所作(踊りね)です。
もともとは「葦屋道満大内鑑(あしやどうまん おおうちかがみ)」というお芝居の一部分です。
お芝居自体は、今は後半の「葛の葉(くずのは)」という部分だけが出ます。
この所作の部分は、前半にあたります。
ここまでのお話をざくっと書くと、
平安期の話です。
主人公の「安倍保名(あべの やすな)」は、
天文博士の「加茂(賀茂)保憲(かもの やすのり)」の弟子です。
「天文博士(てんもんはかせ)」というのは宮中の役職です。
天体観測もしましたが、星の動きで吉兆を占ったりもしました。
学者でもあり、一般人には理解できない専門知識をあやつる超自然的なな存在でもあります。
「保名」は師匠の「保憲」の死後の後継者争いにまきこまれて陥れられ、破滅します。
恋人の「榊の前(さかきのまえ)」が自害して保名の無実を訴えます。
目の前で恋人に自殺された保名は気が狂い、榊の前の打掛を身にまとって野をさまよいます。
この、「物狂(ものぐるい)」と呼ばれる場面が独立して所作)しょさ、踊りね)となったのが、
この「保名」です。
ていねいに出すと、保名を探す悪人の石川悪右衛門と、その手下の様子が出だしに付き、
最後は手下たちとの立ち回りになって終わるのですが、
今はこの部分は出さないことが多いようです。
悪右衛門がセリフで「葛の葉がどうこう」と言うのですが、そもそもお芝居の順番だと葛の葉はまだ出ていないはずなので、
悪右衛門は出さないほうがよかろうとワタクシも思います。
恋人が死んで気がふれてさまよう男性の踊りはいくつかあります。「二人椀九」「江島生島」、
今は出ない「三十三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどう むねぎのゆらい」の「平太郎物狂(へいたろう ものぐるい)」などです。
その中でも、保名は平安貴族であり、かなりの教養人ですから、恋人が恋しくてウジウジさ迷っていても、
やはり、貴族らしい高貴さや凛とした雰囲気は持っていてほしい踊りです。
この踊りは、いいのになかなか当たれません。
大きい動きのない踊りなので、上手いかたじゃないとダメなのですが、
まず、女形(おんながた)の役者さんがやると、ナヨナヨしすぎてしまいます。
立役から出ると、バタバタして品がなくなってしまいます。
ビミョウなバランスが本当に難しいのです。しかし、はまれば本当に美しい絵になります。
いいの見たいです…。
清元の語りで舞いますが、歌の文句は原作とはかなり違うものになっています。
原作のは、普通に恋人を慕う内容の文句ですが、「保名」のは、遊女と客の関係になぞらえて恋の気持ちを語る部分があります。
基本的に、所作事はお座敷でも踊るので、遊郭の気分を出した文句が受けたのかもしれないです。
チナミに、原作の「物狂い」の部分の文句の一部は、能の「花子」(歌舞伎の「身替座禅」です)から取られています。
ってこれはこの舞台とは関係ない情報です。
踊り自体は、保名が蝶とたわむれながら悲嘆にくれているだけですので、
なんとなく前後の事情に思いをはせながら、絵面の美しさを楽しんでいただければと思います。
一応今後の展開を書くと、死んだ榊の前は、加茂保憲の実子ではなく、養女でした。
実親の「信太庄司(しのだの しょうじ)」にはもうひとり娘がおり、この「葛の葉(くずのは)」は、姉の「榊の前」にそっくりでした。
保名は葛の葉と出会って正気に返り、その優しさに触れて恋に落ち、結婚の約束もします。
直後に悪役側の石川悪右衛門が狩って殺そうとしていた狐を助けるのですが、
追ってきた悪右衛門に攻撃されて重傷を負います。
狐が葛の葉に化けて保名を助け、狐を本物の葛の葉と信じた保名は、そのまま狐の葛の葉と5年間暮らして、子供も生まれます。
あとは、「葛の葉(くずのは)」に詳しく書いたのですが、
庄司夫婦とリアル葛の葉が尋ねてきたので狐の葛の葉は信太の森に消えます。
一行は狐の葛の葉を追い、最後の別れをします。
狐と保名の間の息子は狐の神通力もあって非常にかしこく、
最後に、加茂保憲の後継者にしてもらい、成長して有名な、あの「安倍清明」になります。
=50音索引に戻る=
もともとは「葦屋道満大内鑑(あしやどうまん おおうちかがみ)」というお芝居の一部分です。
お芝居自体は、今は後半の「葛の葉(くずのは)」という部分だけが出ます。
この所作の部分は、前半にあたります。
ここまでのお話をざくっと書くと、
平安期の話です。
主人公の「安倍保名(あべの やすな)」は、
天文博士の「加茂(賀茂)保憲(かもの やすのり)」の弟子です。
「天文博士(てんもんはかせ)」というのは宮中の役職です。
天体観測もしましたが、星の動きで吉兆を占ったりもしました。
学者でもあり、一般人には理解できない専門知識をあやつる超自然的なな存在でもあります。
「保名」は師匠の「保憲」の死後の後継者争いにまきこまれて陥れられ、破滅します。
恋人の「榊の前(さかきのまえ)」が自害して保名の無実を訴えます。
目の前で恋人に自殺された保名は気が狂い、榊の前の打掛を身にまとって野をさまよいます。
この、「物狂(ものぐるい)」と呼ばれる場面が独立して所作)しょさ、踊りね)となったのが、
この「保名」です。
ていねいに出すと、保名を探す悪人の石川悪右衛門と、その手下の様子が出だしに付き、
最後は手下たちとの立ち回りになって終わるのですが、
今はこの部分は出さないことが多いようです。
悪右衛門がセリフで「葛の葉がどうこう」と言うのですが、そもそもお芝居の順番だと葛の葉はまだ出ていないはずなので、
悪右衛門は出さないほうがよかろうとワタクシも思います。
恋人が死んで気がふれてさまよう男性の踊りはいくつかあります。「二人椀九」「江島生島」、
今は出ない「三十三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどう むねぎのゆらい」の「平太郎物狂(へいたろう ものぐるい)」などです。
その中でも、保名は平安貴族であり、かなりの教養人ですから、恋人が恋しくてウジウジさ迷っていても、
やはり、貴族らしい高貴さや凛とした雰囲気は持っていてほしい踊りです。
この踊りは、いいのになかなか当たれません。
大きい動きのない踊りなので、上手いかたじゃないとダメなのですが、
まず、女形(おんながた)の役者さんがやると、ナヨナヨしすぎてしまいます。
立役から出ると、バタバタして品がなくなってしまいます。
ビミョウなバランスが本当に難しいのです。しかし、はまれば本当に美しい絵になります。
いいの見たいです…。
清元の語りで舞いますが、歌の文句は原作とはかなり違うものになっています。
原作のは、普通に恋人を慕う内容の文句ですが、「保名」のは、遊女と客の関係になぞらえて恋の気持ちを語る部分があります。
基本的に、所作事はお座敷でも踊るので、遊郭の気分を出した文句が受けたのかもしれないです。
チナミに、原作の「物狂い」の部分の文句の一部は、能の「花子」(歌舞伎の「身替座禅」です)から取られています。
ってこれはこの舞台とは関係ない情報です。
踊り自体は、保名が蝶とたわむれながら悲嘆にくれているだけですので、
なんとなく前後の事情に思いをはせながら、絵面の美しさを楽しんでいただければと思います。
一応今後の展開を書くと、死んだ榊の前は、加茂保憲の実子ではなく、養女でした。
実親の「信太庄司(しのだの しょうじ)」にはもうひとり娘がおり、この「葛の葉(くずのは)」は、姉の「榊の前」にそっくりでした。
保名は葛の葉と出会って正気に返り、その優しさに触れて恋に落ち、結婚の約束もします。
直後に悪役側の石川悪右衛門が狩って殺そうとしていた狐を助けるのですが、
追ってきた悪右衛門に攻撃されて重傷を負います。
狐が葛の葉に化けて保名を助け、狐を本物の葛の葉と信じた保名は、そのまま狐の葛の葉と5年間暮らして、子供も生まれます。
あとは、「葛の葉(くずのは)」に詳しく書いたのですが、
庄司夫婦とリアル葛の葉が尋ねてきたので狐の葛の葉は信太の森に消えます。
一行は狐の葛の葉を追い、最後の別れをします。
狐と保名の間の息子は狐の神通力もあって非常にかしこく、
最後に、加茂保憲の後継者にしてもらい、成長して有名な、あの「安倍清明」になります。
=50音索引に戻る=
久々にお伺いしましたら、
コメントをいただいていましてビックリしました。
あの映画は50年ほど前のもので
タイトルには「清元志寿太夫」とありました。
声音だけでおわかりなんですね。
振り付けは「六世 藤間勘十郎」でした。
六代目尾上菊五郎の動画がありました。
http://www.youtube.com/watch?v=ufzByfTY3oA
鏡獅子 六代目尾上菊五郎
http://www.youtube.com/watch?v=GSe7_QtQr0A
御小姓弥生後に獅子の精 六世尾上菊五郎
胡蝶 尾上しげる(西川流家元二世西川鯉三郎)
胡蝶 尾上琴次郎(尾上流家元初代尾上菊之亟)
小津安二郎監督 1935年製作
名優のおどりが残っていて、
今でも観ることができて感激です。
これは貴重な文化遺産ですね。
突然のおじゃま、失礼いたしました。
コメントありがとうございます。
貴重な映像ですね!! 初めてみました。本当にありがとうございます。
映像そのものは、やはり映画の1シーンなのですね。
踊りというよりもお芝居に近い印象ですねー。
この、お芝居になっている部分を踊りで表現するのが難しいのでしょうね。
六代目が、「踊りは、なぜそう踊っているのか見るひとにわかるように踊るのがいいでしょう」というようなことを言っていて、
まさに踊りの難しいところはそこだなと思わせます。ある意味踊りというものの難しさを本質的に言い表しているように思います。
動きはとてもきれいだと思いました。
おけいこした通りにていねいに踊ってらっしゃる、という意味で、六代目はOKを出したのではないかと思いました。
足元が多少でこぼこしていて足さばきがたいへんそうなのは、映画だからしかたないですが残念ですねー。
そして、清元が、なくなった志寿太夫でしょうか。
聞きほれますね。
本当にありがとうございますー。
はじめまして。たんぽぽと申します。
歌舞伎の解りやすい解説を楽しませていただいています。
「保名」の踊りは六代目菊五郎が手を加えて今の形になったそうですが、
(うろ覚えです。)
その六代目の養子「大川橋蔵」(六代目の薫陶を受けた)が映画で撮った映像があります。
「恋や恋なすな恋」で監督の内田吐夢氏は生前の六代目の「保名」を
リアルタイムで観ており、この映画を撮るにあたり、
事前に「橋蔵」に「保名」を踊らせてOKがでたとのことです。
「橋蔵」の「保名」は歌舞伎見物さまのお眼鏡に叶うでしょうか。
http://www.youtube.com/watch?v=3v1vqw3WoL8
他にも「雪之丞変化」では「宮島のだんまり」「鷺娘」を演じています。
失礼を省みず投稿させていただきました。