9月29日、ある生協の学習会で、鳥取県畜産農業協同組合の鎌谷一也・代表理事組合長の講演を聴いた。その時に出たのが、タイトルの言葉。「もう廃業したい」ともらす生産者に言っているそうだ。力のあるいい言葉。鎌谷さんはいつも通り、にこにこ笑顔で話していた。でも、その裏にある苦しさは、本当に深い。
同農協の「牛飼い」は少し変わっている。説明するには、まず、大山乳業農業協同組合の話から始めなければならない。
鳥取の酪農家は全員、大山乳業の組合員であり、生乳を大山乳業の工場に出している。乳を出すのはメスだけ。酪農用の牛であるホルスタイン種のメスに種付けして妊娠出産させて、その牛の乳を人間様がいただく、ということを繰り返すのが普通の酪農だ。
でも、出産で当然、オスも産まれてしまう。そのオスはどうする? そして、妊娠出産と生乳生産を繰り返して年老いたメスはどうする?
そこで、鳥取県畜産農協はオスを21~24カ月令まで肥育して「国産牛」として出荷する。また、約3年ほど、搾乳して働いてもらったメスの経産牛を、約3カ月肥育して、肉として出荷している。
つまり、牛を最大限に活かして乳も肉も食べさせていただこう、というのが鳥取県畜産農協のポリシーである。
2000年からは、飼料イネや食品副産物(おからや米ぬかなど)を飼料に取り入れ、牛の排泄物は堆肥化して水田に還し飼料イネの栽培に活かすという循環系の構築にも取り組んでいる。
ここの取り組みを見ていると、本来の畜産の形を見るような思いがする。畜産はもともと、人が食べられない草や食品残渣を家畜に食べさせて食物に変える「技術」だった。現在の畜産、特に日本の畜産は、人が食べられる穀物を家畜に食べさせて味の良い肉や牛乳にする。サシが十分に入り脂のとろけるような肉、高脂肪分の牛乳は、人類が長年行ってきた資源の有効利用というあり方からは、かなりずれている。
そして、鳥取県畜産農協はそのずれを意識して、少しずつ変えていこうとしているのだ。飼料イネや食品副産物を食べて育った、赤身のおいしい肉を作っていこうとしている。
その取り組みは私に、食べられないものを食べるものに変えるという本来の畜産の叡智を思い出させてくれる。その素晴らしさはこれからちょこちょこ、紹介する機会が出てくると思うけれど、今回は冒頭の「誇りを持って生き延びろ!」の話。
牛乳を生産する酪農家の経営は今、本当に苦しい。2003年から06年にかけて、乳価が下落したことで所得が2割近く下がった。さらに、07年から08年にかけて飼料価格が約1.5倍に高騰。さらに資材の値上がりも追い打ちをかけて、所得が半減、7割減という状況だという。
肉を作る肥育農家も、似たような窮状だ。そして、鎌谷さんはこう言う。「国内でBSEが発生した時は、激流だったけれど、団結して流されないように頑張った。でも、現在の危機は、闇夜の海。星も陸地も見えないところで、水も食べ物もなくいつまで漂流が続くか分からない」。
多くの農家が借金でがんじがらめ。自己破産を考える農家を、鎌谷さんは励ます。「破産したって食っていかなきゃいけない。だったら頑張れ」。「私たちは価値を生産している。だから、誇りを持って生き延びろ」
飼料イネをうまく栽培して飼料にできると、コストダウンにつながるそうだ(もっとも、飼料イネも国の補助金がないと輸入飼料に太刀打ちできないのだが)。作業の効率化なども図り生産コストを下げる努力を続ける。同時に、消費者に話す機会、畜産の現状を知ってもらう機会を増やし、飼料イネ育ちの肉の消費拡大を目指す。
鎌谷さんは、明るい。今でも希望を持っているように見える。消費者がこの価値を、毅然と生きる農業生産者の姿を、早く評価できるようにならなければ。
例えば、通信費にかけるお金を削って、よい牛乳や牛肉にプラスアルファの価格を支払うという「応援消費」ができるようになったらいい。
同農協の「牛飼い」は少し変わっている。説明するには、まず、大山乳業農業協同組合の話から始めなければならない。
鳥取の酪農家は全員、大山乳業の組合員であり、生乳を大山乳業の工場に出している。乳を出すのはメスだけ。酪農用の牛であるホルスタイン種のメスに種付けして妊娠出産させて、その牛の乳を人間様がいただく、ということを繰り返すのが普通の酪農だ。
でも、出産で当然、オスも産まれてしまう。そのオスはどうする? そして、妊娠出産と生乳生産を繰り返して年老いたメスはどうする?
そこで、鳥取県畜産農協はオスを21~24カ月令まで肥育して「国産牛」として出荷する。また、約3年ほど、搾乳して働いてもらったメスの経産牛を、約3カ月肥育して、肉として出荷している。
つまり、牛を最大限に活かして乳も肉も食べさせていただこう、というのが鳥取県畜産農協のポリシーである。
2000年からは、飼料イネや食品副産物(おからや米ぬかなど)を飼料に取り入れ、牛の排泄物は堆肥化して水田に還し飼料イネの栽培に活かすという循環系の構築にも取り組んでいる。
ここの取り組みを見ていると、本来の畜産の形を見るような思いがする。畜産はもともと、人が食べられない草や食品残渣を家畜に食べさせて食物に変える「技術」だった。現在の畜産、特に日本の畜産は、人が食べられる穀物を家畜に食べさせて味の良い肉や牛乳にする。サシが十分に入り脂のとろけるような肉、高脂肪分の牛乳は、人類が長年行ってきた資源の有効利用というあり方からは、かなりずれている。
そして、鳥取県畜産農協はそのずれを意識して、少しずつ変えていこうとしているのだ。飼料イネや食品副産物を食べて育った、赤身のおいしい肉を作っていこうとしている。
その取り組みは私に、食べられないものを食べるものに変えるという本来の畜産の叡智を思い出させてくれる。その素晴らしさはこれからちょこちょこ、紹介する機会が出てくると思うけれど、今回は冒頭の「誇りを持って生き延びろ!」の話。
牛乳を生産する酪農家の経営は今、本当に苦しい。2003年から06年にかけて、乳価が下落したことで所得が2割近く下がった。さらに、07年から08年にかけて飼料価格が約1.5倍に高騰。さらに資材の値上がりも追い打ちをかけて、所得が半減、7割減という状況だという。
肉を作る肥育農家も、似たような窮状だ。そして、鎌谷さんはこう言う。「国内でBSEが発生した時は、激流だったけれど、団結して流されないように頑張った。でも、現在の危機は、闇夜の海。星も陸地も見えないところで、水も食べ物もなくいつまで漂流が続くか分からない」。
多くの農家が借金でがんじがらめ。自己破産を考える農家を、鎌谷さんは励ます。「破産したって食っていかなきゃいけない。だったら頑張れ」。「私たちは価値を生産している。だから、誇りを持って生き延びろ」
飼料イネをうまく栽培して飼料にできると、コストダウンにつながるそうだ(もっとも、飼料イネも国の補助金がないと輸入飼料に太刀打ちできないのだが)。作業の効率化なども図り生産コストを下げる努力を続ける。同時に、消費者に話す機会、畜産の現状を知ってもらう機会を増やし、飼料イネ育ちの肉の消費拡大を目指す。
鎌谷さんは、明るい。今でも希望を持っているように見える。消費者がこの価値を、毅然と生きる農業生産者の姿を、早く評価できるようにならなければ。
例えば、通信費にかけるお金を削って、よい牛乳や牛肉にプラスアルファの価格を支払うという「応援消費」ができるようになったらいい。