横浜の「BAR BAR BAR」で、久しぶりに大野えりのジャズを聴いた。
数年ぶりだったろうか。
彼女は昨年、ニューアルバム「Seet Love」を発表。それこそ久しぶりのアルバムだったが、そのCDを聴いた夜、ぼくはあまりの興奮に眠ることができなくなった。
タイトルの「Seet Love」にはじまるそれは、「In Time of The Silver Rain(春の雨)」、「Bird's Song(歌えよ鳥)」、「Walkers With The Dawn(光の中へ)」、「La,La,La, You Are Mine(愛の歌)」と、その大半を大野えり自身が作詞作曲したものだった。
しかもニューヨークでの録音、トランペットでも参加している大野俊三がプロデュースするなど、超一級のジャズメンがサポートしたアルバムである。
もちろんぼくが興奮したのは、そうした演奏だけではなく、はるかに空へと突き抜ける大野えり自身の歌に対してであった。
彼女はそのすべての録音を、テイクワンでクリアしてしまったという。
何よりもその歌を、生で聴きたかった。
ちいさなステージにもかかわらず全身全霊を傾けて歌うその姿は、聴く者を圧倒した。本当にいい音楽の前では雑念なんぞ、チリとなって吹き飛んでしまう。
少し熱が出ているといいながら、「声は大丈夫でしょ」と自信ありげに微笑む彼女。
その笑顔も腕も腰も超一級のパフォーマーそのものであったし、少し緊張気味の若い日本のジャズメンたちの情熱を引き出しながら、それらを歌のパワーのもとに統御し、まとめ上げていく。
それは「才能」なんてありふれた言葉じゃ語れない。もっと強靭な、才能さえ超えた、精神の力だ。
ジャズっていうのは、こんなにも「人間の歌」「魂の歌」だった。まるでBJMのように、食事の前菜を楽しむように聴こうとする者には、本物のジャズはいらない。二流のジャズを聴いていればいい。
「ありがとう」と、ぼくは大野に何度も言った。それ以上は語れなかった。ぼくたちは抱き合って別れた。本物の歌の後に、それ以外の何ができるだろう。
ぼくは思った。
年齢を重ねることは、こんなにもステキなことなんだ、と。
苦しみや絶望を超える力を歌は持っているし、そんな歌こそが聴くものに力を与えるのだ、と。
すべての困難を、哀しみを、あまりにも人間的に乗り越えていきながら、大野えりは、ますますミューズそのものとして光り輝いていくのだろう。
ジャズを語りたいのなら、まず大野えりの歌を聴くことだ。
そうしてはじめて、やっと出逢った愛しい人を抱くように、ジャズを抱きしめることができるのだ。
<大野えりライブ>
5.3(thu)横浜・関内 BAR BAR BAR / 5.10(thu)東京・青山 BODY&SOUL / 5.23(wed)東京・六本木 ALFIE / 5.26(sat)東京・吉祥寺 SOMETIME / 他
<info> http://www.e-kia.net/
数年ぶりだったろうか。
彼女は昨年、ニューアルバム「Seet Love」を発表。それこそ久しぶりのアルバムだったが、そのCDを聴いた夜、ぼくはあまりの興奮に眠ることができなくなった。
タイトルの「Seet Love」にはじまるそれは、「In Time of The Silver Rain(春の雨)」、「Bird's Song(歌えよ鳥)」、「Walkers With The Dawn(光の中へ)」、「La,La,La, You Are Mine(愛の歌)」と、その大半を大野えり自身が作詞作曲したものだった。
しかもニューヨークでの録音、トランペットでも参加している大野俊三がプロデュースするなど、超一級のジャズメンがサポートしたアルバムである。
もちろんぼくが興奮したのは、そうした演奏だけではなく、はるかに空へと突き抜ける大野えり自身の歌に対してであった。
彼女はそのすべての録音を、テイクワンでクリアしてしまったという。
何よりもその歌を、生で聴きたかった。
ちいさなステージにもかかわらず全身全霊を傾けて歌うその姿は、聴く者を圧倒した。本当にいい音楽の前では雑念なんぞ、チリとなって吹き飛んでしまう。
少し熱が出ているといいながら、「声は大丈夫でしょ」と自信ありげに微笑む彼女。
その笑顔も腕も腰も超一級のパフォーマーそのものであったし、少し緊張気味の若い日本のジャズメンたちの情熱を引き出しながら、それらを歌のパワーのもとに統御し、まとめ上げていく。
それは「才能」なんてありふれた言葉じゃ語れない。もっと強靭な、才能さえ超えた、精神の力だ。
ジャズっていうのは、こんなにも「人間の歌」「魂の歌」だった。まるでBJMのように、食事の前菜を楽しむように聴こうとする者には、本物のジャズはいらない。二流のジャズを聴いていればいい。
「ありがとう」と、ぼくは大野に何度も言った。それ以上は語れなかった。ぼくたちは抱き合って別れた。本物の歌の後に、それ以外の何ができるだろう。
ぼくは思った。
年齢を重ねることは、こんなにもステキなことなんだ、と。
苦しみや絶望を超える力を歌は持っているし、そんな歌こそが聴くものに力を与えるのだ、と。
すべての困難を、哀しみを、あまりにも人間的に乗り越えていきながら、大野えりは、ますますミューズそのものとして光り輝いていくのだろう。
ジャズを語りたいのなら、まず大野えりの歌を聴くことだ。
そうしてはじめて、やっと出逢った愛しい人を抱くように、ジャズを抱きしめることができるのだ。
<大野えりライブ>
5.3(thu)横浜・関内 BAR BAR BAR / 5.10(thu)東京・青山 BODY&SOUL / 5.23(wed)東京・六本木 ALFIE / 5.26(sat)東京・吉祥寺 SOMETIME / 他
<info> http://www.e-kia.net/