言うなり、ユキヒトはポケットから出したものを、ソウマの隣のニヒルな笑み顔にぺたり、と貼りつけた。ツバサの顔を覆っているもの、それは…。カズキは驚愕の声をあげる。
「おいおい、君。なんてことするんだ。せっかくの美しい兄弟のツーショットが台無しじゃないか!」
「ソウマさんの横に顔を並べていいのは僕だけです。もちろん、先生のお隣にも」
「やれやれ」
カズキは顔を曇らせて、ユキヒトの丸く切り取られた顔写真を引きはがして、持ち主の手に握らせた。
持ち主は、乙女のような表情で、えへへ、と微笑んでいた。必殺、陽だまりスマイルだ。衣裳を着ると、性格まで映しこまれてしまうのだろうか?
「先生のお写真も用意してますよ?首のすげ替えっこできますよ」
「いや、けっこうだよ」
「…ぐすっ(泣)デートのときはお揃いにしようって、言ったじゃない!千歌音ちゃんっ、ひどいよぉ!」
「だから、いちいち、来栖川くんの声で弁解するのは や め な い か? だいいち、こんなことすると、タチの悪いファンが本気でまねしそうだから、やめたまえ」
たしなめるように言ってカズキは、DVD-BOXのほうに視線を落とした。
まじまじとそれを眺めつくしては、気になって気になってしかたがない、というふうに聞いた。
「それより、早く中を改めてもいいのかい?」
「どうぞ、ご自由に。もとより先生に、さしあげるものですから」
「献呈するものなら、ああいういたずらはやめてほしかったがね」
「いたずらじゃないですよ。僕は本気なんですから。なんせ、ソウマさんコレクションの姫千歌立て看板も、顔の部分をくり抜いて、ソウマさんとむりやり記念撮影したぐらいですから。ほら、よくあるでしょ、地方の冴えない観光地によくある、しけた顔出しパネル撮影です」
「ソウマが泣いてわめきそうな仕打ちだね。目に浮かぶよ」
「ああ、だいじょうぶです。立て看板は予備にもう一体買っていたそうですから。さすがです、ソウマさん。グッジョブ!」
ソウマがもはや巫女グッズのコレクターになっているという事実よりも、ユキヒトの無謀な要求のほうがカズキには、悩みの種だった。こめかみのあたりを人さし指で押さえながら、ようよう、唸るように声を絞り出す。きょうはもうなんど、こうやって呆れ返ったことか。
「…ああ、そうかい。じゃ、本題に帰ろうか。この品、とくと確かめさせて貰おう」
カズキはDVD-BOXのビニル包装を破り、ていねいに帯を外して、中身を開けた。CDが三枚。そしてブックレットが一冊同封されている。その表紙にあったのは、巫女服で抱き合っている美少女ふたり。
またしても、横あいからひょうきんな口がはいる。
「あ、これこれ。さっき言った立て看板の写真はね、これなんですよー。どうです、大神先生。巫女服着てるし、ぜひ僕とも記念に一枚」
「いや、遠慮しとくよ」
「ひどいよ、千歌音ちゃん。いっしょにいっぱい写真撮ろうって約束したじゃないッ!どうして遠慮しなきゃいけないのっ?! アルバムだって、まだこんなに残ってるのにぃ!」
姫子泣きまね状態のユキヒトは、またしてもどこから持ち出してきたのか知らんが、アルバムを見せびらかす。そこには、カズキやソウマの私生活を激写した極秘写真がかずかず収められているではないか。
「な、なんだね、これは! おい、ユキヒトくん?!いつのまに盗撮したんだいッ?!」
「僕のたいせつなコレクションですよ」
「まさか、さっきのCMに挿入されたカットはもしや」
「あ、おわかりですか?僕の秘蔵アルバムからこっそりとセレクトして…ちょ、先生? なに、するんですか?!」
カズキはユキヒトの隙を見計らって、アルバムを奪った。破り捨てようかとも思ったが、人の顔したものをむげに破くのも気がひけるので、思いとどまった。
「これは預かっておくよ。とりあえず私の写真だけ抜いて返す。ソウマには、のちほど了解を得たまえ。いまは個人の肖像権がうるさいからね」
「まあ、いいですよ。そのかわり、ふたりで新しく一枚撮りましょうよ。流出させたりしませんから。ね?」
「これ以上、君と不遜な想い出は残したくないよ」
目線をあわせないように、ぴしゃりと撥ね付けたので、まるで叱られた仔猫のようにしゅん、としてしまうユキヒトだった。これもどうせ、いつもの演技なのだろう。いいかげん、読者も飽きてきただろう。
アピールする隣の男を無視して、カズキはそのブックレットをひっくり返した。
【目次】神無月の巫女二次創作小説「大神さん家のホワイト推薦」