松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

誇りを持って生き延びろ!

2008-09-30 11:23:55 | Weblog
 9月29日、ある生協の学習会で、鳥取県畜産農業協同組合の鎌谷一也・代表理事組合長の講演を聴いた。その時に出たのが、タイトルの言葉。「もう廃業したい」ともらす生産者に言っているそうだ。力のあるいい言葉。鎌谷さんはいつも通り、にこにこ笑顔で話していた。でも、その裏にある苦しさは、本当に深い。

 同農協の「牛飼い」は少し変わっている。説明するには、まず、大山乳業農業協同組合の話から始めなければならない。
 鳥取の酪農家は全員、大山乳業の組合員であり、生乳を大山乳業の工場に出している。乳を出すのはメスだけ。酪農用の牛であるホルスタイン種のメスに種付けして妊娠出産させて、その牛の乳を人間様がいただく、ということを繰り返すのが普通の酪農だ。
 でも、出産で当然、オスも産まれてしまう。そのオスはどうする? そして、妊娠出産と生乳生産を繰り返して年老いたメスはどうする?

 そこで、鳥取県畜産農協はオスを21~24カ月令まで肥育して「国産牛」として出荷する。また、約3年ほど、搾乳して働いてもらったメスの経産牛を、約3カ月肥育して、肉として出荷している。
 つまり、牛を最大限に活かして乳も肉も食べさせていただこう、というのが鳥取県畜産農協のポリシーである。

 2000年からは、飼料イネや食品副産物(おからや米ぬかなど)を飼料に取り入れ、牛の排泄物は堆肥化して水田に還し飼料イネの栽培に活かすという循環系の構築にも取り組んでいる。
 ここの取り組みを見ていると、本来の畜産の形を見るような思いがする。畜産はもともと、人が食べられない草や食品残渣を家畜に食べさせて食物に変える「技術」だった。現在の畜産、特に日本の畜産は、人が食べられる穀物を家畜に食べさせて味の良い肉や牛乳にする。サシが十分に入り脂のとろけるような肉、高脂肪分の牛乳は、人類が長年行ってきた資源の有効利用というあり方からは、かなりずれている。

 そして、鳥取県畜産農協はそのずれを意識して、少しずつ変えていこうとしているのだ。飼料イネや食品副産物を食べて育った、赤身のおいしい肉を作っていこうとしている。
 その取り組みは私に、食べられないものを食べるものに変えるという本来の畜産の叡智を思い出させてくれる。その素晴らしさはこれからちょこちょこ、紹介する機会が出てくると思うけれど、今回は冒頭の「誇りを持って生き延びろ!」の話。

 牛乳を生産する酪農家の経営は今、本当に苦しい。2003年から06年にかけて、乳価が下落したことで所得が2割近く下がった。さらに、07年から08年にかけて飼料価格が約1.5倍に高騰。さらに資材の値上がりも追い打ちをかけて、所得が半減、7割減という状況だという。
 肉を作る肥育農家も、似たような窮状だ。そして、鎌谷さんはこう言う。「国内でBSEが発生した時は、激流だったけれど、団結して流されないように頑張った。でも、現在の危機は、闇夜の海。星も陸地も見えないところで、水も食べ物もなくいつまで漂流が続くか分からない」。

 多くの農家が借金でがんじがらめ。自己破産を考える農家を、鎌谷さんは励ます。「破産したって食っていかなきゃいけない。だったら頑張れ」。「私たちは価値を生産している。だから、誇りを持って生き延びろ」

 飼料イネをうまく栽培して飼料にできると、コストダウンにつながるそうだ(もっとも、飼料イネも国の補助金がないと輸入飼料に太刀打ちできないのだが)。作業の効率化なども図り生産コストを下げる努力を続ける。同時に、消費者に話す機会、畜産の現状を知ってもらう機会を増やし、飼料イネ育ちの肉の消費拡大を目指す。
 
 鎌谷さんは、明るい。今でも希望を持っているように見える。消費者がこの価値を、毅然と生きる農業生産者の姿を、早く評価できるようにならなければ。
 例えば、通信費にかけるお金を削って、よい牛乳や牛肉にプラスアルファの価格を支払うという「応援消費」ができるようになったらいい。 


メラミンをなぜ混入するのか?

2008-09-27 16:06:10 | Weblog
 中国製乳製品のメラミン混入事件についてかなり多くの方から、「何のために、メラミンを混入していたのか?」と尋ねられた。新聞でもぼちぼち説明されているのだが、分かりにくいようだ。メラミンをアミノ酸の一種と誤解している人もいるようなので、説明しておこう。

 食品のタンパク質含量を測定する時、通常はタンパク質を直接測るのではなく、Nの量を測定してタンパク質の量に換算している。タンパク質という生体高分子の量をそのまま測るのはなかなか難しいので、元素であるNを正確に測るのだ。

 タンパク質の構成要素であるアミノ酸各種は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、それにイオウ(S)という元素から構成されている。アミノ酸がつらなってできるタンパク質は、アミノ酸のつながる順番によって多種多様なものがあるけれど、Nの割合はあまりおおきなぶれがなく平均して16%。なので、Nをまず定量し、そこから換算してタンパク質の含有量とする。
 食品や植物などに含まれるNを定量するには一般に、ケルダール法という昔から行われている方法を使う。濃硫酸などを用い加熱して分解し、Nの含有量を化学的に測定する。
 
 そこで、なぜ牛乳にメラミンは入れるか、だ。メラミンは、アミノ酸の一種ではなく、分子式C3H6N6の有機化合物。Nが分子量の66%を占めている。N含有率が極めて高い化合物であるメラミンを牛乳に入れれば、ケルダール法で測った時にはN含有量が高くなる。そのため一見、タンパク質含有量も高く見えるという理屈になる。

 私は、中国語は読めないのだけれど、中国のサイトではメラミンが「蛋白精」と表現されているらしい。つまり、タンパク質のもと、ということ。すごいですね。

 メラミンの毒性については、食品安全委員会の資料が詳しい。
 
 話が少しそれるけれど、このケルダール分析、ものすごく懐かしい。私は大学時代、「植物栄養学」研究室にいた。栄養学の対象として植物を研究するところと時々勘違いされるが、そうではなく、植物にとっての栄養学、つまり肥料学、今風に言うと植物生理学を学ぶ研究室。
 肥料学にとって、ケルダール分析は基本のキ。なんといっても、植物にとってNはもっとも重要な必須元素だ。で、研究室の人たちはよく、ケルダール分析をしていた。

 ところが、私は不良学生だったし、Nの代謝系にかかわる研究はしておらず、植物の微量必須元素であるホウ素(B)の生理作用について、ちょこちょこ調べていただけ。そのため、ケルダール分析は、大学と大学院にいた6年間の間に1回しかしたことがない。なんだか時間がかかり面倒くさくてしかたがなかったことだけを覚えている。

 ケルダール分析は濃硫酸や高濃度の水酸化ナトリウム溶液を使うし加熱もする。時間もかかる。まったく面白くないけれど、注意してやらなければならない定量法だ。なので、学生にとってはちょっと辛い。
 学生の中には、火をたきながら途中でどこかに遊びに行ってしまって、後で先生に大目玉を食らった人もいた。この学生は今や、Natureなどの一流学術誌に何報も出している偉い研究者になってます。
 あの頃は、なんだかんだとよく先生に怒られたなあ。挨拶がちゃんとできていない、というところから怒られました。懐かしい思い出です。

大本営発表

2008-09-25 04:51:10 | Weblog
 日経BPのFood Scienceというサイトで4年半連載してきたコラムが今週、最終回となった。
 いろいろと思うところがあり、卒業することにした。支えてくださった皆さんにお礼申し上げたい。ありがとうございます。

 最後は私にとって非常に残念なことなのだが、農水省批判となった。
 事故米穀の関連業者を、「食の安全の確保を最優先する観点から」(大臣談話)、了解を得ることなく公表し始めたことに、私はずっとこだわっている。

 直接の担当者の話を私はまだ、聞けていない。だが、周辺の人たちは今回のリスト公表について「政治家からの圧力に違いない」と言う。つまり、「職員は、リスト公表が問題だと思っているが、抗えない」という解釈だ。
 
 本当は、リスト公表を受けて報道してしまったマスメディアの批判もしたかった。が、コラムとして散漫になってしまうので、やめた。

 今、マスメディアがやっていることは、大本営発表の垂れ流しと同じだ。
 リスト公表によって風評被害が起きている、と今頃テレビや新聞が報じているけれど、16日のリスト公表時点で、「この公表には問題があるから、うちは個別の業者名は報じない」という判断があってもよかったはずだ。
 自分たちは思考停止状態で、そのまんま掲載したりニュースとして流しておいて、「農水省に批判が集まっている」と平然と報じる感覚が、私には理解できない。
 一般の人たちも、もっとメディアに怒ってよいのではないでしょうか?

  

モンクロシャチホコ

2008-09-21 13:20:19 | Weblog
 メラミン、大変。
 でも、今日は別の話。

 我が家の庭に生えているスモモの木が、丸坊主になってしまった。虫にやられたのだ。とても忙しく、しばらく目を離しているうちに、悲惨なことになってしまった。

 やったヤツらは分かっている。モンクロシャチホコ。昨年と同じだ。昨年は、出張から戻ったら、写真のようになっていた。虫嫌いの人は、写真をクリックしないように。

 この時は、なんの虫かわからなかった。で、私が大尊敬している病害虫研究者、池田二三高さんに、この写真を添付したメールを送った。これはなに?

 即座に回答いただきました。いろいろアドバイスもいただいたのだが、あまりの虫だらけに、なにもせず。面白がって知人の生協職員数人に写真を送って、思いっきり顰蹙を買いました。そして今年……。

 やっぱり、昨年対処しておけばよかった。病害虫は、その年だけしのげばいい、というものではない。農業生産者の御苦労をほんの少し垣間見たような……。

 環境省植物防疫課が今年5月、「公園・街路樹等病害虫・雑草管理暫定マニュアル~農薬飛散によるリスク軽減に向けて~」というパンフレットを作って公表している
 モンクロシャチホコの解説も。
 池田さんも、写真を提供しています。

 

柄にもなくオロオロ

2008-09-20 19:54:18 | Weblog
 実は、今回の農水省のやり口に、私は個人的に大きな衝撃を受けた。柄にもなくオロオロと混乱した。

 「食の安全」とは関係がないのに、「食の安全の確保を最優先する観点から、関係企業等の名称を公表する」(大臣談話)という言い方は、許されない。
 批判を逃れ、「情報公開」という大義名分を守るために、被害者である零細業者の名前まで公表した。私は、「ああ、農水省は、業者を見捨てたのだ」と思った。
 罪のない人たちを、こんなに簡単に見捨てるような国に、私たちは生きている。そのことがショックだった。
 
 私はこれまで、市民向けの講演で、「中央省庁はBSE問題以降、大きく変わってきた。批判するだけでなく、その点もきちんと見てあげましょう。信頼しましょう」と言ってきた。
 マスメディアは、批判をする。批判をするのが自分たちの仕事だと思っている。日本という国には、行政、役人が血のにじむような努力をしていることを評価して褒めてあげるシステムがない。でも、だれかが認めてあげないと、役人だって「頑張ろう」という気にならないでは?

 そんなことを、新聞記者時代からずっと思ってきた。批判する時は批判するけれど、褒める時は中央省庁や自治体でも、自信を持って思いっきり褒めることができる。そんな力のあるライターになりたいと思って、やってきた。

 重箱の隅をつつくような批判記事を書いて「市民派」のつもりでいる新聞記者やライターなんて、ごまんといる。報道はそんなものだ、という思い込みも世間にはある。
 そんな安全圏での仕事はしない。そう決めて、努力してきたつもりだ。
 だから、「食品安全行政は、最近よく頑張っている。だから、国をまず信頼しましょうよ。信頼感を役人たちに伝えて、さらに頑張ってもらいましょうよ」とも言ってきたのだ。
 
 今回、「そんな私って、なんなのよっ」と正直に言って思いました。

 農水省をもう信頼できない。役所があれでは、メディアがどんなにリスクについて理解できなくてでたらめを報じても、文句は言えない。

 空しい。オロオロ。やっぱり私は「甘ちゃん」だったのかなあ、と思い、意気消沈した。


 で、表面は取り繕って「元気な松永さん」でいるわけだが、やっぱり親しい人たちには気付かれていたらしい。言葉をかけてもらったり、メールをいただいたりした。ありがとうございます。嬉しかった。

 今回は、徹底批判するべき時なのだろう。科学的根拠のある批判をしたい。そして、改善されたら、その時は認める。褒める。
 結局は、その繰り返しをするしかないのだと思う。


 

食品安全委員会は、資料を更新していた

2008-09-20 19:02:47 | Weblog
 「食品安全委員会も頑張っているようですよ!」 食品企業の方から教えてもらった。

 私は、食品安全委員会が5日に出したメタミドホスやアフラトキシンなどについての簡単なまとめ資料を見て、「これでは足りない」と思い、17日付で「食安委はなぜ委員長談話や見解を出さない?」と記述した。でも、いやはや、資料は更新していたようですね。

食品安全委員会

 例えば、メタミドホス。どうも12日に更新されており、
「基準値以上のメタミドホスが含まれている事故米穀が、食用として流出してしまいましたが、これを使用した食品を食べることにより健康に悪影響が出るのでしょうか?」という質問を設定し、ADIとARfDの両方について検討し、「心配いらない」と答えている。

 アセタミプリドについても、同様の質問と答えを追加し、アフラトキシンについては17日付で、鹿児島県の情報を追加しているようだ。

 さらに。
 18日には、11日に開かれた食品安全委員会第254回会合議事録抜粋をわざわざ公表。委員長の言葉を伝えている。


 「残留基準値を超えて検出された米穀が、食用に流通していたということは、量はともかくとして、食品安全の確保のための制度の根底を覆すという本当にゆゆしき事態であって、あってはならないことと考えます。
 一方で、国民が過剰に不安を感じないよう、科学者の立場から現状のリスクを冷静に分析するということも重要です。

 危害要因のうち、アセタミプリドとメタミドホスにつきましては、暫定基準値を上回っているものの、幸い比較的低い濃度でした。
 この2つの農薬について、食品安全委員会ではリスク評価を既に行い、毎日、一生涯食べ続けても健康に悪影響がない量である一日摂取許容量を決めておりますが、この値に比べても、事故米に含まれている農薬の量は十分に低いレベルなので、健康に悪影響が出る心配はありません」


 食品安全委員会は委員長談話を出すべく準備を進めていたが、圧力があり頓挫した、という情報も漏れ伝わってきた。ギリギリの努力が、「委員会議事録の抜粋」なのかもしれない。

 もう一息頑張って、やっぱり正式に委員長談話と委員会見解として、大々的に公表してほしかった。
 そうしないと、マスメディアの記者たちが報じない。一般の人たちに、大切な情報が伝わらない。

食品安全委員会はなにをしている?

2008-09-17 14:32:38 | Weblog
 今回の事故米について、食品安全委員会が委員長談話を発表しないのが、気になってしかたがない。
 農水省がいくら「安全だ」「濃度は健康被害を出した中国製ギョーザの60万分の1だ」と言ったところで、あんな不始末をしでかした組織が信用されるはずがない。
 でも、事故米のリスクの本当のところを、しかるべき機関が責任を持って国民に伝えるのは、食品行政における大きなポイントではないか。

 ここは、中立のリスク管理機関である食品安全委員会が引き取って、きちんとした見解を示したほうがいい。委員長談話を発表し、委員会としての見解を明らかにし、その根拠となった資料やデータも公表して、事故米の科学的な検討結果を国民に伝える必要があるのではないか?
 
 国の確固たる姿勢が見えないから、多くの人たちが訳が分からず、不安になっているのだと私は思う。

 現に、昨年1月に宮崎で鳥インフルエンザが発生した時は、直後に食品安全委員会委員長談話、委員会見解が公表されている。

 こんなこと、食品安全委員会の人たちも農水省も百も承知だ。でも、できない。できないのはなぜだろう? 


事故米業者公表はおかしい

2008-09-17 13:38:50 | Weblog
 農水省が、事故米の流通や販売にかかわった業者300社あまりを公表した。
 毎日新聞は「食の安全を最優先しすべてを公表した」と17日朝刊で報じている。

 これはおかしい。前にも書いた通り、今流通している米は、健康リスクを心配する必要がほぼない。少なくとも、メタミドホス残留のもち米やアセタミプリド残留は、濃度が分かっており、健康リスクの懸念はない。業者名を公表しても、食の安全とはかかわりがない。

 「食の安全を最優先に」というのは、農水省の言い逃れだとしか私には思えない。「なぜ、隠蔽する?」とマスメディアに批判されて、農水省は自らの責任を放棄して思考停止状態でリストを全部公表したとしか、私には見えない。

 事故米をつかまされた被害者であり、食品としての安全性に懸念はないのに名前を公表されてしまった零細業者の方々が、あまりにもかわいそうだ。

アフラトキシンのリスク

2008-09-15 22:11:08 | Weblog
 アフラトキシンB1が残留基準を超えていた事故米9.5tが、食用になっていたことで、アフラトキシンのリスクに関心が集まり、いろいろな人がリスクの計算をしているようだ。

 それはそれでよいのだが、リスクを計算する前にきちんと事実を押さえておこう。9.5tが渡った焼酎メーカー3社は、社名を積極的に公表し鹿児島県がすぐに検査をしている。結果は陰性。アフラトキシンは検出されていない。
 焼酎は、米やいもなどを発酵後に蒸留して集めるから、分解されたり揮発したり、焼酎粕に残っているのかもしれない。
 いずれにせよ、焼酎メーカー3社は立派。すばやく検査して発表した鹿児島県もえらい。迅速な判断と対応、情報公開という危機管理能力は、焼酎に対する信頼感醸成におおいに役立つと思う。これからジワジワ効いてくる。

鹿児島県の検査結果ページ
 
 ということを前置きにして、やっぱりアフラトキシンのリスクを考えてみたい。
 アフラトキシンは遺伝毒性のある発がん物質であり、耐容摂取量は設定されていない。つまり、摂取量は少ないほど良い。B1、B2、G1、G2、M1、 M2の6つのタイプが知られており、B1 は天然物の中で発がん性が最強とされている。国際がん機関(IARC)は混合物をグループ1(ヒトに対して発がん性を示す)に分類している。

IARC資料

 日本では、「食品から検出されてはならない」とされているが、アフラトキシンB1 10ppb=0.01ppmを超えるものを陽性として規制することになっている。アフラトキシンを産生するカビは日本にはいないとされるが、海外ではトウモロコシやナッツ類に付きアフラトキシンを産生するため、輸入検疫でしょっちゅう、検出されている。
 ごく普通にある天然毒である以上、ゼロを求めるのは現実的ではなく、10ppbという規制値が設けられている。

 が、アフラトキシンを少しでも口に入れればがんになるかと言えば、そうではない。これも、摂取量の検討が必要。

 まず、急性毒性を検討してみよう。経口摂取によるLD50は、犬で0.50~1.00mg/kg体重。羊で1.00~2.00mg/kg体重。ラット(雄)で5.50~7.20mg/kg体重。これらの数字をそのまま人間にあてはめてしまうのは乱暴だけれど、1.00mg/kg体重としてみよう。つまり「体重50kgの人が50mg食べると、急性症状が出て肝臓がんや腎臓障害などで死ぬ確率が半分ね」という話だ。
 今回の事故米は、アフラトキシンB1濃度が最高で50ppb。この米を1kg食べると、50μg食べることになる。米は1合150gですよ。当然、1kgは食べられないし、食べられたとしてもまだ、50mgの1000分の1。今回の事故米を食べてすぐに死ぬのは、絶対に無理だ。

 次は、長期毒性である。一定量を長期に食べると、発がんの確率が上がる。JECFAによれば、1日に1ng/kg・体重のアフラトキシンB1を摂取した場合に肝臓がんが発生する確率は、10万人に0.01人。ただし、B型肝炎保持者は発がんの確率が30倍上がり10万人に0.3人になる。

 これは、B型肝炎保持者ではない体重50kgの人が1日にアフラトキシンB1を50ng食べ続けると、10万人に0.01人は肝臓がんになるということ。50ppbの米ならば毎日1gの摂取という計算だ。50ppbの米を毎日100g食べると、大まかに考えて10万人に1人は肝臓がんになる。

 1回食べてがんになるわけではない点に注意。でも、アフラトキシンに汚染された事故米を毎日食べると、がんになる確率が上がるのは事実だ。ここが、メタミドホスやアセタミプリドなどの農薬と決定的に違う。
 これはやっぱり食べたくない。アフラトキシンは、厳しい規制が必要だ。
 繰り返し書くが、アフラトキシンに汚染された事故米は米菓や給食のご飯としては提供されておらず、焼酎ももう出回っていないので、心配要らない。

 一方で、日本人のアフラトキシンB1一日摂取量が、厚労省の研究班によって推定されており、アフラトキシンB1が10ppbを超える食品を規制した場合には、一日に2.063ng/kg体重の摂取量になるという。アフラトキシンは、トウモロコシやピーナッツなどにもつきやすいので、日本人も日常的にある程度の量は摂取している。
 厚労省は、輸入検疫でアフラトキシンの命令検査を行っており、アフラトキシンの摂取量を抑えるべく、日常的に努力している。
 
 実際には、発がん物質はアフラトキシンばかりではない。酒やたばこなどほかにも数多くある。肝臓がんの死者数は年間で3万人以上。10万人中30数人が肝臓がんで亡くなる。いろいろな要因でがんになり、大勢の人が亡くなるのだ。
 この数字と、アフラトキシン事故米の、「10万人が毎日100g食べ続けてやっと、がんにかかる人が1人増加」という数字を比べれば、ほかに心配すべきことが山ほどあることが分かる。


 ちなみに、アフラトキシンのデータは、農水省のリスクプロファイルシートがよくまとまっている。農水省のリスク管理のページ(有害化学物質)から行ける。
 農水省の消費・安全局は、こうしたデータを地道に公表してリスクコミュニケーションを重ねていたのだと思う。しかし、総合食料局食糧部の所業と、白須敏朗次官の「私どもに責任があるとは考えていない」発言などで、これまでの努力は泡と消えたに等しい。
 私自身は、十把一絡げで「農水省は~」と語るつもりはないけれど、世間はそんな流れになりそうだ。
 努力していた職員それぞれの顔を思い浮かべると、可哀想で、私自身も苦しくなる。

事故米報道が混乱している

2008-09-15 21:57:11 | Weblog
 事故米には種類がいろいろとあるのに、一緒くた。でも、リスクはそれぞれ違う。分けて考えなければだめでしょう。

 農水省の公表している不正規流通経路によれば、メタミドホス、アセタミプリドという二つの農薬残留米と、アフラトキシン汚染米、カビ米の4種類がある。
(1)メタミドホスが0.05ppm残留したもち米800t
        ー米菓や給食のご飯などになっているようだ
(2)アフラトキシンB1に汚染されたうるち米(米国産0.01ppm、ベトナム産0.02ppm、中国産0.05ppm)9.5t
        ー焼酎
(3)アセタミプリドが残留したうるち米598t
        ー焼酎や酒
(4)カビがついた米(量は不明)

 
 (1)のもち米で残留基準を超えたメタミドホスの一日摂取許容量(ADI)は、0.0006mg/ kg体重/日。体重50kgの人がメタミドホスを毎日0.03mg食べても、一生涯健康に影響が生じない。ということ。ということは、このもち米を毎日 600g食べても平気。(1)が加工されてできた米菓やご飯によって、健康影響が出ることはないだろう。

 (3)のアセタミプリド残留うるち米については、農水省の資料では残留濃度が公表されていない。が、報道によれば残留濃度は0.03ppmらしい。アセタミプリドのADIは0.071mg/kg体重/日なので、体重50kgの人が毎日3.55mg食べても、一生涯健康影響がない。ということは、このうるち米を毎日118kg食べても問題ない。
 焼酎や酒に加工され、たとえ濃縮されていたとしても、影響の出る量とはかけ離れているので、リスクを心配する必要はない。

 (4)のカビ米は、よく分からない。カビの中には、毒性物質を産生するものとしないものがあり、毒性物質を作るカビが繁殖していたら大変だ。でも、可能性が高いのは通常のカビ。これならば、さして心配する必要もない。もちのカビ、気にせず食べている人が多いでしょう。

 問題は、(2)のアフラトキシンB1が残留しているうるち米だ。アフラトキシンは遺伝毒性のある発がん物質であり、耐容摂取量は設定されていません。つまり、摂取量は少ないほど良く、ここまでなら大丈夫という量など、とても定められない、ということ。
 でも、結論から言えば、この(2)の米から作られた焼酎も心配なし。なぜならば、鹿児島県がこのうるち米から作られた焼酎を既に分析していて、アフラトキシンは検出されていないから。
 製造する時に分解されたり揮発したり、あるいは焼酎粕の方に含まれているのだろう。

 結局、これらの事故米から作られた食品は、どれも心配いらない。リスクという見地から言えば、回収の必要はない。
 でも、(1)(2)(3)からできた食品は食品衛生法違反。同法では、加工食品の原材料に残留基準を超えたものを使ってはいけないことになっており、できた加工食品自体にリスクはなくても流通させてはならない、と決まっている。

 食品の残留基準は非常に低くて、それを多少超えた食品を食べても健康影響はなし。でも、法律違反であり、食品メーカーは回収する。法律違反=危険とは違う。

 リスクを検討せずに「事故米=危険」「法律違反=危ない」と報じるマスメディアに煽られて不安に陥るのは、ばかばかしいと私は思う。

 ただ、三笠フーズに渡って(書類上だが)、その後の流通経路が不明のものがまだある。農水省の資料では、1186tがまだ不明のまま。これが、多くの人々の不安の根源だろう。「分からない」ことはとにかく不安、怖い。
 農水省はまず、流通ルートの全容解明を急ぐべきだ。