from KASHIWA with SPIRIT

わかっちゃいるけど浮かれちゃう

『ネザーワールド-ロビン-』東佐紀/課題図書

2004-10-20 22:08:50 | 課題図書
ずいぶん間が空いてしまったが、久しぶりの課題図書だ。
今回は、『ネザーワールド-ロビン-』東佐紀著、集英社スーパーダッシュ文庫刊を俎上に上げる。あらすじ等はリンク先を参照されたい。
「第2回スーパーダッシュ小説新人賞」の佳作受賞作の世界観を引き継いだ2作目で、著者にとっては2冊目の著書、ということになる。
帯に大書された「冲方丁氏絶賛!」というコピーに釣られて手に取ったのだが、冲方氏は別に解説を書いているわけではない。帯コメントだけのようだ。

大まかに筋を言えば、少年と少女の冒険譚、なのだが、表題にある通り、本作の色を決定づけているのは物語が全て地下世界で進行すること。まさしく迷宮となった地下鉄網、巨大な地下都市。これらが物語を引っ張っていく。
ストーリーは王道・定番ではあるが、奇をてらわず、素直に進行することが、キャラクターやストーリーへの感情移入を妨げず、好感度は高い。素直に楽しむことができた。
人工の建造物でありながら、未だ未踏のフロンティア同然となっている地下世界というのも、いくらでも広がりを持たせることができる舞台だろう。

欠点もいくつか見られた。
最大の物は敵役の掘り下げ不足だろう。掘り下げが足りないせいで、敵の行動ひとつひとつに唐突感が漂う。終盤、事件の黒幕が冥土の土産よろしくペラペラと真相を話し出したのには興ざめだった。もう少し物語の進行に組み込んでいけなかったものだろうか。
もうひとつは、地下世界のエキスパートである主人公・ロビンと、さらに地下世界に精通している「地下鉄のクイーン」が揃って行動を共にしているがために、未知のはずの地下世界がまるで行動の障害にならないこと。単に整備された地下鉄網を利用しているだけのような感覚に陥ってしまう。せっかくどうとでも使える世界設定を生かし切れていないと感じた。

難点も確かにあるが、総体的には面白い作品だった。おすすめできる作品だと言える。キャリアを考えれば、この先伸びて行く余地は十分にある作家だろう。次作が刊行されれば、読んでみたいと思う。1作目も見つけて読んでみるつもりだ。