山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

雲のワンポイント講座第23回 ~雨氷が発生するしくみ~

2024-02-26 17:10:37 | 観天望気
 

今回は、雲ではなくて、雨氷についてです。

今日(2024年2月22日)は、長野県中部で8年ぶりに大規模な雨氷(うひょう)が発生しました。

写真1 木に付着した雨氷

雨氷が発生するときは、停滞前線が日本付近に停滞するときが多いです。前線は暖かい空気と冷たい空気がぶつかる所にできますが、地上付近だけでなく、上空に向かって延びています。前線の北側では地面付近に冷たい空気が入る一方で、上空には暖かい空気が南から流れ込みます(図1)。

図1 雨氷が発生する様子(図の右側が北、左側が南)

前線の上空には暖かい空気があるので、落下してきた雪は暖かい空気を通る中で雨に変わり、それが地面に落ちていきます。一旦、雨に変わると、氷点下の空気を通っても余程低温になったり、長い間落下しない限り、再び雪に変わることはありません。

しかしながら、氷点下の中でかろうじて水滴でいる雨のため、木や草、地面などに付着するとたちまち凍り付いてしまうのです。それが雨氷です。

長野県中部では2016年に大規模な雨氷が発生しました(写真2,写真3)。

写真2(上) まるで雨氷の額縁(背景は蓼科山)/写真3(下) 雨氷に彩られた山

実際、今日の館野(茨城県)のエマグラムを見てみると(信州の近くには高層気象観測地点がないので)、上空2,500~3,000m付近に0℃以上の暖かい空気の層があり、そこを通ったときに雪が解けていることが分かります。また、その下の上空800~1,500m付近では、それより気温が低い空気の層があることが分かります。ヤマテンのある長野県茅野市は高原になっているので、標高800m~1,200m付近に氷点下の冷気があり、標高1,500m付近の八ヶ岳山荘では今朝3℃位と山麓より暖かく、黒百合ヒュッテや高見石など標高2,000m以上でも雨になりました。雨氷が出現する条件が揃っていたことが分かります。

次はいつ発生するのでしょうか?また、出会えることを期待しています。ただし、倒木や停電などの災害になることもあるので、ぬか喜びはできませんが・・・。

文、写真:猪熊

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猪熊隆之の観天望気講座198回 車窓からアルプスの天気を予想しよう ~特急あずさ・中央道編~

2024-01-19 14:23:24 | 観天望気

東京方面から八ヶ岳や中央アルプス、北アルプス方面に向かうとき、中央線の特急「あずさ」や中央高速道路を利用する方が多いと思います。実は、登山口に向かう道中の車窓からでも分かることが沢山あります。今回は、冬型の気圧配置が強まるときの天気です。

冬になると、日本列島の東側や北側に低気圧、中国大陸に高気圧がある冬型と呼ばれる気圧配置が多くなります。冬型と言えば、日本海側では雨や雪、太平洋側では晴れという天気が代表的ですが、冬型の気圧配置が強まると、北アルプスや御嶽では猛吹雪となり、中央アルプスや八ヶ岳、南アルプス北部でも吹雪となることがあり、稜線では暴風が吹き荒れます。したがって、そのような天気のときは、森林限界を超えるのは危険です。

図1 冬型が強まるときの気圧配置


冬型が強まるかどうかは、予想天気図で確認するのがおすすめです。図1のように、等圧線が日本付近でびっしりと走り、間隔が狭いときは冬型が強いときです。

冬型が強まるときは、特急「あずさ」では勝沼~塩山間で左手に見える南アルプスの山並みに注目します。中央道では、一宮御坂から甲府昭和IC間でほぼ正面に見える南アルプスに注目します。

写真1 塩山付近から西の方角の空。


写真1では晴れている日に見えるはずの間ノ岳や北岳、鳳凰山が雲に隠れています。このような雲に白根三山や鳳凰山が覆われているときは、南アルプスの北部や八ヶ岳、中央アルプスでは吹雪いており、稜線では強風が吹き荒れています。北アルプスでは恐らく猛吹雪となっていることでしょう。

写真2 鳳凰三山~甲斐駒ヶ岳にかかる雲


韮崎を過ぎると左手に鳳凰三山が見えてきますが、写真2のように、山に雲がかかっているときは冬型が強いか上層の寒気が強い証拠です。いずれにしても山は吹雪いていると思った方が良いでしょう。鳳凰三山~甲斐駒ヶ岳でこのレベルだと、八ヶ岳や中央アルプスはもっと悪い天気になっているはずで、北アルプスは猛吹雪や大雪に見舞われることが多くなります。このようなときは、小淵沢付近から雪がちらつき、富士見駅付近では吹雪いていることもあります。

進行方向右側の席を取った場合には、八ヶ岳にかかる雲が参考になります。八ヶ岳にかかる雲から天気を推測する方法は、166回をご参照ください。

https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/31e7d862c5b21b5c161766de111cb9ea

富士山はこのようなときでも晴れていますが、上層の寒気が強いときは、写真3のように、富士山の山頂付近にモクモクとした雲が出ていることがあります。このようなときは、関東平野でも午後、天候が急変する恐れがあります。実際、この日は午後から天候が急変し、都心でも初雪になりました。

写真3 富士山にかかる“やる気”のある雲


また、富士山で東側にたなびいている雲(旗雲 はたぐも)が出ているとき(写真4)は、暴風が吹き荒れている証拠です。このような日は晴れていても上部で行動することは非常に危険です。

写真4 旗雲が出ているときの富士山


車窓からの風景で、このように目的の山の天気が推測できます。ぜひ、活用して安全に登山しましょう。
文・写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

観天望気講座197回 寒冷前線の接近、通過に伴う雲の変化

2023-12-24 14:36:57 | 観天望気

今回取り上げるのは寒冷前線と呼ばれる前線が接近して通過していく際の雲の変化について見ていきます。

 

まず寒冷前線とは、暖かい空気と冷たい空気の境目で、前線の周辺では狭い範囲ですが天気の急変をもたらすような積乱雲(せきらんうん)と呼ばれるタイプの雲が発生しやすい場所です。この寒冷前線が近づいてくると、晴れていた空が急に暗くなり、ザっと雨や雪が降ってくることがあります。

 

この日の天気図を見てみましょう(図1)。北海道付近に低気圧があり、低気圧から南~南西方向に伸びている青いラインが寒冷前線と呼ばれる前線です。

 

図1 11月28日6時の天気図(赤矢印の先が写真の地点)(気象庁提供、ヤマテン加筆)

写真1 ヤマテン事務所周辺から見た西の空

写真2 ヤマテン事務所周辺から見た北西の空

寒冷前線が接近してくる前は、まだ青空が多いですが(写真1)、寒冷前線の接近に伴い、北西の空には雲が広がり始めています(写真2)。

 

写真3 尾流雲が見られるようになる(白い囲みの部分)

寒冷前線が接近してくるにつれて、西や北から雲行きがさらに怪しくなってきました。白い囲みの部分では、レース状のモヤモヤした雲が見られていますが、これは尾流雲と呼ばれ、雲から落ちてくる雨や雪が地上に達する前にできたもので、地上に達する前に蒸発している様子が見えています。この尾流雲が見られると、そのあとに雨や雪が降ってくることが多く、尾流雲が地上に達すると降水雲と呼ばれます。

 

図2 11月28日9時の天気図(赤矢印の先が写真の地点)(気象庁提供、ヤマテン加筆)

写真4 尾流雲から降水雲になり雨が降り出す

図2の天気を見ると、まさにヤマテンの事務所周辺を寒冷前線が通過していくタイミングとなります。写真4は前線通過時の様子で、空は一面雲に覆われて、先ほどの尾流雲が地上に達し降水雲となり、このタイミングで事務所周辺でも雨が降りました。

 

図3 11月28日12時の天気図(赤矢印の先が写真の地点)(気象庁提供、ヤマテン加筆)

写真5 雨上がりの東の空には虹が

寒冷前線による雨や雪は降っても短い時間のため、天気の回復も比較的早いのが特徴です。12時には前線は東へ離れ(図3)、西の空からは日が差し込んできました。このタイミングで東の空にはキレイな虹が見られました(写真5)。寒冷前線通過後は、東の空に注目すると、キレイな光景が見られるかもしれませんね。

 

文:窪田純(株式会社ヤマテン)、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雲のワンポイント講座第19回 ~ジェット気流に伴う雲~

2023-11-28 16:41:46 | 観天望気

ジェット気流とは、ジェット機が飛ぶような高い空を吹いている強風帯のことです。風は南北で温度差が大きい所で吹くので、ジェット気流は、夏と秋の境目や、秋と冬/冬と春/春と夏など、季節の境目に現れることが多くなります。

 

今回、信州から名古屋へ向かう特急「しなの」の車窓からこの雲が見られました(写真1)。放射状に列を成して空に延びていて、鳥の羽根のような、なんとも美しい雲ですね。こういう雲を見かけると、「どうしてできたんだろう?」と山岳気象予報士としてはツイツイ調べたくなります。

 

写真1 車窓からジェット気流に伴う巻雲(けんうん)が見られた。

さて、ジェット気流の存在は、200hPa面(高度約11,500m)や300hPa(高度約9,300m)の天気図で見ることができます。今回は、300hPa面の天気図で見てみましょう。

 

図1 300hPa面の天気図

上図で、紫色の網かけの中で、色が濃い所がジェット気流がある所です。日本付近で2本に分かれており、ひとつは山東半島から朝鮮半島、日本海北部へと西から東に流れており、もうひとつは対馬海峡付近から瀬戸内海、名古屋方面へと流れています。暖かい空気冷たい空気の上を緩やかに上昇していくため、赤い等温線を横切るように、気温が高い所から低い所へ風が吹いている場所では、上昇気流によって雲ができやすくなっています。特に、ジェット気流付近のように気温差や密度差が大きい所では、気流が乱れるので、色々な形の雲が見られやすいんです。ジェット気流によってできる雲をジェット巻雲と言います。

 

そんなエリアを飛行機が飛んでいるときは、飛行機が揺れます。客室乗務員が「気流が乱れているところを飛んでいますので、シートベルトをお締めください。」などというときがそれですね。飛行機が揺れるときは、窓から雲を見ると、面白い雲が見られるかもしれませんよ。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雲のワンポイント講座 第18回 日射による雲の湧く場所の違い

2023-07-26 11:51:11 | 観天望気

南北に連なる八ヶ岳は、太陽の当たる向きによって雲の発生しやすい場所が違ってきます。特に夏場は強い日射によって地面が暖められることで、積雲(わた雲)と呼ばれる雲が発生します。

午前中は八ヶ岳の東面が強い日差しを受けるため、この積雲は野辺山や小海線側など八ヶ岳の東側で湧きやすくなります。

 

写真1 八ヶ岳東面に湧く雄大積雲

逆に午後になると西日を受ける八ヶ岳の西面、茅野や原村側で積雲が湧きやすくなります。

 

写真2 八ヶ岳西面に湧く雄大積雲

このように太陽の当たる向きによって、雲の湧きやすい場所も変わってくるのですね。

 

文:窪田純(株式会社ヤマテン)、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする