歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

「太刀盗人」 たちぬすびと

2015年08月13日 | 歌舞伎
狂言由来の作品です。「松羽目(まつばめ)もの」と言われます。
「松羽目もの」というのは、能や狂言を原作とする作品群のことです。
能舞台をイメージして舞台全面を杉の板で覆い、背景も板地に大きな松の絵が描かれた特徴的なセットを使いますので、
「松羽目もの」と呼ばれます。

この作品は狂言由来ですので、とてもおもしろく、また、内容もわかりやすいです。

「万兵衛(まんべえ)」さんは田舎のひとです。
訴訟のために都に来ています。
当時は訴訟したいことがあると、都まで来て訴えて何ヶ月もかける必要があったのです。
万兵衛さんの訴訟はすべて上手くいきました。思い通りです。やった!!

ちなみに当時の訴訟ごとと言えば、領地の境界線の話がほとんどだったと思いますので、
万兵衛さんは田舎のひとではありますが、相応の身分の人です。

今から田舎に帰る万兵衛さんなのですが、
おみやげに何か買って帰ろうと思って市場にやってきました。
今日はいい気分ですしお酒も飲んでいますよ。
そろりそろりと出かけます。

「九郎兵衛(くろべえ)」さんは、スリです。都のひとです。
市場は人が多いですから今日も何か盗もうと思っています。

お酒を飲んでいい気分ですよ。
そろりそろりと出かけます。

市場で色々商品を見て歩く万兵衛さんは、なかなかりっぱな太刀を履いて(はいて)います。
九郎兵衛はそれに目をつけます。
万兵衛さんのあとを付いていき、同じ店で同じことを聞きながら歩きます。

用心していた万兵衛さんですが、ついに太刀を盗まれてしまいます。
すぐに気づいて九郎兵衛を捕まえ、「ドロボウだ」とさわぐ万兵衛さんなのですが、
九郎兵衛もこれは自分の太刀だと言いはり、同じように「ドロボウだ」とさわぎます。
周囲にはどっちが正しいのかわかりません。

ここに「目代(もくだい)」が部下を連れてやってきます。
「目代(もくだい)」の職域の定義は時代によっていろいろ変わるのですが、
ここでは「お代官様」と同じと思っていいです。

事情を聞いて、仕事として決着をつけようとする目代。
万兵衛さんが「目代」がなんだかわからずにちょっとモメたり説明したりとかがあって、

さて、どちらが正しい持ち主か調べるために、双方に刀の名前や由来、刃紋の特徴などを尋ねます。

万兵衛さんはもちろんすらすらと答えます。
なんだかんだ言って教養がある人ですので、むずかしいこともすらすら言います。
しかし九郎兵衛も、万兵衛さんの言うのを横で聞いていて同じことを答えてしまうのです。

ここまずっと、盗人の「九郎兵衛」が「万兵衛」さんと同じセリフを言い続けます。
同じことを言っているだけですが、「繰り返し」にちゃんと意味があり、
それでちゃんとストーリーは展開していくところがとてもおもしろいのです。

ついに部下がカラクリに気付きます。
万兵衛さんの声が大きいので九郎兵衛は聞いて真似しているんだ!!

目代は小さい声で万兵衛さんに刀の寸法を言わせます。
九郎兵衛にも聞きますが、九郎兵衛は答えられません。

九郎兵衛がドロボウだとわかりました。

逃げていく九郎兵衛。追い回す目代たち。

おわりです。
平和なかんじで楽しいです。

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