このように人生が流転するなどと、誰が予想できただろう。
母子家庭の貧乏な生活を送りながらも、
勉強が嫌いで、教師には反発してばかりで、
おまけに高校も中退し、
名もないブルーカラーとして社会に出た一人の痩せた男が、
やがてものを書くようになり、世界を知り、
ときに贅を尽くし、ときに欲望に囚われながら、
本を出し、多くの知己を得、
邸を持ち、邸を潰し、
借財に追われるようにして、
裏切られ、精神を病み、
それらを決死で乗り越えて、希望をつかみ取り、
今再びこの神戸に一人生きる。
ああ、人生は、だが、
まだはじまったばかりだという気がしてならない。
そうだとも。
ぼくには、まだまだ成さねばならないことが山のようにある。
ぼくには、まだまだ切り拓くべき地平が待ち構えている。
ぼくには、ぼくの人生は大勝利したと示さなければならない義務がある。
ぼくには、愛する人を幸福にする義務がある。
ぼくには、世界を知りたいという欲求がある。
ぼくには、人類千年先の行末を見つめたいという欲求がある。
ぼくには…、
まだまだ語り足りない思いがあふれるほどにある。
我が道は、洋々と開けている。
人生は深遠だ。
その思いはますます深くなる。
生命の究極にたどり着くまで、
それは夢かもしれないが、
ぼくは生きて生きなければならないと、
ぼく自身が叫んでいる。