松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

オズの魔法使いとニセ科学の伝道師はいかに聴衆を震え上がらせたか?~Dr. Oz Showウォッチ1

2011-01-20 16:13:08 | Weblog

遺伝子組換え食品にかんする情報は、日本のマスメディアでは科学でないものに浸食されねじ曲げられることがしばしばだ。だが、アメリカも同様らしい。

The Dr. Oz Showという番組がある。Columbia University College of Physicians & SurgeonsProfessor of SurgeryDr. Mehmet Ozがホストを務める人気番組。Dr.Ozは、かの有名なThe Oprah Winfrey Showに5年間も出演し、晴れて2009年には、Oprahのプロダクションの制作による冠番組に進出した。立派なウェブサイトもあり、番組はエミー賞にもノミネートされている。視聴者も多いだろう。

このDr.Oz Showで昨年12月、遺伝子組換え特集があった。科学者をゲストに招いて科学的な議論を装ったのが、結局はトンデモ番組になってしまった。そして、ここからが面白いのだが、ゲストが番組出演後、どの部分の録画がカットされたのかなどブログで説明し、改めて科学を市民に伝えることの難しさや、どのような方法論をとったらよいか、などについて論じているのだ。

このトンデモ番組は、日本の遺伝子組換えをめぐる状況とも無縁ではない。日本の食品や農業関係者にとっても、極めて多くの示唆に富む番組であり、ブログの内容であるように思うので、紹介したい。

番組は、ネットでも視聴できる。わずか15分ほどの特集だ。そして、出演者した科学者のブログは、なんとも嬉しいことに、日経BPFood Scienceで海外の遺伝子組換え情報を発信し続けた宗谷敏さんが、翻訳してくださった。私に「Dr.Oz Show 面白いよ。ブログも勉強になるよ」と連絡してくださったのも宗谷さんだ。


オズの魔法使いとニセ科学の伝道師はいかに聴衆を震え上がらせたか?~Dr. Oz Showウォッチ2

2011-01-20 16:04:46 | Weblog

まずは、Dr. Oz Show遺伝子組換え特集の内容をかいつまんで紹介しよう。

ゲストは、U.C.Davisで遺伝子組換え米を研究しProfessor of Plant Pathologyを務めるPamela Ronald Ph.D.  、Consumer Union所属の科学者、そして遺伝子組換え反対の本を出している作家、Jeffrey M. Smithの3人である。 

ホストが医師、科学者がゲストということで、科学的な議論になるか、と期待させるが、そうはならない。Jeffrey Smithが「The American Academy of Emergency Medicineという団体が、遺伝子組換えは危険だと指摘している」と述べ始め、会場の観覧者を震え上がらせた。この団体は実は、代替医療を推進する極めてマイナーな団体で、遺伝子組換えについても、古くて既に反証されているような研究結果や、いい加減な実験設計による結果を振りかざして反対運動を繰り広げているようなところだ。 

 Pamela Ronaldは、「危ないという主張は、科学ではない。論文だって出ていない。科学に基づいて考えなければ」と主張するのだが、Jeffrey SmithにもMehmet Ozにも通用しない。結局は「怖いですね」「ラベルが必要ですね」「ラベルがあったら避けられますね」というまとめで、観覧者の拍手喝采、ということになってしまった。

科学のステップは、方法が明確で査読を経て論文として公表され、第三者による追試を経て「正しい」と認識されるのが一般的だが、そうした科学の“常識”は、TVショーにとってはどうでもよいものだったようだ。「日本でも、同じだなあ」と思う人も多いのではないか。

 Pamela Ronaldは、自身が遺伝子組換えを研究している一方、夫は有機農業の研究者で実践もしているという異色の人だ。健全な科学に基づく適切な情報を市民に伝えようと本も書いており、ブログでも発信し続けている。

だから、TVショーにも出たのだろうが、終わってみて難しさも感じたようだ。感想を書いたブログには複雑な思いがあふれており、181ものコメントがついている。宗谷さんの訳をお読みいただきたい。ちなみに、日本語に翻訳してウェブに掲載することについては、宗谷さんがPamela Ronaldから直接、了解を得ている。


オズの魔法使いとニセ科学の伝道師はいかに聴衆を震え上がらせた か?~Dr. Oz Showウォッチ3

2011-01-20 15:38:40 | Weblog

U.C.DavisのProfessor of Plant Pathology、Pamela Ronald Ph.D.のブログより転載(宗谷敏さん訳、日本語に翻訳してウェブに掲載することについて、Ronald氏の了解を得ている)

 


遺伝子組み換え農作物の話に関しては誰を信頼すべきかとDr. Ozが尋ねます

SOURCE: Tomorrow's Table

DATE: 2010127

私は、聴衆に科学ベースの視点を提供しようとしました。しかし、それは難航しました、なぜなら他のパネリストの1人(Jeffrey Smith、科学的もしくは農業の職業的訓練を欠く、以前の上院議員選挙へのNatural Law Partyからのアイオワ州立候補者)が遺伝子組み換え農産物を食べることが不妊、臓器障害と内分泌撹乱を引き起こすと確信するからです。もちろん、これらの発言の科学的証拠は、ニンジンを見た人には脳腫瘍が出来ますということと同じぐらい薄弱です。

聴衆はショーで提示された情報からそれを探り出せますか? 残念ながらそうは思えません。

私たちが知っているのは、14年間消費されてきてヒトの健康あるいは環境にたった一つの実害の例すらなかった(そして多くの議論の余地がない利益)ということです。

最悪の「擬似科学の伝道師」に反論するために私は最善を尽くしましたが、それは困難でした。私はプロデューサー(蛇足ながらなかなかイケメンでした)に、ゾッとする画像と箇条書きを取り除くように頼みましたが、成功しませんでした。それらを示すことはOz博士の評判を損ねて、彼の視聴者(今やおそらくは震え上がっている-私の義母がすべての「箇条書き部分」をメモするのを想像することができます)に悪影響を与えるであろうと私は論じました。

私はいくつかの科学ベースの、学研的な、非営利の素晴らしいサイト(bioforitifed,org, ucbiotech.org and academicsreview.org)を紹介するチャンスを持っていました。しかし私のすべての具体例(遺伝子組み換えワタ畑での減少した殺虫剤使用、生物多様性の向上、耐病性パパイヤ、ゴールデンライス)は、テレビの放映ではカットされました。プロデューサーがあまりに多くの科学的証拠を、空想的な要素に混ぜることを望まなかったと私は推測します。ショーは、科学者としてまたもや私たちが遺伝子工学についての全般的な不安と、科学と科学者への一般的な不信を退けることができなかったことを実証します。

それでは、私たちはどのようにして一般人が科学的なプロセスを理解して、時間をかけて証明され大いに頼りになる質の高い科学的研究を、単純な断定あるいは確証がないうわさから区別することを学ぶことを手伝うことができますか? これはRaoul(訳者注:Pamelaのご主人)と私が本(訳者注:Ronald, Pamela and Raoul Adamchak, 2008. Tomorrow's table; Organic farming, genetics and the future of food. Oxford University Press. )を書いた理由の1つです。

私たちは非科学者がどのようにして事実と作り話を区別することができるかという記述に1章(訳者注:第6章 Who Can We Trust?)を割きました。利害関係と誤解だらけの疑似科学の実例として、Smithをひと目見てください。遺伝子工学が危険であることを「立証する」ために、Smithは遺伝子組み換えジャガイモをマウスに食べさせた17歳の学生の実験を引用します。参照されたウェブサイトによれば、「・・・最初から平均より少し体重が重かったから、給餌された遺伝子組み換えジャガイモを多く食べた[マウスたち]が、より少ない体重増加を示しました。」

加えるに、「・・・個体間の行動に著しい相違」が観察されましたが、「これらは『主観的』であり、そして定量的ではありませんでした」と少年が認めました。Smithは、この実験は遺伝子組み換え食品が「ヒトの精神」に悪影響を与えるかもしれないことを立証すると論じて、少年は「科学者を恥じ入らせるほど凌駕した」と結論します。

どうやら一般人は、ピアレビューされた研究ではなく、科学的な研修に束縛されない学生によって実施されたこの実験を信用することができるということのようです。Smithは、ティーンエージャーによって行なわれたこの実験が、科学的なプロセスに付き物の厳密な方法に従っていなかったという事実を無視します。

私が調べたところ、少年のマウスを用いた研究に言及し紹介していたのは、あるウェブサイト(訳者注:http://www.i-sis.org.uk/MicePreferNonGM.phpであり、さらにそのウェブサイトはもう一つの別のウェブサイト(もう、なくなっています)を参照して書いていました。それに、少年の研究に関して証拠となるものは、偶然に会った少年の母だけということも判明しました。つまり、少年の母だけが、少年が行ったという実験に関する科学的情報のソース、「源」なのです。Guusjeママは、息子を非常に誇りに思っています…という具合です。

少年の母親との会話のことを科学であると言う人がいるでしょうか? Smithは、科学的なプロセスの基本的理解に欠けるか、あるいは彼がただ気にしていないだけか、あるいはその両方です(あるいはもっと悪意に満ちた何か...)。しかし、彼は気を遣うべきです;なぜならこの手のいつわりは人々を混乱させて、そして恐ろしがらせるだけですから。ほとんどの人々が、自分の息子について、通常母親が最良だと信じるものだということに同意するでしょう。ですから、母親の推薦は、このような場合には明白な利害関係の得失を表します。このような明らかにされない利害関係の得失によって汚された研究は、遺伝子工学についての討論において重大な懸念です。

もし遺伝子組み換え農作物の利点に関するピアレビューされたデータだけが、その主要な関心が公益ではなく私益にある当事者によって供給されたなら、一般人は研究の整合性に疑問を抱く理由を持っているでしょう(これが、非営利のピアレビューされた研究だけを、私が引用しようとする理由でもあります)。同様に、もし農業への遺伝子組み換え技術の使用に対する強いスタンスを持っている人が営利目的のバイオテクノロジー企業もしくはオーガニック産業の従業員であるなら、利害関係の得失が存在するかもしれませんから、このような雇用関係は明らかにされるべきです。

(全面開示:私の研究室におけるすべての研究は、非営利の関係筋によって資金提供されています。Raoulと私の給与はカリフォルニア大学デイビス校と政府補助金から支払われます。私たちは二人とも、バイオテクノロジー企業あるいはオーガニック産業からの支払いを受けていません)


「食の安全・市民ホットライン」とさいたま市保健所に拍手!!

2011-01-14 08:24:21 | Weblog
食の安全にかんする市民の指摘をウェブでどんどん公表して行くという「食の安全・市民ホットライン」について昨年11月11日、「小若順一氏らの薬事法違反(? )を日本消費者連盟が明らかに?」で伝えた。市民団体で不安を煽り、「こんなによい商品がある」と会社で「無添加白だし」を買わせる商法についての指摘だ。

同ホットラインはその後、しっかりと、企業とさいたま市に連絡し、企業はインターネットのウェブサイトを既に作り替えた。そして、さいたま市保健所も昨年12月27日、文書で回答し、その文書が同ホットライン上で公開された(「これまでの安全情報データベース」の中にある「不具合情報」から読める)。

回答文書には、こう書かれている。「一般に食品に対して効能効果を謳う広告は薬事法に違反する行為にあたるため、当該業者には、薬事法の見地から食品に対する広告行為については十分注意するよう指導しました」。また、健康増進法の見地からも、「いわゆる健康食品の誇大広告に該当するため関東信越厚生局の指導の下、指導を行いました」だそうだ。行動に移し、わずか10日間で行政から回答を引き出す。企業の問題のある広告を変えさせる。素晴らしい。見事である。

私は、同ホットラインに協力している団体や専門家等の日頃の活動には賛同できないことが多いし、同ホットラインが「これまでの安全情報データベース」の中で「ご注意下さい」(専門家や協力団体、事務局からのアドバイス)として挙げている項目は、非常に問題が多いと考えている。科学的でない記述や事実誤認が散見される。
しかし、それはそれとして、実際にウェブサイトを変えさせ被害を食い止め、行政の回答文書を引き出したその努力は尊敬したい。滋賀県の業者が販売していた「アレルギー対応大判焼き」についても、業者や滋賀県、地元保健所等に連絡して改善させた。この行動力、見習わなければ。