放浪日記

刮目せよ、我等が愚行を。

孔子の里・山東省曲阜の長寿麺

2004年11月02日 | 半死的中国旅行

山東省に曲阜という町がある。いまでは何の変哲もないただの田舎町だが、さかのぼること2000年、秦の始皇帝よりも前、中国がまだいくつもの国に分かれ、群雄割拠を競っていた時代には、魯という国の都だった。当時、この町には儒教の創始者である孔子が住んでいて、いまでも孔子一族の宮殿や孔子とその弟子たちの墓が残っており、世界遺産に登録されている。

北京滞在中、次の目的地を決めるとき、2人の意見は分かれた。
にいやは、まず曲阜に行き、中華の源流を模索したあと、中国大陸の母なる河である黄河に沿って西進し、開封・洛陽・西安という古代文明の都を巡ろうと言った。せっかく中国にきたんだから、中華思想の根元にある儒教が生まれた町を見てみたい。そこに行くことで何かが変わるかもしれない。そうにいやは思った。
しんたろーは、このまま北京に滞在し、帰国の日をおとなしく待とうと言った。「儒教?孔子?なんじゃそりゃ?食べ物?」しんたろーはそう思った。早く帰りたかった。

ただ、この旅のなかでの主導権は、圧倒的ににいやが握っていた。当然曲阜行きが決まった。

山東省の省都である済南からバスに揺られ数時間で曲阜に着いた。魯の時代から残る門をくぐれば、そこにはいにしえの都が広がっている、かと思いきや、ふつ~の中国の片田舎でしかなかった。
観光客もチラホラとしか見かけず、のんびりとした空気が町中によどんでいた。タクシーの代わりに輪タクしか走っていないことが、世界遺産の町を感じさせてくれる。ああノスタルジア。
観光地を巡ってみても、見つけるのは中国の神髄ではなく、壁に残された落書きやポイ捨てされたタバコの吸い殻ばかり。まさかこんなに退屈だとは思わなかった、とにいやは思った。こんなところにわざわざ連れてくるなよ、としんたろーは思った。にいやの立場がなかった。しんたろーの視線が痛かった。

こんなとき救ってくれるのは、やはり「食」。たぶん空腹だからそんなにイライラするんだよ、と2人はとある食堂に入った。メニューを見て、「よくわからないなあ」とつぶやきながらとりあえずビールを飲む。そのときにいやはメニューのなかに「長寿面」なるものを見つけた。
「面」とは中国語で「麺」の意味。孔子の里で長寿面だなんて、しゃれてるじゃないか、ガイドブックには書かれていなかったが、名物に違いないと信じ、注文をした。しんたろーは牛肉がのった牛肉面を頼んだ。
いや~やっぱり曲阜に来たんだから、長寿だよ。孔子を見習って、俺は長生きしちゃおっかな~、とご陽気なにいや。まずそうにビールを飲むしんたろー。機嫌はあまりよろしくなかった。
待つことしばし、湯気をたてて運ばれてきた面ふたつ。ひとつはおいしそうな牛肉がのっている。これはしんたろーの牛肉面に違いない。けれど、もう一方の椀にはなにものっていない。というか、スープも色がついていない。匂いもない。伸び切ったような白い麺が入っているだけだ。いやいや、でも味のほうはしっかりダシがきいているに……と、一口すすってビックリ! 味がない! スープと思った液体は何度飲んでもただのお湯。まさかオーダーを間違えたのでは、と店員に詰め寄っても、これが長寿面だと言い張るばかり。長生きしたけりゃ、これぐらいの素食をしろよ、と遠くの方から孔子様がつぶやいているような気がした。
あまりにも気落ちしたにいやを見かねて、満面の笑みを浮かべたしんたろーが、一切れ与えた牛肉のかけらが、長寿面の椀の中でプカプカ浮いていた。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
身内びいきじゃないけど (koko)
2004-11-02 19:16:47
こんにちは。

にいやさんの半死的中国旅行のほうが、転がる~より面白いよ。
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m(_ _)m (にいや)
2004-11-02 20:43:39
kokoさん、ありがとうございます。





これが実話っていうのが、悲しいんですけどね。



半死的中国旅行、もうちょっと続きます。

徐々にアップしていきます。

乞うご期待!!
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長生きするよ (しんたろー)
2004-11-02 22:43:28
ども!半死的中国旅行のもうひとりの主人公、しんたろー(本物)です。

もうちょっとと言わず、是非ともあの膨大なエピソードすべてを文章に残してほしいと願っております。

サンショウがいっぱい入ったなんとか豆腐もいい思い出です。



あ、単行本になった時には印税をスイス銀行に振り込んでください。

口座番号はもちろん56531(普通口座)で。
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おっと、 (にいや)
2004-11-03 16:12:05
しんたろー、56531ではなくて、56513では…?

それじゃあ、アイスクリームに…



とりあえず、コツコツ書いているので、しんたろーの意見もそれぞれの「半死的中国旅行」のコメント欄に書いてみてよ
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