしがたい負い目であるという、深いペーソスに視聴者を包み込む意味深な台詞でもありました。それをここでの姫子のニュアンスでは、いくど別れても必ず廻り会える二人だけの結びの糸、再会の依りどころという、さも肯定的な、なんとも大らかな捉えかたをしているわけですね。春の陽だまりのたゆたう湖のような澄んだ瞳でそう言われると、千歌音の苦悶も、涙にかすむその瞳も、さぞや和むというものでしょう。しかし、これを姫子があっさり口にしてしまうと、悲恋ものというこの作品の醍醐味が薄れるであろうから、あえなくカットしたものと察せられます。あと、作品タイトルをキャラ自身が持ち上げているようにも聞こえ、手前味噌のような響きもあってのことかもしれませんね。

もうひとつの台詞は「女の子でよかった」
このアニメの主題──真っ正面から扱った女の子どうしの恋愛──に沿っていなくはありませんが、ここで重ねて言うとくどいんですよね。裏を返せば、「男の子だったらだめだった」とも読める。でも、女の子だから、姫子は千歌音を愛し、また愛されたというわけではない。

万々一にでもですよ、片方が性別異なってはいても(あくまで百合作品なので、あまり想像したくはないですが)、この二人、やはり愛し合っていたのではないかと思いますし。そのために、姫子はこれらふたつの台詞に続いて「来栖川姫子でよかった」と言ってみせたのではないでしょうか。「神無月の巫女」であること、「女の子」であることは、千歌音の愛にとっての瑕瑾でしかなく、それらをただコインの表裏をひっくり返すように否定されても気休めにしかならないのかもしれない。しかし、愛した相手が「来栖川姫子」であることだけは、千歌音はどうあがいても否定しようがないのです。そしてまた、この言葉には、宮様には似つかわしくないお友だちとして少々気後れを感じていた姫子の自待の念の芽生えがあったともとれます。

「女の子」という人類の半分の総称みたいなもので、確率二分の一のその他大勢のうちの一人みたいな言い方でもって、千歌音も愛する人を語ってほしくはなかったと考えるわけで、個人的には。巫女でありますからとうぜん女の子でなければ成立しない二人なのだけど、神に仕えているというその特性からか、この二人の愛にはなにか、その性別を超えたものがあるような、ふしぎな感覚を感じざるをえないわけですよね。だから、お仕着せがましく何回も「女の子だから」というジェンダーをもちだして意識させてほしくないといいますか。女の子が女の子と付き合うのになんらの抵抗もなく、それがスタンダードだったりする世界観の百合アニメも女性性が商品化(夢を買うユーザーに嫁幻想を抱かせるための処女性として躾けられた恋愛シミュレーション)されすぎていてあまり好きではないけれど。「少女革命ウテナ」はジェンダーで語れるだろうけど、この作品はそれを深刻に扱ってはいないと思うわけですよ。

あくまでファンタジーとして、禁断の愛のおもしろさを追求した結果であって。
でもファンタジーなのに、リアルに求めてしまうマイノリティもいたりするわけで。そこにこの作品の異色性というか、どこにも属せないし、どこからもはみ出してしまう疎外感、なににも変われないもどかしさ、代わりのきかない孤高があるような気がしてなりません。90年代から流行っている戦闘美少女の系譜からもみごとに逸脱してますしね。視聴者に愛されることを望みながら、いっぽうで、遠ざかろうともするあまのじゃくめいた魅力というべきでしょうか。





大仰に構えて言わせてもらうと、「好き」という言葉はあんがいに重くて、抱きかかえる腕の輪よりも大きなものを支えること──そのメタファーのためにこそあの時代錯誤(失礼)なロボットが存在している、はず──であって、人を愛するということはかなりの痛みをともなってしまうものだけど、それは人を強く成長させるということを訴えているものだと。棘のある愛を描ききったところでは逸品なのだと。そういう作品だと思っています。そして、これはあくまで現実に密着していない次元にあるものなので、やはり描かれた理想や巧妙にしくまれた夢なので、夜が満つれば愛でられる月のように、延々とそれを眺めているとなにがしか憑かれてしまようなトランス状態を感じ、ふと観終わった瞬間に虚脱感を覚えて地に膝をつきたくなってしまうのも事実です。(なにか、よくわからないことを自分でもぼやいておりますが…(謎))


なお、この旧版DVDのブックレットの各話解説部分については、新装版DVD-BOXブックレットに転載されています。この旧版ブックレットはデザインがすてきだし、全編オールカラーなのも嬉しい。ちょっとしたアニメムックなみのクオリティがあります。そして第六巻ブックレットのスタッフコメント欄は熱い! じつに熱いのです。アニメ観る時間なくても、これ読んでるだけで存分に楽しめます。必見ですよね。


【関連記事】
神無月の巫女公式小説集 まとめ

【アニメ「神無月の巫女」 レヴュー一覧】


【追記】
11/20
ウェブノベル「姫神の巫女」の最終話(…なのか?)が更新されています。
予想外なラストでしたね。感想はのちほど書くとします。





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