明日香の細い道を尋ねて

生きて行くと言うことは考える事である。何をして何を食べて何に笑い何を求めるか、全ては考える事から始まるのだ。

読書の愉しみ(1)山本淳子「枕草子のたくらみ」

2019-04-18 22:00:35 | 芸術・読書・外国語
清少納言の古典を題材に、その「裏の顔」を描いている、という触れ込みの面白そうな本。著者に惹かれて購入した。枕草子はまだ読破してないが、山本淳子氏のこの本の主役の一人である「一条院皇后定子」には並々ならぬ愛情を持っている私にしてみれば、是非とも読まねばならない本である。ちょっと読み始めると、のっけから紫式部の辛辣な清少納言の人物批判が提示される。その才気煥発ぶりが逆に底の浅い知識ぶったミーハー性格を示していると言うのだ。紫式部が清少納言を余り良く思ってなかったのは有名な話。このころの宮廷は権力が藤原氏の内部で争われ、道隆の突然の急死によって中関白家が凋落し、代りに道長が頂点に上り詰める時期がこの本の範囲である。権力を巡る人間関係は、いつの世でも「一番面白い」。私は平安文学をこよなく愛する人間だが、その最高峰である「源氏物語」は、読むつもりは今のところ無い。何故なら真実のみが私の興味を満足させるからだ。この時代の日記や随筆や物語を片っ端から読み漁ってみたいと言う欲望を抑えられない私は、時間との戦いがいちばんの難敵である(何しろ来年の3月には70歳だ)。それで否が応でも読まざるを得ない状況を自らに課したと言うわけである。村上天皇に嫁いだ安子が冷泉・円融の二人の天皇を産み、藤原兼家の子供が政界を席巻するようになる時代がこの華やいだ物語の幕開けである。兼家の息子の道隆と高階貴子の長女がこの枕草子の影の主人公「定子」だ。彼女の運命が政界の陰湿な権力争いに翻弄され、その荒波に打ち砕かれた皇后定子の心を清少納言がどのようにして鎮魂したのか。「枕草子」という稀代のエッセーを読み解くことで明らかにしようという山本淳子渾身の試みである。そう聞けば、枕草子がただの風流な平安女房のおしゃれエッセーというものではなく、もっと深い魂の慟哭を内に秘めた文学作品ということが「ほの見えて」くる。やっぱりこれは是非とも読まねばなるまい。

以前に読んだ「源氏物語の時代、一条天皇と妃たちのものがたり」は語り口も平易で非常に面白かったので、今回も期待出来るものと私は確信している。山本淳子氏は源氏物語にも力を入れているようで、アマゾンを調べると本も数冊だしているようだが、私はまず「枕草子」を読み切って、それから「紫式部日記」を読んで、それでも命がまだあった場合に初めて「源氏物語」を読もうかと思っている。私は源氏物語は「オマケ」みたいなものなのだ、何故か?。それはフィクションだからである。平安時代を充分知り尽くして、日記や随筆を渡り歩き、古今集に始まる勅撰集も読み、平家物語や栄花物語や大鏡・今鏡・増鏡と続く4鏡をすべて読破した後になら、「どれ、愉しみにひとつ読んでみようか」という気持ちになっても許されると思っている。と言うことは多分、一生読まずに過ごすだろうな、と思っているわけなのだ(あー勿体無い!)。だって、フィクションなどよりよっぽど面白い事件が「山のように眠っている」のがこの平安時代なのである。それは日記やその他の書物が大量に残っていて、その多くが文庫本で読めると言うのも大きい。「奈良以前」は茫漠とした歴史の彼方に薄ぼんやりとしか姿が見えないが、この平安時代は「まるで隣の部屋にいるみたい」にはっきりと目に見える形で書き残されているのだ。これを面白いと言わずして何としよう。歴史ファンならずとも読みたくなる筈である。ここで山本淳子氏の導きでこの世界を探索できるというのは、私にとっても大きな発見であり喜びでもあるのだ。

と言うことで、皆さんもぜひ一度書店で手に取ってご覧になることをお勧めする。そして出来れば、購入して読まれたら人生変わるかも知れないですよ、私の推奨本です。

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