歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

「東海道中膝栗毛」 とうかいどうちゅう ひざくりげ

2009年12月11日 | 歌舞伎
同名の江戸時代の人気読み物の歌舞伎化作品です。

お芝居には関係ないですが「膝栗毛」の意味を書いておきます。
「栗毛」というのは馬のことです。栗毛の馬は、お侍が乗るようなすごくいい馬のイメージです。
そんな馬に乗って旅をしたら楽だし楽しいでしょうが、庶民には無理です。
でも、自分の足(膝)なら自分の思いのままです。どこにでも行けます。しかもタダ!!
なのでタイトルは、自分の膝を栗毛の馬の代わりにして、気ままに東海道を旅する、みたいな意味です。

初演は江戸末期で、主演は三代目仲村仲蔵(なかむら なかぞう)です。
おお受けして、その後も複数の役者さんが次々にこの作品を舞台化しましたが、やはり仲蔵のが一番だったようです。

今出ているのは戦前の人気シリーズだった、先代の市川猿之助(猿翁)と六代目大谷友右衛門とのコンビの作品が原型かと思います。
これもとても人気もあり、何シリーズも作られ、日本全国を旅しました。
原作の「膝栗毛」も今は文庫だと大阪に付いておしまいですが、じっさいは日本中を旅しています。
歌舞伎のこのシリーズは、時代が戦前なので満州編までありました。

今出る「膝栗毛」はそこまでハジけてはいなくて、普通に原作の第一巻の前半のあたりを中心として、
有名な五右衛門風呂底踏み抜き事件とか、イタコ口寄せの場面とかその夜のモロモロとか、狐に化かされ事件とかを出す、と思います。
大阪の宿での富くじさわぎまでは行かないと思います。

イタコさんのシーンはイタコのばあさん役がうまいかただとてもおもしろいのですが、
セリフがわかりにくいかなと思うので説明を書いておきます。

弥次さんが宿屋に泊まり合わせた旅のイタコさんに、死んだ奥さんを呼び出してもらいます。
奥さんは貧乏なまま死んだので弥次さんを恨んでいます。
冬になっても、いつも綿入れどころか裏地のない単(ひとえ)の着物ばかり、寒くてしかたなかった。
ああ、裏欲しやうらほしや(うらめしや うらめしや)。

こんだけの事ですが、当時は大笑いのところだったので同じノリでセリフ言うと思いますが、お客さんは意味わからなくてきょとん、な可能性があるので書いておきます。

お芝居には関係ないですが、この「死んだ奥さん」という設定も行き当たりばったりでして、
原作のシリーズの後半には江戸を発つ直前のエピソードが挿入されているのですが、ここでは弥次さんには奥さんがいたことになっていたりします。てきとうです。

あとはまあ、動きも派手ですし有名なエピソードが多いですし、ストーリーというほどのものはないと思うので
気楽に楽しんでご覧いただければいいと思います。

せっかくなので、初演の名優、中村仲蔵の言葉を書いておきます。

「こういうお芝居は、役者は笑わせようとしてやってはいけない。おおげさにバカっぽくしゃべったり、見るからに妙な格好や顔つきをしたりすると逆におもしろくない。
普通の顔の、普通の風体の男が、大真面目に、自分では気付かずに妙なことを言うから笑えるのだ。普通にやればやるほどおかしいのだ」

だそうです。勉強になります。原文のままじゃないのでだいたいです。

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