散歩と俳句。ときどき料理と映画。

『PLAN75』

耳の悪いワタシはウチでは字幕の出る洋画しか観ないのだが、
『PLAN75』が観たくて集音器を試してみた。
なかなかいい。室内の物音も響くが、静かにしていれば問題はない。

映画はピントをずらして撮影された施設の廊下の描写から始まる。
ぼやけた人工的な灯りと惨劇。
そして主人公(倍賞千恵子)が見つめる夕陽の描写で映画は終わる。
超高齢化社会となったこの国が、75歳以上の世代に安楽死を提供する
PLAN75というシステムを巡って映画は展開する。
主要な登場人物は高齢者ふたり、システムの中で働く若者ふたり、
そして病気の子どもを抱えてフィリピンから出稼ぎにきている若い母親の5人である。
街や施設のいたるところに掲示されたPLAN75への誘いの中で、
行き場を失った高齢者たちはしだいにこのシステムに誘導されていく。

一度はこのシステムに申し込んだ主人公だが、そこから逃れた後の彼女に、
どのような希望もないのは言うまでもない。
それでも社会が用意するシステムとしての〈死〉を拒否する彼女の姿勢に、
ワタシはかすかな希望の萌芽を読み取る。
そして、昨年安楽死を選んだゴダールのことをふと思い出したりもする。

高齢者の集団自決を提案する成田□-◯メガネや、
それを支えるように擁護する旧2そして4チャンネル主催のクズ、
少し前には腐ったようなトロンとした目つきの落合、古市などが
マスコミでなんの批判も受けずに大きな顔で出てくる現在のこの国のありようは、
PLAN75のシステム化までほんのわずかな距離しかない。

映画冒頭の惨劇=高齢者の集団殺戮は、
当然7年前の津久井やまゆり園の「知的障害者」殺戮を思い起こす。
さらに言うならかつての東京都知事石原の、障害者施設を訪れたさいの発言
「あれで人間と言えるのだろうか」の記憶も蘇る。

静かなデストピアとでもいうべき映画『PLAN75』は早川千絵の長編第一作。
マンガや小説の映画化が多いなか、オリジナル脚本というのもまた魅力である。

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