食品安全委員会の委員人事を参議院が不同意した件については、今、調べているところ。おそらく、明日書きます。
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今日は、
日本水産(ニッスイ)の景品表示法違反(優良誤認)の件。「ずわいがにコロッケ」と表示しながら、ズワイガニではなくベニズワイガニを使っていたとして、
公正取引委員会が15日、再発防止を求める排除命令を出した。
毎日新聞は
記事で、『ズワイガニは「松葉ガニ」や「越前ガニ」などとも呼ばれる高級品。漁獲量は年間5300トンとベニズワイガニの3割弱ほどで、1キロ当たりの卸売価格は約1995円と、ベニズワイガニ(約253円)の約8倍』と報じた。
さらに、『ニッスイは「どちらもズワイガニ属に入るので、属を表示すれば問題ないと思った」と釈明。「ご迷惑をお掛けしました。管理態勢を徹底したい」とコメントした』と書いている。釈明という言葉をわざわざ使ったところに、記者の大きな悪意を感じる。
ほかの新聞社も似たようなもの。でも、かなりピントを外していないか?
この商品は生協向け。ニッスイがウェブサイトで公開している文書や、生協に送った説明文書などに沿って流れを追っていくと、次のようになる
(1)1996年ごろに生協向け商品として企画し販売開始。この時には、ズワイガニとベニズワイガニは、いずれもクモガニ科ズワイガニ属であったことから、「ずわいがに」と表示しても問題ないと判断した
(2)2007年に水産庁が「魚介類の名称のガイドライン」を公表。この時に、ズワイガニとベニズワイガニは区別するべきもの、とされた。しかし、このガイドラインは生鮮魚介類にかんするものであり、加工食品の名称を規定するJAS法では、かにを属名で表示するのか、種名で表示するのか、規定されていなかった。このため、ニッスイはそのまま、「ずわいがにコロッケ」の名称を使用し続けた
(3)一部生協で「名称はこれでよいのか」と問題となり、ニッスイが09年2月、優良誤認の有無を公正取引委員会に問い合わせ。公取委に、これまでの経緯を説明
(4)公取委が、同年4月に景品表示法被疑事件として取り扱う旨を通知
(5)公取委が同年6月15日に排除命令
この流れをみる限り、ニッスイにさほどの意図はなかったように思える。
さらに重要なのは、ズワイガニとベニズワイガニの品質や価格の問題だ。どの新聞も、
水産物流通統計年報に基づいて、価格差8倍と報じている。しかし、この価格は、境や香住など国内の漁港でのカニそのものの取引価格。ズワイガニの調査は、越前や三国、香住など高級産地がずらりと並ぶ。
そんな漁港で水揚げされた立派なズワイガニやベニズワイガニでコロッケを語るなんて、どうかしている。コロッケに使うのは、加工用輸入冷凍品か国産の同等品。殻から出されて棒状やフレーク状で流通しているものだ。
ニッスイは、原料は季節や部位、取引量等で変動するため正確な比較は困難としているが、参考データとして、同社ブランドの缶詰製造を委託している企業が、缶詰用原材料として仕入れたズワイガニやベニズワイガニの価格を生協に提示して説明している。
缶詰原料1kg当り仕入価格
平成19年度 平成20年度
フレーク肉ベニズワイガニ 1,149円 1,141円
フレーク肉ズワイガニ 1,201円 1,666円
棒肉ベニズワイガニ 3,112円 3,141円
棒肉ズワイガニ 3,663円 3.654円
価格差は、最大でも1.46倍しかない。
さらに、品質においても、 ズワイガニとベニズワイガニは、味の根幹をなすグルタミン酸やグリシン、アラニンなどの組成に大きな違いはないという。
ニッスイはこうしたデータも公取委に提出したようだ。だが、公取委は「ズワイガニ及びベニズワイガニは、東京都中央卸売市場築地市場において、区別して取引されており、ズワイガニは、ベニズワイガニに比べ水揚げ量が少なく、かつ高級なものとされていることから、流通段階においては、ズワイガニの方がベニズワイガニよりも高値で取引されている」とした。
ニッスイにしてみれば、到底納得できる理屈ではなかったようだ。たしかに、築地ではズワイガニの扱い量は少ないが、輸入量まで含めた国内供給量で比較すると、ズワイガニがベニズワイガニの約2.5倍も供給されている。
以上、書いたことはすべて、ニッスイと商品を扱った生協の文書を基にした。そのことを考慮に入れたとしても、公取委の優良誤認と認定しての排除命令が、かなりの問題を含むものであることは分かる。
ただし、ニッスイの甘さも否めない。「魚介類の名称のガイドライン」の位置付けは、「生鮮魚介類の小売り販売を行う事業者等に対し、JAS法に基づき魚介類の名称を表示し、又は情報として伝達する際に参考となる考え方や事例を示すものである」となっている。この時に、JAS法に照らし合わせるとどうなるか、検討し監督官庁に相談していればよかった。
これにより、ニッスイは「ずわいがにコロッケ」を「紅ずわいがにコロッケ」に名称変更。誤出荷を防止するため、既に作ってしまった商品(約2000万円相当)は廃棄したという。これは、杓子定規な表示を巡る悲喜劇、貴重な食料資源の無駄ではないか?
こんなことを消費者が望んでいるとは思えない。マスメディアのお手軽な「企業たたき」にも、辟易する。ああ、いやな時代です。