松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

日本学術会議が会長談話発表

2009-06-30 14:44:51 | Weblog
 食品安全委員会の委員に吉川泰弘・東京大学教授を任命する人事が、参議院で不同意となったことを、6月21日付で取り上げた。

 この問題に対して、日本学術会議が今日6月30日、「食品安全のための科学に関する会長談話」を発表。このページから読める。下記のような書き出しで、説明している。

 科学者が直接責任を問われるのは、故意に不正行為(ねつ造、改ざん、盗用など)を行った場合と科学的判断を誤った場合などですが、問題にされた事例はそのいずれにも当てはまりません。この出来事の根底には、「安全のための科学」に対する重大な誤解があると考えられますので、国民の皆様に正しいご理解をいただきたいと考え、談話を発表することにしました。

 ぜひ、全文を読んでください。


食品安全委員会の吉川教授参院不同意と、中西準子先生の論文

2009-06-21 12:43:28 | Weblog
 記事をあげるのが、予告よりかなり遅くなってしまいました。お許しいただき、おつきあいください。

 食品安全委員会の委員として吉川泰弘・東京大学大学院教授を任命する人事案が5日、参議院で不同意となった。民主をはじめとする野党4党の議員が反対した。
 
 その理由について、毎日新聞は5日付で次のように書いている。
『民主は「吉川氏が05年に食品安全委プリオン専門調査会座長を務めていた際、牛海綿状脳症(BSE)問題で輸入が止まっていた米国産牛肉の輸入再開を事実上容認する答申をまとめた」と説明している。』

 朝日新聞は14日付で、『野党側は、05年当時、吉川氏が米国産牛肉輸入再開を事実上容認する答申をまとめる立場だったことを問題視した』と書いた。
 『米国は牛肉の輸入再開を要求。日本政府は「科学的に判断する」として安全委に諮問。同調査会は「データが少なく科学的評価は困難」としながらも、「脳や脊髄(せきずい)などを除いた生後20カ月以下の牛という条件が守られるならば、国産牛との安全性の差が非常に小さい」との答申をまとめ輸入再開に道を開いた。』というのだ。

 これに対して、食品安全委員会の見上彪委員長はよほど腹に据えかねたのだろう。11日の食品安全委員会会合で発言し、12日付の同委員会メールマガジンにも掲載している。長いが、紹介する。

「今回の食品安全委員会委員の同意人事におきまして、政府が提案した吉川氏の人事案が、先週、参議院で否決されました。私が報道から理解するところでは、食品安全委員会が行った米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価が米国産牛肉の輸入再開に事実上のお墨付きを与えることになったものであり、吉川氏がその評価結果をプリオン専門調査会座長として取りまとめたことを反対理由として挙げているように思われます。私は、これを突き詰めれば、食品安全委員会が当該評価を科学的知見に基づき中立公正に行わなかったと言っているのと同じなのではないかと思います。今回の人事案がこのような理由で否決されたのであるとすれば、食品健康影響評価を科学的に中立公正に実施することを使命とする食品安全委員会自体が否定されたことを意味し、断腸の思いです。
 私は、食品安全委員会委員長として、米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価がこのように理解され、また、国民に誤解を与えるような情報発信が行われている事を憂慮するとともに、非常に残念に思います。私は、食品安全委員会委員長として誇りを持って断言いたしますが、プリオン専門調査会も食品安全委員会も、米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価を科学的知見に基づき中立公正に行うことに誠心誠意努め、また、その姿勢を貫き通すことができたと考えています。その事は膨大な議事録と詳細な評価書をお読み頂ければ、明らかであると思います。これだけは、国民の皆様にご理解いただきたいと思い委員長として一言申し上げさせていただきました」



 そして私は、驚くべき情報を聞いた。野党側議員が、反対の根拠として中西準子・独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門長の論文を挙げているというのだ。
 複数のルートから聞いた話だから、間違いない。

 たしかに、中西先生は専門調査会について批判している。毎日新聞05年11月5日付では「もし、調査会としてリスクについて判断できないあという見解ならば、一刻も早く解散し、新しい調査会を組織すべきではないか」と書いた。(先生の05年11月8日付雑感で 記事が読める。
 中央公論06年6月号の論文「英国、日本のBSE問題から考える 科学者に求められる責任とは何か」でも、「リスク評価を放棄するに近い結論」と書いている。

 だが、中西先生がご自身のウェブサイトも含めて書いているのは、米国産牛肉のリスクの推定はかなりの程度可能であり、「米国と日本、少しづつ重点の置き方が違うが、どっちもどっち、同じくらいだなという印象を持つのだが、これをもって、輸入禁止にするほど、米国牛のリスクが高いと主張する人の気持ちが分からない。根拠が理解できない」ということだ。12月27日付雑感では、「米国産牛肉のBSE問題は、そのリスクとは別の政治的な目的で、危険が過大に言われ続けた」と主張している。
 
 中西先生の専門調査会への批判は、調査会が「米国・カナダ産牛肉と国産牛肉のリスクについて科学的に同等性を評価することは困難」、しかし、「米国政府が提案している安全措置である輸出プログラムが遵守されたと仮定した場合、米国・カナダ産牛肉等と国内産牛肉等のリスクの差は非常に小さい」としたことに向けられている。
 中央公論の論文には、こうある。「リスク評価のためのデータが少なければ少ないなりに、その少なさを考慮して評価する、そして、データが少ないためにリスク推定値が大きくなるのであれば、だから調査が必要とか、だから受け入れられないと米国に要求することもできる、これがリスク評価・管理の原則である」

 つまり、科学者は「評価できない」とするのではなく、こういう問題に答えるための科学をつくり、リスク評価をするべきだ、と専門調査会のあり方に疑問をなげかけているのだ。「米国・カナダ産牛肉のリスクは高いのに、間違った結論を出した」という批判ではない。

 だから私は、吉川委員反対の根拠の一つが中西先生の論文だったということに、とにかく驚いた。
 おそらく、議員たちは中西先生の論文を読んでいないか、意味を理解できないのだろう。中西先生は、政治的に利用されないための「新しい科学」の確立を主張しているのに、その論文の都合の良いフレーズだけを抜き出して使っている。科学者の責任や中立性をないがしろにして政治的に利用しているのは、まさにこうした議員たちである。

 リスク評価を、科学的な見地からではなく政治的に批判し、中西先生の批判、提言も大きく曲解した政治家たち。彼らには科学が分からないのか? リスク評価と管理の違いも理解できないのか? これは、絶望的な状況だ。

 この問題について、中西先生は大変、心を痛めておられるのではないか、と思う。中西先生の05年12月27日付雑感「国産牛肉のPRを見て考える」をぜひ、読んでいただきたい。とんでもなくねじれ曲がった事態になっていることが、分かるはずだ。
 中西先生は、近いうちにご自身のウェブサイトで書かれるはずなので、それを待ってから、この問題はもう一回考えてみたい。
 ただ同時に、私は不思議に思う。なぜ、ほかの科学者たちは怒らない? 動かない?  そうした姿勢のままでは、科学の政治的な利用が加速してしまう。なぜ?

ベニズワイガニの悲劇

2009-06-18 02:43:45 | Weblog
 食品安全委員会の委員人事を参議院が不同意した件については、今、調べているところ。おそらく、明日書きます。

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 今日は、日本水産(ニッスイ)の景品表示法違反(優良誤認)の件。「ずわいがにコロッケ」と表示しながら、ズワイガニではなくベニズワイガニを使っていたとして、公正取引委員会が15日、再発防止を求める排除命令を出した。

 毎日新聞は記事で、『ズワイガニは「松葉ガニ」や「越前ガニ」などとも呼ばれる高級品。漁獲量は年間5300トンとベニズワイガニの3割弱ほどで、1キロ当たりの卸売価格は約1995円と、ベニズワイガニ(約253円)の約8倍』と報じた。
 さらに、『ニッスイは「どちらもズワイガニ属に入るので、属を表示すれば問題ないと思った」と釈明。「ご迷惑をお掛けしました。管理態勢を徹底したい」とコメントした』と書いている。釈明という言葉をわざわざ使ったところに、記者の大きな悪意を感じる。

 ほかの新聞社も似たようなもの。でも、かなりピントを外していないか?

 この商品は生協向け。ニッスイがウェブサイトで公開している文書や、生協に送った説明文書などに沿って流れを追っていくと、次のようになる

(1)1996年ごろに生協向け商品として企画し販売開始。この時には、ズワイガニとベニズワイガニは、いずれもクモガニ科ズワイガニ属であったことから、「ずわいがに」と表示しても問題ないと判断した
(2)2007年に水産庁が「魚介類の名称のガイドライン」を公表。この時に、ズワイガニとベニズワイガニは区別するべきもの、とされた。しかし、このガイドラインは生鮮魚介類にかんするものであり、加工食品の名称を規定するJAS法では、かにを属名で表示するのか、種名で表示するのか、規定されていなかった。このため、ニッスイはそのまま、「ずわいがにコロッケ」の名称を使用し続けた
(3)一部生協で「名称はこれでよいのか」と問題となり、ニッスイが09年2月、優良誤認の有無を公正取引委員会に問い合わせ。公取委に、これまでの経緯を説明
(4)公取委が、同年4月に景品表示法被疑事件として取り扱う旨を通知
(5)公取委が同年6月15日に排除命令

 この流れをみる限り、ニッスイにさほどの意図はなかったように思える。
 さらに重要なのは、ズワイガニとベニズワイガニの品質や価格の問題だ。どの新聞も、水産物流通統計年報に基づいて、価格差8倍と報じている。しかし、この価格は、境や香住など国内の漁港でのカニそのものの取引価格。ズワイガニの調査は、越前や三国、香住など高級産地がずらりと並ぶ。

 そんな漁港で水揚げされた立派なズワイガニやベニズワイガニでコロッケを語るなんて、どうかしている。コロッケに使うのは、加工用輸入冷凍品か国産の同等品。殻から出されて棒状やフレーク状で流通しているものだ。
 ニッスイは、原料は季節や部位、取引量等で変動するため正確な比較は困難としているが、参考データとして、同社ブランドの缶詰製造を委託している企業が、缶詰用原材料として仕入れたズワイガニやベニズワイガニの価格を生協に提示して説明している。

缶詰原料1kg当り仕入価格
              平成19年度   平成20年度
フレーク肉ベニズワイガニ   1,149円    1,141円
フレーク肉ズワイガニ     1,201円    1,666円
棒肉ベニズワイガニ      3,112円    3,141円
棒肉ズワイガニ        3,663円    3.654円

 価格差は、最大でも1.46倍しかない。
 さらに、品質においても、 ズワイガニとベニズワイガニは、味の根幹をなすグルタミン酸やグリシン、アラニンなどの組成に大きな違いはないという。

 ニッスイはこうしたデータも公取委に提出したようだ。だが、公取委は「ズワイガニ及びベニズワイガニは、東京都中央卸売市場築地市場において、区別して取引されており、ズワイガニは、ベニズワイガニに比べ水揚げ量が少なく、かつ高級なものとされていることから、流通段階においては、ズワイガニの方がベニズワイガニよりも高値で取引されている」とした。
 ニッスイにしてみれば、到底納得できる理屈ではなかったようだ。たしかに、築地ではズワイガニの扱い量は少ないが、輸入量まで含めた国内供給量で比較すると、ズワイガニがベニズワイガニの約2.5倍も供給されている。

 以上、書いたことはすべて、ニッスイと商品を扱った生協の文書を基にした。そのことを考慮に入れたとしても、公取委の優良誤認と認定しての排除命令が、かなりの問題を含むものであることは分かる。
 ただし、ニッスイの甘さも否めない。「魚介類の名称のガイドライン」の位置付けは、「生鮮魚介類の小売り販売を行う事業者等に対し、JAS法に基づき魚介類の名称を表示し、又は情報として伝達する際に参考となる考え方や事例を示すものである」となっている。この時に、JAS法に照らし合わせるとどうなるか、検討し監督官庁に相談していればよかった。

 これにより、ニッスイは「ずわいがにコロッケ」を「紅ずわいがにコロッケ」に名称変更。誤出荷を防止するため、既に作ってしまった商品(約2000万円相当)は廃棄したという。これは、杓子定規な表示を巡る悲喜劇、貴重な食料資源の無駄ではないか?

 こんなことを消費者が望んでいるとは思えない。マスメディアのお手軽な「企業たたき」にも、辟易する。ああ、いやな時代です。

食品安全委員会のクローン牛審議

2009-06-12 03:38:51 | Weblog
 食品安全委員会でクローン牛の評価をしてきた新開発食品専門調査会が、8日に開いた会合で、2月にまとめた「評価書案」を大筋変更しないことを決めたようだ。今後は、専門調査会から出てきた評価書案を本委員会で検討後、「評価書」として厚労省に答申することになる。

 毎日新聞その他各紙が伝えている。

 私は、このニュースを聞いて、ほっとした。なぜなら、産経新聞の5月27日付記事『クローン牛は安全か 消費者の7割「気持ち悪い」で再審議へ』を読み、気をもんでいたから。

 食品安全委員会は、評価書案について3月から1カ月間、パブリックコメントを実施した。産経新聞はそのことを報じ、『約7割が「気持ち悪い」などの批判的意見だったことに配慮して、安全性評価について再審議を行うことを検討している』と書いた。
 もしそれが本当なら、感情論によって科学的な「リスク評価」が左右されることになる。それをしたら、食品安全委員会のリスク評価結果はもう、信頼されない。
 リスク管理の方法は、感情にも配慮しなければならないだろうが、リスク評価は「気持ち悪い」というような感情によって変わるものであってはならない。

 産経新聞の記事を読んで、「まさか」という思いと、「今の食品安全委員会には、なにがあっても不思議ではない」という恐れの両方があり、たまたま5月末に講演会場で会った本委員会の委員に尋ねたところ、「専門調査会で再審議なんて、私は聞いてない」というお答えだった。
 産経新聞の記事は、誤報の可能性がある。そのため、私は専門調査会で公表されるパブコメの結果と審議を待って考えようと思った。

 結局、専門調査会の傍聴には行けず、議事録もまだ公表されていないので、審議の詳細はよくわからない。だが、各紙の報道によれば、パブコメで批判的な意見が大勢であったことが事務局から説明され、でも、大筋の結論は変わらなかったようだ。毎日新聞の記事は『専門調査会はこれらの意見に対し、「健全に発育したクローン牛や豚は、従来の繁殖技術による牛や豚と食品としての安全性は変わらない」などとの回答案を作成、近く公表する』と伝えている。

 当たり前だ。私は、評価書案は科学的には妥当だと思った。生命倫理や動物福祉、感情的な検討はまた別の次元で行わなければならないことであり、いくら批判を受けたとしても、食品安全委員会とは関係がない。


 ただし、気になることがある。中日新聞によれば、専門調査会で委員から、『消費者の不安などの意見が多いことを「厚労省や農林水産省にきちんと伝えるべきだ」として、食品安全委でその方法を検討するよう求める意見が出た』という。
 だが、それはしてはならないだろう。リスク管理の方法になんらかの影響を与えかねないことをするのは、リスク評価という「仕事」を逸脱する。

 BSE問題の時に、農水省がリスク評価と管理の両方をやっていたから、大きな問題となった。そして、管理のための評価ではなく、公正なリスク評価をするために、食品安全委員会は生まれたはずだ。
 管理機関が評価機関に影響を与えてはならないならば、評価機関も、管理機関に「きちんと管理に責任を持て」ということ以外は、なにも伝えるべきでないだろう。そうでないと、両者の独立性は保ち得ない。
 食品安全委員会のパブコメに批判的意見が殺到したという事実は、公表されている。その事実を、厚労省や農水省が情報収集して、管理の検討の時に考慮したらいいだけだ。

 専門調査会の委員自体が、組織の独立性を損ないかねない意見を平然と出しているように私には思える。非常に興味深い。
 この先は蛇足だが、実は、私は個人的には最近、リスク評価と管理をそれぞれ別組織で独立してやっていくのはもう無理、現実の問題に適応できない、と考えている。まだ論考中。また別の機会に書こうと思う。
 だが、無理であり将来的には統合を目指すべきであるとしても、うやむやにまた評価と管理が一体化、というのはごめんだ。

 食品安全委員会には現状では、しっかりと独立性を保ってもらわなければならない。そうでないと、「食の安全」への世間の信頼感はまた、大きく損なわれてしまう。その一方で、現在の形が本当に機能しているのか、リスク評価機関と管理機関の関係に別の形はないのか、次のステップの議論を始めてもよいのではないか。

池田さんの花だより~タチアオイ

2009-06-12 03:16:36 | Weblog
 虫だより(オオキンカメムシなど)を送ってくださる静岡の池田二三高さんからは、花だよりも届きます。最近いただいた便りを紹介します。なんだか、とても懐かしい花です。私が子どもの頃は、いろいろなところに植えられていたのに、最近はあまり見ないような…。

…………池田さんの花だより……………………
 タチアオイの開花が始まりました。この花の開花期間は長く8月まで咲き続けます。徐々に小さな花になってくるので今が見頃でしょう。名前のごとく、花茎がま真っ直ぐに勢いよく伸びて咲きます。一年草と宿根草の2タイプがあり、宿根草タイプは大株になるので花茎は背丈以上に伸びます。赤、黄、白と花色は豊富で大輪の数がまとまって咲くと実に壮観です。
 多くの種類のムシ達が訪花しますが、花粉が非常に多いので、花粉を好むハナバチの種類が好んで訪花します。八重咲きの品種もありますが、こちらの花には蜜や花粉はほとんどありません。

 


オールゼロのオールってなんだ?

2009-06-03 02:54:23 | Weblog
 今、食品添加物に関する原稿を書いている。「無添加がいい、とか言われているけれど、根拠がない。添加物は、気付きにくいさまざまな場面で使われているし、リスクを小さくする場合もあって、恩恵は大きい。思い込むのではなく、もっといろいろ知ってから添加物について語ろうね」という内容。

 そこで、最近非常に気になっているのがこれ。三ツ矢サイダー オールゼロ
 なにがオールやねん? 
 CMで、カロリーゼロ、糖質ゼロ、保存料ゼロと盛んにうたうが、カロリーと糖質については小さく、「栄養表示基準による」と書いてある。
 栄養表示基準では、カロリーは5キロカロリー未満/100mlなら、ゼロと表示していい。糖質は0.5%未満ならゼロとしていい。つまりは、厳密には「三ツ矢サイダー オールゼロ」のカロリー、糖質はゼロではないかもしれない、ってことですね。
 
 表示を見ると、原材料名として書いてあるのは食物繊維(ポリデキストロース)、果糖、香料、酸味料、甘味料(アセスルファムK、スクラロース)。添加物もいろいろと使われているけれど、こういうのはゼロでなくていいのかしらん?

 オールというから、てっきり全部ゼロかと思った。なんて、ウソです。全部ゼロなら、食品添加物である二酸化炭素も使っちゃだめ。炭酸水になりませんね。いや、水もゼロなら飲料になりません。
 これで、オールゼロと名付ける感覚が、私にはよく理解できない。

 しかも、広告が悪どい。特に、5月26日付の朝日新聞の広告特集にはびっくりした。社長と女性アナウンサーの対談という形式で、社長が「健康志向の高まりもあり、『サイダーを飲みたいけれど、カロリーが気になる』という声も寄せられていました。ならば、カロリーも、糖質も、保存料も、すべてゼロの三ツ矢サイダーをつくろうと。もちろん、着色料、カフェインもゼロです」と語る。これに対して、アナウンサーが「うれしいですね。子どもの口にいれるものは特に気をつけたいですから、私のような母親世代には保存料ゼロというのもうれしいです」と応えているのだ。

 保存料は、適正に使えば健康には影響しない。そのことは、食品安全委員会や厚労省やFDAやEFSAやいろいろな機関が、明確に示している。でも、商品開発の動機として「健康志向の高まりを受けて」とさりげなく説明し、アナウンサーの発言でしっかりとリンクさせている。「賢いお母さんは、保存料が入っているような飲料なんて子どもに飲ませちゃだめ」と読者に思わせる。「保存料=危険」という誤解を利用した高等テクニックだ。

 大企業も、こんなことをするんだなあ。
 どの企業も、商品を売りたいという気持ちと、科学的に妥当な説明をしなければ、という思いの間で、苦労しながらネーミングを考え宣伝している。この不景気にその苦しさはよく分かるので、私は個々の商品の売り方にはあんまり目くじらを立てることはない。だけど、オールゼロはあまりにもあからさまなので、さすがに驚いた。
 「非科学的だ」「消費者を騙すのか」という怒りは湧かない。そうではなく、「126年の歴史を持つ飲み物なのに、なんと品のないことを」と思う。嘆息する。