記事をあげるのが、予告よりかなり遅くなってしまいました。お許しいただき、おつきあいください。
食品安全委員会の委員として吉川泰弘・東京大学大学院教授を任命する人事案が5日、参議院で不同意となった。民主をはじめとする野党4党の議員が反対した。
その理由について、毎日新聞は5日付で次のように書いている。
『民主は「吉川氏が05年に食品安全委プリオン専門調査会座長を務めていた際、牛海綿状脳症(BSE)問題で輸入が止まっていた米国産牛肉の輸入再開を事実上容認する答申をまとめた」と説明している。』
朝日新聞は14日付で、『野党側は、05年当時、吉川氏が米国産牛肉輸入再開を事実上容認する答申をまとめる立場だったことを問題視した』と書いた。
『米国は牛肉の輸入再開を要求。日本政府は「科学的に判断する」として安全委に諮問。同調査会は「データが少なく科学的評価は困難」としながらも、「脳や脊髄(せきずい)などを除いた生後20カ月以下の牛という条件が守られるならば、国産牛との安全性の差が非常に小さい」との答申をまとめ輸入再開に道を開いた。』というのだ。
これに対して、食品安全委員会の見上彪委員長はよほど腹に据えかねたのだろう。11日の食品安全委員会会合で発言し、12日付の同委員会メールマガジンにも掲載している。長いが、紹介する。
「今回の食品安全委員会委員の同意人事におきまして、政府が提案した吉川氏の人事案が、先週、参議院で否決されました。私が報道から理解するところでは、食品安全委員会が行った米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価が米国産牛肉の輸入再開に事実上のお墨付きを与えることになったものであり、吉川氏がその評価結果をプリオン専門調査会座長として取りまとめたことを反対理由として挙げているように思われます。私は、これを突き詰めれば、食品安全委員会が当該評価を科学的知見に基づき中立公正に行わなかったと言っているのと同じなのではないかと思います。今回の人事案がこのような理由で否決されたのであるとすれば、食品健康影響評価を科学的に中立公正に実施することを使命とする食品安全委員会自体が否定されたことを意味し、断腸の思いです。
私は、食品安全委員会委員長として、米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価がこのように理解され、また、国民に誤解を与えるような情報発信が行われている事を憂慮するとともに、非常に残念に思います。私は、食品安全委員会委員長として誇りを持って断言いたしますが、プリオン専門調査会も食品安全委員会も、米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価を科学的知見に基づき中立公正に行うことに誠心誠意努め、また、その姿勢を貫き通すことができたと考えています。その事は膨大な議事録と詳細な評価書をお読み頂ければ、明らかであると思います。これだけは、国民の皆様にご理解いただきたいと思い委員長として一言申し上げさせていただきました」
そして私は、驚くべき情報を聞いた。野党側議員が、反対の根拠として中西準子・独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門長の論文を挙げているというのだ。
複数のルートから聞いた話だから、間違いない。
たしかに、中西先生は専門調査会について批判している。毎日新聞05年11月5日付では「もし、調査会としてリスクについて判断できないあという見解ならば、一刻も早く解散し、新しい調査会を組織すべきではないか」と書いた。(先生の05年11月8日付雑感で 記事が読める。
中央公論06年6月号の論文「英国、日本のBSE問題から考える 科学者に求められる責任とは何か」でも、「リスク評価を放棄するに近い結論」と書いている。
だが、中西先生がご自身のウェブサイトも含めて書いているのは、米国産牛肉のリスクの推定はかなりの程度可能であり、「米国と日本、少しづつ重点の置き方が違うが、どっちもどっち、同じくらいだなという印象を持つのだが、これをもって、輸入禁止にするほど、米国牛のリスクが高いと主張する人の気持ちが分からない。根拠が理解できない」ということだ。12月27日付雑感では、「米国産牛肉のBSE問題は、そのリスクとは別の政治的な目的で、危険が過大に言われ続けた」と主張している。
中西先生の専門調査会への批判は、調査会が「米国・カナダ産牛肉と国産牛肉のリスクについて科学的に同等性を評価することは困難」、しかし、「米国政府が提案している安全措置である輸出プログラムが遵守されたと仮定した場合、米国・カナダ産牛肉等と国内産牛肉等のリスクの差は非常に小さい」としたことに向けられている。
中央公論の論文には、こうある。「リスク評価のためのデータが少なければ少ないなりに、その少なさを考慮して評価する、そして、データが少ないためにリスク推定値が大きくなるのであれば、だから調査が必要とか、だから受け入れられないと米国に要求することもできる、これがリスク評価・管理の原則である」
つまり、科学者は「評価できない」とするのではなく、こういう問題に答えるための科学をつくり、リスク評価をするべきだ、と専門調査会のあり方に疑問をなげかけているのだ。「米国・カナダ産牛肉のリスクは高いのに、間違った結論を出した」という批判ではない。
だから私は、吉川委員反対の根拠の一つが中西先生の論文だったということに、とにかく驚いた。
おそらく、議員たちは中西先生の論文を読んでいないか、意味を理解できないのだろう。中西先生は、政治的に利用されないための「新しい科学」の確立を主張しているのに、その論文の都合の良いフレーズだけを抜き出して使っている。科学者の責任や中立性をないがしろにして政治的に利用しているのは、まさにこうした議員たちである。
リスク評価を、科学的な見地からではなく政治的に批判し、中西先生の批判、提言も大きく曲解した政治家たち。彼らには科学が分からないのか? リスク評価と管理の違いも理解できないのか? これは、絶望的な状況だ。
この問題について、中西先生は大変、心を痛めておられるのではないか、と思う。中西先生の05年12月27日付雑感「国産牛肉のPRを見て考える」をぜひ、読んでいただきたい。とんでもなくねじれ曲がった事態になっていることが、分かるはずだ。
中西先生は、近いうちにご自身のウェブサイトで書かれるはずなので、それを待ってから、この問題はもう一回考えてみたい。
ただ同時に、私は不思議に思う。なぜ、ほかの科学者たちは怒らない? 動かない? そうした姿勢のままでは、科学の政治的な利用が加速してしまう。なぜ?
食品安全委員会の委員として吉川泰弘・東京大学大学院教授を任命する人事案が5日、参議院で不同意となった。民主をはじめとする野党4党の議員が反対した。
その理由について、毎日新聞は5日付で次のように書いている。
『民主は「吉川氏が05年に食品安全委プリオン専門調査会座長を務めていた際、牛海綿状脳症(BSE)問題で輸入が止まっていた米国産牛肉の輸入再開を事実上容認する答申をまとめた」と説明している。』
朝日新聞は14日付で、『野党側は、05年当時、吉川氏が米国産牛肉輸入再開を事実上容認する答申をまとめる立場だったことを問題視した』と書いた。
『米国は牛肉の輸入再開を要求。日本政府は「科学的に判断する」として安全委に諮問。同調査会は「データが少なく科学的評価は困難」としながらも、「脳や脊髄(せきずい)などを除いた生後20カ月以下の牛という条件が守られるならば、国産牛との安全性の差が非常に小さい」との答申をまとめ輸入再開に道を開いた。』というのだ。
これに対して、食品安全委員会の見上彪委員長はよほど腹に据えかねたのだろう。11日の食品安全委員会会合で発言し、12日付の同委員会メールマガジンにも掲載している。長いが、紹介する。
「今回の食品安全委員会委員の同意人事におきまして、政府が提案した吉川氏の人事案が、先週、参議院で否決されました。私が報道から理解するところでは、食品安全委員会が行った米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価が米国産牛肉の輸入再開に事実上のお墨付きを与えることになったものであり、吉川氏がその評価結果をプリオン専門調査会座長として取りまとめたことを反対理由として挙げているように思われます。私は、これを突き詰めれば、食品安全委員会が当該評価を科学的知見に基づき中立公正に行わなかったと言っているのと同じなのではないかと思います。今回の人事案がこのような理由で否決されたのであるとすれば、食品健康影響評価を科学的に中立公正に実施することを使命とする食品安全委員会自体が否定されたことを意味し、断腸の思いです。
私は、食品安全委員会委員長として、米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価がこのように理解され、また、国民に誤解を与えるような情報発信が行われている事を憂慮するとともに、非常に残念に思います。私は、食品安全委員会委員長として誇りを持って断言いたしますが、プリオン専門調査会も食品安全委員会も、米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価を科学的知見に基づき中立公正に行うことに誠心誠意努め、また、その姿勢を貫き通すことができたと考えています。その事は膨大な議事録と詳細な評価書をお読み頂ければ、明らかであると思います。これだけは、国民の皆様にご理解いただきたいと思い委員長として一言申し上げさせていただきました」
そして私は、驚くべき情報を聞いた。野党側議員が、反対の根拠として中西準子・独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門長の論文を挙げているというのだ。
複数のルートから聞いた話だから、間違いない。
たしかに、中西先生は専門調査会について批判している。毎日新聞05年11月5日付では「もし、調査会としてリスクについて判断できないあという見解ならば、一刻も早く解散し、新しい調査会を組織すべきではないか」と書いた。(先生の05年11月8日付雑感で 記事が読める。
中央公論06年6月号の論文「英国、日本のBSE問題から考える 科学者に求められる責任とは何か」でも、「リスク評価を放棄するに近い結論」と書いている。
だが、中西先生がご自身のウェブサイトも含めて書いているのは、米国産牛肉のリスクの推定はかなりの程度可能であり、「米国と日本、少しづつ重点の置き方が違うが、どっちもどっち、同じくらいだなという印象を持つのだが、これをもって、輸入禁止にするほど、米国牛のリスクが高いと主張する人の気持ちが分からない。根拠が理解できない」ということだ。12月27日付雑感では、「米国産牛肉のBSE問題は、そのリスクとは別の政治的な目的で、危険が過大に言われ続けた」と主張している。
中西先生の専門調査会への批判は、調査会が「米国・カナダ産牛肉と国産牛肉のリスクについて科学的に同等性を評価することは困難」、しかし、「米国政府が提案している安全措置である輸出プログラムが遵守されたと仮定した場合、米国・カナダ産牛肉等と国内産牛肉等のリスクの差は非常に小さい」としたことに向けられている。
中央公論の論文には、こうある。「リスク評価のためのデータが少なければ少ないなりに、その少なさを考慮して評価する、そして、データが少ないためにリスク推定値が大きくなるのであれば、だから調査が必要とか、だから受け入れられないと米国に要求することもできる、これがリスク評価・管理の原則である」
つまり、科学者は「評価できない」とするのではなく、こういう問題に答えるための科学をつくり、リスク評価をするべきだ、と専門調査会のあり方に疑問をなげかけているのだ。「米国・カナダ産牛肉のリスクは高いのに、間違った結論を出した」という批判ではない。
だから私は、吉川委員反対の根拠の一つが中西先生の論文だったということに、とにかく驚いた。
おそらく、議員たちは中西先生の論文を読んでいないか、意味を理解できないのだろう。中西先生は、政治的に利用されないための「新しい科学」の確立を主張しているのに、その論文の都合の良いフレーズだけを抜き出して使っている。科学者の責任や中立性をないがしろにして政治的に利用しているのは、まさにこうした議員たちである。
リスク評価を、科学的な見地からではなく政治的に批判し、中西先生の批判、提言も大きく曲解した政治家たち。彼らには科学が分からないのか? リスク評価と管理の違いも理解できないのか? これは、絶望的な状況だ。
この問題について、中西先生は大変、心を痛めておられるのではないか、と思う。中西先生の05年12月27日付雑感「国産牛肉のPRを見て考える」をぜひ、読んでいただきたい。とんでもなくねじれ曲がった事態になっていることが、分かるはずだ。
中西先生は、近いうちにご自身のウェブサイトで書かれるはずなので、それを待ってから、この問題はもう一回考えてみたい。
ただ同時に、私は不思議に思う。なぜ、ほかの科学者たちは怒らない? 動かない? そうした姿勢のままでは、科学の政治的な利用が加速してしまう。なぜ?
その発言者の真意を確認もしていないのでしょうね。
政治家のあり方としては、やっぱりダメですね。
食品安全委員会のあり方には、まだまだ問題が多いと思います。事務局の大半が厚労省・農水省出身者だとか・・
自前の調査が簡単ではないとか・・
政治家は、政党は、その点を問題にしなければいけません。
それをね~、委員の・・次期委員長の選任を妨害してどうするんだ。
(ぼやきでした・・失礼しました。)
日本はBSE対策として今でも全頭検査なんてのをやってたりして世界一チェックが厳しいなんて「国内」では言われていますが、実は先日まで国際獣疫事務局(OIE)からはリスク不明国に指定され、輸出もままらない(輸入を拒否される根拠が明確な)状態でした。
一方アメリカはとうの昔にリスク管理された国に指定され、輸出も日本を除けば自由でした。(だったと思います)
つまり、日本はリスクが不明で輸出もできない国でありながら、独自制限を設け輸入規制してたわけです。
05年、内閣府食品安全委員会プリオン専門調査会は科学的根拠をもとに「生後20カ月以下の牛について、一定の条件を守れば、米国産牛と国産牛で安全性に差は非常に小さい」などと答申し、それを発端に結局は政府判断で米国牛の輸入が再開されました。
この経緯をふまえると、この度の参院で野党側が吉川氏を食品安全委員会委員に起用する人事案に不同意したという事実は、その理由からいって、科学的リテラシーの低さを露呈したことになります。
見上さんや吉川さんが、科学的根拠を示してもそれが通らない(感情的に気に入らない・受け入れられない)のであるならば政治判断に科学者の価値観は不要との考えるのは至極当然だと思います。
「雑感」が更新されましたので、松永さんのブログ更新も楽しみにしております。
国会議員の軍事リテラシーも、非常に低いことが海賊法案・先制攻撃答申からわかっています。
たとえば、ソマリア沖に派遣されている他国の軍艦は、軍事力を行使して自国利益を確保する目的です。行使しないことを前提とした取り締まりなら、沿岸警備隊(海保)の仕事だというのが世界の常識なのです。
そこにただ自衛艦の海外派遣実績が欲しいからと、奇妙な派遣を行えば、法案を通した議員のリテラシーが笑われ、軍事的野心のみが批判を浴びるのは当然です。
与野党問わず、根拠無しに議決するのは改めて欲しいものです。
また日常的に消費者と接する仕事をしておりますが、政治家のレベルはやはり国民のレベルが反映されるのだなあ、とも感じています。(上から目線であることは心苦しいですが)
このような状況を克服するためには、松永さんや中西先生のような方がもっと脚光を浴びるような機会が増えることが必要なのだなあと思っています。今後のさらなるご活躍を祈ります。
ところで「まいまい」様、横槍を入れて申し訳ないですが、世界の沿岸警備隊の多くは準軍隊として位置づけされています。装備も遜色ないものを備えていることも多く、軍事力を行使しないことを前提とした取り締まりというのはまずありませんよ。
http://www.sasayama.or.jp/saboard/b_board.cgi
でも、話題になっているようですが---
中西先生も、そんなに大騒ぎする必要があるんでしょうかね?
もう情けない話はご免だ