第6章 夕暮れの帰り道 上
僕は生まれつきの方向音痴で、よく道に迷ってしまう。
子どもの頃に母の在所で昼過ぎから無軌道な散策に出掛けた時のことだ。
牧歌的な田舎の風景はみずみずしく、とても新鮮だった・・・村を流れる洗濯場を兼ねた川に下りると、ザリガニやメダカやフナ・・・その他にも名前を知らない生き物が沢山いて、幼い僕の好奇心は大いにくすぐられた。少し進むと牛とか馬もいて、驚きと喜びがどんどん加速していったのを覚えている。神社で地元の子どもたちが缶ケリをしていたので仲間にいれてもらった、ルールの違いに戸惑いながらも僕は時間を忘れて遊んでいた・・・だが5時か?5時半か?ウルトラマンの再放送の時間になると、彼らはそれぞれの家に帰っていってしまった。
僕も帰らなければ・・・『ここは何処?』・・・・・
方向音痴の上に土地勘が無く、楽しさのあまり無軌道に進んだ『行き道』――
どうやって帰ればいいのか?僕は心細さを押し殺し、不安な『帰り道』を歩き始めた。
田舎には街灯も無く、家も少ない・・・なのに神社や墓場は多い。
日が暮れてしまえば漆黒の世界が待っている。もうすぐ夜がくる、夕焼けが赤く染める田んぼ道を僕は走ったり立ち止まったりしながら『帰り道』を探した・・・昼間はあんなに優しかった田舎の風景は、日没に向かって刻一刻と風景と僕の心に恐怖の闇を増幅させていった。
いつの間にか僕は『行き道』には無かった雑木林に迷い込んでいた。
カラスの鳴き声や犬の遠吠えが聞こえてきたり、
ポツンとある茅葺屋根の民家からはお経が聞こえてきたり、
突然「ゴワ~ン」というお寺の鐘の音が鳴ったり、
人か?と思えば案山子だったり・・・
僕は夕暮れの恐怖に慄きながら無我夢中で帰り道を探していた。
――夜の帳が下りて僕の心を絶望が覆った時・・・「おい、テルアキどこ行ってたんや?」という柔らかい関西弁が聞こえた、オジサンが僕を見つけてくれたのだ。
僕は助かった・・・優しいオジサンと僕はカケッコで競争しながら家に帰った。
これが僕の怖いけど懐かしい少年時代の想い出。
「夕暮れの帰り道」。