安蘇のやぼやま日記

両毛線沿線の山々を、ノンビリと歩いています。

「天はすべて許し給う」もイイ映画(1955年)

2010年09月04日 | 映画
 以前、NHKの衛星第2で、ダグラス・サーク監督の映画を5本放送したことがあり、すべて録画しておいたのですが、やっと又見ることができました。この映画も文句なしのイイ映画で、見終わったあとに幸せな気分で満たされるような、そんな映画でした。
 日本では劇場未公開ですが、その理由が分かったような気がします。主演のジェーン・ワイマンが、あまりにも地味なのです。配給会社が躊躇したのでしょう。

 未亡人であるジェーン・ワイマンが、自分の家の庭師に求婚され、小さな保守的な町は大騒ぎになります。未亡人は、大学生の娘もいる年齢、相手の庭師(ロック・ハドソン)は初婚で年下。ジェーン・ワイマン扮する未亡人は、いわゆる町の富裕層(イヤナ言葉だ)に属し、いまさら庭師と結婚してどうする気だというわけです。富裕層である町の社交クラブでの会話が面白いです。
「金もうけが人生の目的か」
「何が悪い。金をさげすむために稼ぐんだ」
こういった感じです。

 一方、ロック・ハドソン扮する庭師、及び、その仲間は実にイイ人達なのです。
 さりげなく置いてある本が、ヘンリー・D・ソローの「森の生活」。その中の一節が紹介されます。
(多くの人は絶望を秘めて生きている。人はなぜ成功を焦るのか。お金や地位があれば安心だと…)。
その答えは、庭師の友人の奥さんがつぶやきます。
「自分に正直に…」。

 ここでもテクニカラーの色が実にキレイなので、キャメラマンを調べて見ると「悲しみは空の彼方に」と同じラッセル・メティでした。ウーン納得。

 なおジェーン・ワイマンは、あのロナルド・レーガン元大統領の最初の奥様でした。これには、ビックリ。又ジェーン・ワイマンには、4度の離婚暦あり、そんなふうには見えないので、これまたビックリ!

 ロナルド・レーガンとの間にできた娘モーリーン・レーガンは、政治的な著作を出版し、有力な財団を組織したとありますから、幸せな人生だったのでしょう。ジェーン・ワイマンも、カリフォルニア州南部パームスプリングスの自宅で死去、90歳とありますから、これまた幸せな人生だったのでしょう。

「悲しみは空の彼方に」はイイ映画!

2010年07月15日 | 映画
 51年前に公開された「悲しみは空の彼方に」は、実にイイ映画でした。ある本を読む前だったら、この映画に注目することもなかったと思うのですが。その本とは、「映画に目が眩んで  口語篇」という本です。その中で蓮見重彦氏と山田宏一氏が、この映画の監督であるダクラス・サーク賛歌を繰り広げているわけです。
 ラスト葬列のシーンでは、感情をコントロールできなくなって、気持ちのいい涙を流してしまいました。人種差別の描写も強烈です。それが、単なるメロドラマとの違いかも知れません。主役はラナ・ターナー(ただただ美しい、チョットいやみな役ですが)、娘役、サンドラ・ディーとチョイ役のトロイ・ドナヒューは、この後「避暑地の出来事」で大ブレイクすることになります。この映画のトロイ・ドナヒューから、「避暑地の出来事」のトロイ・ドナヒューを誰が想像できたでしょうか?この映画のトロイ・ドナヒューは最悪です。恋人が黒人の娘と分かっただけで、立ち上がれないほどに、執拗に殴るのですが、その殴り方がハンパじゃないのです。凄まじい人種差別の告発です。
 この映画のカラーも、今のようにリアルじゃないかも知れませんが、好ましいものがあります。ダグラス・サークには、「風と共に散る」という映画もありますが、前述の二人は、この映画も泣ける映画で、もっと注目されていい映画とコメントしています。
 体調が悪くて、ブログの更新ができませんでした。昨年の9月頃異変に気づき、疲れて休日に山登りなど、全くできないのです。さらに、12月になると充分な睡眠をとることができず、睡眠導入剤と安定剤を服用するようになりました。それは、現在も続いています。でもこうして、ブログを更新しようとしているということは、少しは回復に向かっているのでしょう。悪くなるときは早くて、回復にはその何倍もかかってしまうのかも知れません。

モーターサイクル・ダイアリーズ

2008年02月04日 | 映画
 あのチェ・ゲバラの青春時代(医学部の学生だった時に、南米をオンボロバイクにまたがって放浪した)を描いた映画、まだ見ていない方には強力におススメします。チェ・ゲバラが裕福な医師の家庭に育ったこと。そして、○○正直な性格であり、頑固であり、曲がったことがキライであり、並外れた勇気の持ち主であり、人々を助けたい(この言葉はたびたび聞くことになる)と言いつつ、後に、歴史上に名をとどめる革命戦士に変貌していくだろうことが、リアリティをもって描かれています。
 
 リーダーたるもの、並外れた勇気がいかに大切か!(かつてチャップリンが映画の中で、人が生きていくうえで必要なものとして、勇気と想像力とわずかなお金と言っていたのを思い出しました。)
 今、日本で人々を助けたいといって医師になる人が何人いるでしょうか!

 ところで、こういった傑出した人物が生まれる背景には、母親の存在が大きいと私は勝手に思っています。チェ・ゲバラの母親も、ブエノスアイレスを旅立つ時、非常に印象的な表情をしていました(貴方はここにとどまるべきではない。世界に向かって羽ばたきなさいとでもいっているかのように!)
 
 ハンセン病患者の収容施設を訪れるシーンが印象的です。ビニールの手袋をはめるように言われるのですが、僕には必要ないと言って、素手で患者と握手するのです。
 又ラスト近く、チェ・ゲバラの施設内での感動的なスピーチがあるのですが、リーダーたるものスピーチもうまいです。

 チェ・ゲバラの実人生は若くして、銃殺されてしまうわけですが(ボリビアでの革命もうまくいかず、逃避行中)、同志であるカストロが権力の座に居座り続けるのとは対照的です。


歴史は夜作られる

2007年04月08日 | 映画
 ダンスシーンが今でも伝説的に語られている映画。たいへんな期待をもって見たが、それほどでもという感じだった。豪華客船が氷山に衝突する時の迫力などは、今見ても十分に鑑賞にたえる場面。そして、その前後の緊迫感を伴った映像はなかなかだ。しかし偏執狂的な海運王(ジーン・アーサーの夫)の描き方がどうもリアリティにかけて、私などはこんなのアリカヨという感じになってしまう。偏執狂的な人間がこんなに簡単に自殺してしまうだろうか!後世に語り継がれているダンスシーンもビックリするほど呆気なかった。

 シャルル・ボワイエはかなりいい。素晴らしいというべきか。まったくの適役といっていい。この人は、いつもゆったりした感じで慌てることがあるんだろうかと思っていたが、この映画では実にいい。

 それにひきかえ、ジーン・アーサーには不満だ。「シェーン」の時はあんなにも美しくつつましくつややかだったのに。シェーンに比べればかなり若いはずなのに、イマイチだ。でもこれは監督の違い、フランク・ボザージとジョージ・スティーブンスの演出力の違いかもしれない。

 期待が大きかっただけに少し失望したが、見ておくべき映画であることは間違いない。ややご都合主義的なところにはシラケるが!

赤い靴

2007年03月25日 | 映画
 私が生まれる前に製作された映画、公開当時大変な反響を巻き起こしたことは、想像に難くない。過去の名作と言われている映画であっても、今みると過去の遺物になってしまう映画もあるが、この映画は違った。ちょっと違和感を感じるところもあったが、例えばバレリーナのスタイル、公開当時はその素晴らしいプロポーションに日本人の多くは圧倒されたと思うが、今見ると、何か今の若い少女達のスタイルが良くなったせいか、もたついた感じに映ってしまう。

 それから導入部が長すぎる事。そしてバレーシ-ンも(このへんは意見の分かれるところか)。そして最後の唐突な終わり方。

 それにしても「赤い靴」開幕前の緊張感あふれる映像はどうだろう。見ているこちらにもその緊張が伝わってきて、こちらまで心臓バックン状態になってしまう。映像処理も斬新で、今見てもまったく古びていない。

 レルモントフ(バレー団主催者)を演じたアントン・ウォルブルックは怪演というか名演というべきか、この人のお陰でこの映画がより面白くなったのは間違いない。自分の育てたバレリーナに恋をしてしまうレルモントフ。しかしバレリーナが好きなのは「赤い靴」の若 き作曲者。自分の恋心を素直に告白できない可哀想なレルモントフ。可哀想なレルモントフは、恋の邪魔をする意地悪なレルモントフになってしまう。

 猪俣勝人の「世界映画名作全史」には、映画公開当時の凄まじい様子が書かれている。「延々たる行列が劇場を取り巻いており、2時間余りも辛抱したのち館内に入った。汗ぐっしょりの立ちん棒で、2時間以上のこの映画を見なければならなかった。」

 この映画、印象的な名台詞がけっこう多かった。レルモントフ曰く「バレーを何と心得ます」。パトロンのご婦人曰く「或る人はバレーは詩だと」。レルモントフいわく「私にはそれ以上のもので、信仰ともいえる」。この「信仰」という言葉があとで効いてくる。