放浪日記

刮目せよ、我等が愚行を。

万里の長城でラーメンマンに出会う(前編)

2004年11月26日 | 半死的中国旅行
さて、ここで問題です。
中国が生んだ偉大なヒーローと言えば?

劉備玄徳? 毛沢東? ブルース・リー? 
否!否!否!

中国を代表する世界のスーパースターと言えば…

美来斗利偉・拉麺男(ビクトリー・ラーメンマン)しかいないでしょ!
【PROFILE】
鬼首村出身。父・ソーメンマン、母・ソーニャの元に生まれる。
超人102芸を体得しており、百歩神拳、百戦百勝脚(中略)など多数の技を得意とする。
ヌンチャク、三節棍などの武器の扱いにも長けている。
自らが作り出した技として、機矢滅留・苦落血(キャメル・クラッチ)がある。


(参照)キン肉マン公式サイト


そんな美来斗利偉・拉麺男(以下、ラーメンマン)に会いたい!
パンダよりも魯迅よりもラーメンマンに会いたい!
我々の旅のもうひとつの目的とも言える願いだった。
中国旅行が決まってからというもの、「キン肉マン」そして「闘将!拉麺男」を穴が開くほど読み返し、なんとかラーメンマンの居場所のヒントをつかもうと不眠不休で努力したのだが、重要な情報はなにひとつ得られなかった。中国にいる、ということ以外は。
そんなとき、「キン肉マン7巻」を読んでいたにいやが叫んだ。
「見つけたぞ!」
「ど、どれだ!?」
噛み付かんばかりに近寄るしんたろー。
「これを見ろ」
それは第2回超人オリンピック開始直前の回だった。世界各地で修行する超人たちのなかにラーメンマンがいた。そしてそこは、万里の長城だった。
ラーメンマンは万里の長城にいる(かもしれない)!!




にいやのいびきで一睡もできなかったしんたろーは、真っ赤に腫れ上がった目を押さえながら、お粥、ザーサイといった中華風朝食を食べていた。隣には、目くそをこびりつけながら、まだ寝たりないのか大あくびをしているにいや。「いつか殺してやる」。もさもさの包子を頬張りながら、しんたろーはそう心に決めた。

天安門、北京ダックと北京名物を堪能した我々の心残りは、万里の長城だけだった。口の横に米粒をつけながら、にいやが言った。
「今日は、万里の長城に行こうと思う」
さきほどまでの怒りを忘れ、俄然やる気になるしんたろー。
「おお、ついに万里の長城か! で、どうやって?」
行き方についてはまったく考えていなかったにいやは、動揺を隠しながら「地球の歩き方」をパラパラめくり、
「どうやら北京駅から列車が出ているらしいぞ。『世界の車窓から』をやろう」とつぶやいた。


北京駅。
日本国内にいては、正月の明治神宮くらいでしか見ることができないほどの人込みのなかに我々はいた。内蒙古行きの列車が出ている北京北駅で体験した人の群れとはくらべものにならなかった。しかし幸いなことに、このときの我々は日帰りで万里の長城に行こうと思っていたので、軽装だった。夜逃げかと間違うくらいの荷物を抱えた中国人民の隙間をぬって動くことができた。修羅場をくぐってきた我々には、たやすいことだった。
いつものように、人民避けの術を使い、駅の切符売場まで行き、「去万里長城」と書いたメモを係員に見せるも、返ってくるのは「没有(メイヨー)」というつれない一言のみ。何度やっても同じことだった。
「俺たちは万里の長城に行くことはできないのか…」
そう落ち込みながら、手に持ったメモをしまうことなく、放心状態で駅前を歩いていると、
「チャンチョン? チャンチョン?」と、うすらヒゲを生やした、いかにも三下風の男が声をかけてきた。
「チャンチョン?」
意味不明の言葉を連呼する三下に我々の警戒モードは一気に上昇した。とりあえず怪しい奴は無視するに限ると、歩きすぎようとすると執拗に追いかけてきて「チャンチョン」を繰り返す。そしてにいやの手からメモを取りあげると、「長城」という文字を何度もなぞりながら「チャンチョン」と言った。
「こいつ、万里の長城のこと言ってるんじゃないか?」
にいやはしんたろーにそう言うと、とりあえず三下について行ってみようと提案した。しんたろーは、あからさまに嫌そうな顔をしながらも、うなずかざるを得なかった。
にいやがコクンと首を縦に振ると、三下は抜けた前歯さらけ出しの満面の笑みを見せ、にいやの手を引きながら、近くに停めてあった小型バスに向かって行った。


小型バスのフロントガラスには、大きな文字で「長城一日遊」と書かれており、車内には何組もの人民が乗っていた。文字から意味を推察するに、これは万里の長城1日ツアーのバスのようだった。
「チャンチョン」。三下は、バスの文字を指しながら、勝ち誇ったように胸を張った。
家族連れがいることで、このバスはまず大丈夫だろうとにいやは思った。にいやが、嫌がるしんたろーの手をつかみ車内に乗せようとすると、三下はしんたろーのお尻を押し、我々が乗車したのを見届けると、足早に去って行った。
車内には、家族連れと数組のカップル、そして我々。外国人は我々だけだった。
しばらくすると、三下が新たな客を引っ張ってきて、車に乗せ、また去って行った。三下はこの観光バスの客引きだった。にいやの持つメモをめざとく見つけ、客引きに成功したのだろう。
ともあれ、列車での長城アタックに失敗した我々にとって、このバスは渡りに船だった。
しかし、おそらく満員にならないと発車しないであろうバスのなかで、我々にできることは無言で座っていることしかなかった。


待つこと数十分、三下の頑張りのおかげでバスは満員になった。
すると、三下はさきほどとはうってかわって、厳しい面持ちでそれぞれの客からお金を集めはじめた。
値段を聞いていなかったので、ぼられるのではないか、三下の豹変ぶりに、にいやは迫りくる危機を感じた。
とっさに前の席に座っていた家族連れに声をかけ、このツアーの料金を尋ねた。
旅は道連れ、世は情け。筆談ではあったが、家族連れは、我々のメモに「1个人29元」と書いてくれた。さすが人民ツアー。安い、安過ぎる。2人分の旅費でも昨日の北京ダックが買えないくらいに安い。
三下は我々のところにやってきて、どれくらいボッてやろうという顔で言葉を発しようとしたとき、にいやは三下の目の前に、お釣りなしの58元ピッタリを突き出した。一瞬何が起こったか呆然とする三下。ニコリと微笑んで、中国元をさらに突き出すと、渋々受け取り、領収書を投げてよこした。今度は笑っていなかった。
前の席からは、家族連れの母親が振返り、ニコッと微笑みを投げかけてくれていた。


そして、我々を乗せたバスは、万里の長城に向かって発車した。


(続く)

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2 コメント

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この男達は実在する (町蔵)
2004-12-02 00:07:00
この『半死的~』は、自分のバイブル『お笑い・男の星座』(浅草キッド著)と、文章の根底に流れるスピリッツが似てるんですよ。

これからも「肉を切らせて骨を断つ」系の自虐的な笑いに期待大!です。



ところで、父がソ\ーメンマンってことは、あの超人は、ハ、ハーフ?

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町蔵さん (にいや)
2004-12-02 16:33:20
ありがとうございます。



「お笑い・男の星座」は僕もTV.Brosで連載中から楽しんで読んでいました。



これからも続々とUPしていく予定ですので、どうぞよろしくお願いいたします。
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