陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「大神さん家(ち)のホワイト推薦」(十九)

2009-05-25 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


「しかしだね、CMといっても、どうすればいい?私は、実物をまだ手にしてもいないのに」
「ああ、そうでしたね。それは、失礼」

ユキヒトはADから真新しいDVD-BOXをうけとった。それをカメラの前にほこらかにかざしてみる。

「ほら、皆さーん。これが、いま話題の神無月の巫女のDVD-BOXですよー。ほらほら、持っていない皆さーん、眩しいでしょ?ほれぇー、拝めぇー!愚民ども、僕のもとにひざまづけぇーっ♪」
「おいおい、印籠じゃないだろ、そんなにむちゃいきに振りかざして。持ってない人に自慢たらしいよ」
「でも、ありがたいものですよ。これを観れば、天国行きに三年は早くなることまちがいなし!」
「そりゃ、よけいに心臓に悪いじゃないか」



貴様ら、このDVD-BOXを買って、神無月いろに染まるんだ。染まれぇーっ。染まれぇーっ、俺の色に染まれぇええええ──ッ!!(by 松本保典)
「そんなどこかのお兄さんみたいな、上から目線じゃ誰も買ってくれんよ」
「じゃあ、首に鎖つけてひっぱってでも。よぉ、よぉ、おまえらぁ、これゲットしてくれよぉ?しねーと俺がブンなぐるぞ、ゴルぁっ!…って脅してみましょうか?」
「そんな村の不良中学生みたいな乱暴なことはよしたまえ…どこかのシスターの雷が落ちるよ」

またしても、カズキはため息をつく。どうみても、さっきから弟子のオンステージである。今にはじまったことではないが。

「それになんだい、君ひとりが解説して宣伝するんじゃ、ここでの私は飾り物じゃないか? なんのために呼ばれたのだか」
「そんなことないですよ。ここからが正念場、先生のファイナルステージですよ」
「それは、どういうことかね?」
「はじめて、これを観た常識人の新鮮な反応を知りたいわけです」
「常識人ね…」
「そうです。なにも知らないウブな素人を玄人の粋へと育てあげる。これこそ、神無月マスターの醍醐味!」
「ユキヒトくん、いまの君、かなり目がアブナいよ…」



「ふふふ。あらあら、なにも知らない子羊ちゃんには、調教が必要なようね」
「ミヤコくんのモノマネもいらんッ!」

ユキヒトは、カズキにDVD-BOXを手渡した。
カズキはといえば、それをのべつくまなく裏表ひっくり返しては、感心したように眺めている。そこにはまるで、アナログに囲まれて暮らしてきた老人が最新型のPCに触れたときのような、慎重さと度を超した驚きがあった。



「ほほぅ。表は、姫宮くんと来栖川くんか。やはり、この美しいふたりが揃うと麗しいな」
「そうでしょう?藤井まきさんの美麗描きおろしです。でも、お楽しみはその裏なんですよ」

ユキヒトに促されて、ジャケットを裏返したカズキはあっと、驚きの声。
数秒遅れて口をついて出た言葉は、嬉しさなのか、悔しさなのか。両方ともとれる。

「ソウマと…ツバサくんじゃないか」
「そうですね、ひどく仲のいいご兄弟で(氷点下の声)」
「ああ、まったく。このふたりもまた巫女とおなじで、悲しい運命に人生をもてあそばれて、別れたふたりだったからね。ふたり揃っての写真は、本人たちも願ったりかなったりだろうな」
「しかし、なんで、すっぱり脱いでないんでしょうね? ソウマさんの十八番なのに
「いくらなんでも、こんな晴れがましい場所に、公然猥褻罪はいかんだろう。さいきんは厳しいからね、草𦿶なんとかの例をひきだすまでもなく」
「そうですか~。ケンシロウとか紫龍は、すぐ脱いだのに?」
「昭和のアニメといっしょにしないでくれ」
「それで、先生はこちらに載らなくて、悔しくないですか?」
「いや、いっこうに」

ユキヒトは腹に一物ありそうに声を潜めて、たずねた。カズキの答えは早く、簡潔すぎた。わざと腹の底を探られぬように、短く言葉を切ったようにも思われる。

「そうですか。では、見ててくださいよ。こうすれば、アラふしぎ!ジャケット絵がもっとすてきに生まれ変わる」

ユキヒトは巫女服の胸元からとりだしたものに目を移し、カズキはまたしてもいやな予感を抱えていた。


【目次】神無月の巫女二次創作小説「大神さん家のホワイト推薦」

 


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