陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

平成アニソン大賞

2019-03-21 | 芸術・文化・科学・歴史

数年前に日本のアニメ百年記念だったとかで、NHK企画の「あなたが選ぶアニメベスト100」という番組がありまして。(NHK企画「あなたが選ぶアニメベスト100」)上位層にはかなり特殊な組織票が大量だったかと思われる作品が並んでいたものでした。マイナー作の愛好者はもともと支持基盤が弱いので、こういう一般層向けの投票形式のものについては諦めているものですが、たまにマニア受けがいいのか、雑誌などで自分の好きな作品がとりあげられたりすると、すこし嬉しくなりますよね。自分の好きなものが世間様にいくばくかの評価があるからといいまして、ファンの人生に実利益があるわけではないのですが(微苦笑)。

毎年年度末は、アカデミー賞受賞の話題。
この平成年間は、アニメーション作品数が増え、劇場公開も増え、自治体の宣伝誘致に利用されたり、商品コラボもあったりで、アニメ作品の楽しみ方のすそ野がひろがったと言えます。私が子どもの頃は、偏見があってか、あんまり公言できなかったものですが。カラオケでアニソンは恥ずかしくて歌えなかったですね。

そのアカデミー賞と同時期に発表され、ネット上で話題になったのが「平成アニソン大賞」。
新聞などでは報道されなかったので、例によってSNS上でバズっただけで、数日すると誰もが忘れているだろう、悲しい話題です。

平成アニソン大賞とは。(公式サイトhttps://www.anisong-taisho.jp/
「平成を彩ったアニソンを讃えたい!」という意志のもと、有志の選考委員とユーザーがノミネート楽曲を発表。ノミネート楽曲を収録した MIX CD「平成アニソン大賞」も発売予定、というおもしろい企画です。選考委員の日本放送アナウンサーの方って、「このマンガがすごい!」賞の選考でもおなじみの方ですね。

このアニソン大賞は、平成を10年ごとに三区分して、作品賞、作詞賞、作曲賞などの各部門賞をもうけています。さらにその上に、平成31年の全期間で「平成時代を象徴する楽曲」をセレクトして、平成アニソン大賞としてグランプリを発表。

さて、皆さん。
まずはこの平成アニソン大賞の作品、なんだと思いましたか?
たぶん、誰もが「新世紀エヴァンゲリオン」とか、「魔法少女まどか★マギカ」とか「進撃の巨人」とか、ガンダムシリーズとか、「ラブライブ!」とか、あるいは映画のヒット作の「君の名は。」の主題歌だとか思いますよね? もちろん、それらは各部門賞にきちんと名を連ねているんです。巷間にぎわすほどの話題作でありましたから。しかし、それらをおさえて、意外な作品が大賞受賞しているんですね。

今回の大賞作、ひとつは、「残酷な天使のテーゼ」。
そう、カラオケで一番歌われるアニソンの名曲です。高橋洋子さんが歌う「新世紀エヴァンゲリオン」のOPで、一度聴いたら誰もが脳に残るあの出だしの歌い口が絶妙な。この楽曲は1989年‐1999年間の作品賞も同時に受賞しています。

そして、もうひとつの大賞作が。
「Agape」(eには発音記号マクロンがつきます)。テレビアニメ「円盤皇女ワるきゅーレ」の主題歌・劇中歌。歌手はメロキュアという女性ヴォーカルユニット。シンガーソングライターの岡崎律子さんと日向めぐみさんのコンビです。残念ながら、岡崎さんは2004年にご病気のために若くしてお亡くなりになっています。アニメソングのみならず、CM曲など一般向けの作曲も手掛けられていたので、どこかで一度は耳にした曲があるのかもしれないですね。

現在は、日向さんおひとりでメロキュアとして活動なさっています。
こちらが、歌手ご本人さま受賞報告。




審査員のおひとりからは、こんな声が。
流行り廃りが激しくて、ネット上の爆発的な数字の浮き沈みに左右されやすい時代にあって、後世に語り継ぎたい名作、名曲を訴えたいという健気さ、多くの人に伝わったのではないでしょうか。





この「円盤皇女ワるきゅーレ」は、銭湯を経営する男子高校生がUFOの墜落で死亡。宇宙人で皇女のヒロインが主人公少年にキスで生命を分け与えたことからはじまる、ドタバタラブコメディ。少年ガンガン誌に長らく連載され、OVAをふくめて四度にわたってアニメ化された有名作で、当時「鋼の錬金術師」と並ぶ人気があったとも言われています。そして、その原作者はおなじく人気作の「鋼鉄天使くるみ」や、一部マニアックな百合界隈に熱烈な支持者がいて、最近では伝統ある『SFマガジン』の百合特集でも紹介されていた「神無月の巫女」の生みの親である、あの漫画家さんですね。






「円盤皇女ワるきゅーレ」のアニメーションディレクターで、スペシャル版の監督で参加していたのが、柳沢テツヤ監督。キャラクターデザインは藤井まきさん。そして、メカデザインは故・村田護郎氏。シリーズ構成の月村了衛氏はアニメ「少女革命ウテナ」の脚本としても知られていますが、現在はSF小説家として活躍されていますよね。私はこの作品「円盤皇女ワるきゅーレ」をリアルタイム視聴したことがなくて、しかもその後も原作の一部しか知らない程度(「神無月の巫女」の前世の姫子と千歌音が、コミックス七巻でゲスト出演しています)なんですが。のちに「京四郎と永遠の空」でも、敵方の絶対天使としてキャラクターが転生していたりします。

この「Agape」、歌い出しの英語と、明解な日本語フレーズとの絶妙な組み合わせ。
歌詞は日本語の文章としては切れ切れで意味がなさないことが多いのですが、この曲は縋りついてくる感じがありますよね。そんなに複雑な構成でもないのに、リピートしたくなるような爽やかさがあります。美しい透明感のある歌声です。逆にいうと、太くてドライな歌声が好きな人には敬遠されるでしょう。アニソンといいますか、トレンディドラマの曲っぽいですよね。とにかく人気だったらしくて、主演声優の緒方恵美さんもカバーして歌っていたりします。(そういえば、大賞作どちらも主演でしたね(驚))






今回の平成アニソン大賞、審査員が男性ばかりではありましたが、各年代わりとバランスよく選曲されているように感じました。
「少女革命ウテナ」とか、紅白出場の田村直美さんの「ゆずれない願い」とか。1990年代に子ども時代だったひとには懐かしい反面、平成生まれ世代にはすでに古くさく思えるものもあるでしょうね。個人的には、正統派の闘うヒロインの最後の良心作だった(?)というべき「魔法少女リリカルなのは」シリーズのOPとED曲がノミネートされているのは嬉しいですが、こちらもいまだ衰えぬ声優さん人気もあってのことでしょう。芸術選奨受賞の水樹奈々さんはいわずもがな、甘い歌声とギャップのある役柄もこなせてファンの多い田村ゆかりさん。ほかにはアニソン・ゲームの歌姫として知られるKOTOKOさんも、ランクイン。

アニメ自体の作風や一部のエピソードが衝撃的すぎて苦手ではあっても、楽曲は好きというものは多いものです。最近、とある人気女性ユニットの解散(NHKの歴史番組の主題歌を歌ったあの3人)が報じられたばかりですが、惜しいですね。高中低に分かれた厚みのあるハーモニーがよかったのに、残念です。

それにしても、平成が終わるというこの時期に発表されたアニソン大賞。
大賞作にわざわざ「無償・無限の愛」を意味する歌を掲げた主催側の意図には、人間の想いがあまりにも数値化されすぎてしまった現代への異議申し立てがあるのかな、なんて考えてしまいます。

ノミネート曲は権利関係の都合上なのか、一部をのぞき、CDとして販売されるそうです。フルコーラスではないのがやや残念ではありますが。

好きな曲や作品が時代を代表しても、しなくても、それが誰かのこころに残れば名作なのです。



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