宮崎県が、種牛49頭の殺処分をしないように国に要望した問題は、感染リスクだとか、畜産の財産だから、というようなレベルの議論をしても仕方がないような気がする。国が断固として殺処分を主張しているのは、ワクチン接種への影響を防ぐためであり、行政が公平性をいかに演出するか、という話ではないか。
もし、5月22日の段階での東国原知事の延命要望に応え、国が「種牛49頭は特別扱いし、経過観察して処分するかどうか決めます」などと認めたら、どうなっただろうか。22日は、発生農場の半径10km以内のすべての牛、豚を対象に、殺処分を前提としたワクチン接種が始まった日。感染が認められない牛や豚も処分しなければ、ということに、やっと地元自治体や農家が同意して始まったワクチン接種だ。「種牛を特別扱い」となると、割り切れぬ思いを抱え、ワクチン接種と殺処分を拒否する農家が出てきても不思議ではない。そこまではいかなくとも、「なぜ、扱いが違うのか」という不満は、現地に蔓延したはずだ。
種牛は「日本畜産の財産だから、処分回避を」と知事は言ったけれど、これはかなりまずい表現であったように思う。聞いた養豚農家やホルスタイン種を肉用牛として肥育している農家は、「自分たちの仕事に価値はないのか」「黒毛和種だけが特別扱いを許される財産か」と思っただろう。
黒毛和種の種牛を守っても、将来の影響を軽減されるのは黒毛和種関係者だけだ。
それに、宮崎牛が消滅したところで、黒毛和種自体はほかの県でも育成されており、宮崎県でも再生は可能だろう(時間はかかるし、同じ再生は無理だが)。宮崎牛の血筋を守るうんぬんと言うけれど、種牛の親をたどると他産地の種牛だったりする。例えば、安平の父は安福(岐阜県所有の種雄牛)、母の父も安福だ。この牛は、肉質が抜群によく精子が高価格で大量に取引され、全国各地に子孫がいる。
宮崎県の畜産の経済的主力は黒毛和種であり、知事がこだわる気持ちは分かる。松阪牛など他ブランドへの影響も大きい。
でも、黒毛和種の種牛を特別扱いして、ワクチン接種と殺処分がスムーズに進まず、さらに感染拡大したら、黒毛和種のブランド価値などとは比較にならないくらい深刻な大打撃を、日本の畜産に与えることになる。
したがって、東国原知事が「49頭は陰性だ。きちんと隔離している」と主張し、科学的なリスクという点では心配ないとしても、農水省は「49頭も殺処分すべし」と突っぱねるしかなかったのだ。
というわけで、ワクチン接種がほぼすべて終わった今、私は次の動きに注目している。もう、農家が「うちの牛、豚は処分させない」と拒否することはない。黒毛和種だけを特別扱いしても、実際上の問題はもうない。というわけで、やおら国が姿勢を軟化させる、なんてことが起きるかもしれない? 東国原知事が哀願し、赤松大臣、山田副大臣が日本の将来の畜産に思いを馳せ、政治主導の特例として認める?
一方で、口蹄疫が他道府県で発生する時のことを考えると、国はこれ以上前例を作りたくないだろう。各県がそれぞれ、種牛や種豚について「これは重要だから、特別扱いを」と言い出したら、殺処分による防疫措置が大混乱を来すのは目に見えている。
さて、どうなることやら。
念のため、処分の是非に関する私自身の思いを書くと、49頭がどのような方法で隔離されていたかということに関する情報がないので、科学的な判断は部外者には無理。ただ、黒毛和種の特別扱いには疑問がある。その陰で、養豚農家がひどい扱いをされたことを聞いているからだ。それに日頃から、黒毛和種の繁殖や飼育方法には問題が多すぎる、と思っていたので、どうしても黒毛和種産業には批判的になってしまう。
でも、「ひどい目に遭った人がいる人がいるから、あちらもひどい目に」という論法は、感情論だということも分かっている。判断は難しいです。
<訂正 5月29日>松坂牛と入力ミスをしていたので、松阪牛に直しました。ご指摘ありがとうございました。安福の記述の誤りについては、わざとそのままにしてありますが、コメント欄をご覧下さい。こちらも、ありがとうございました
もし、5月22日の段階での東国原知事の延命要望に応え、国が「種牛49頭は特別扱いし、経過観察して処分するかどうか決めます」などと認めたら、どうなっただろうか。22日は、発生農場の半径10km以内のすべての牛、豚を対象に、殺処分を前提としたワクチン接種が始まった日。感染が認められない牛や豚も処分しなければ、ということに、やっと地元自治体や農家が同意して始まったワクチン接種だ。「種牛を特別扱い」となると、割り切れぬ思いを抱え、ワクチン接種と殺処分を拒否する農家が出てきても不思議ではない。そこまではいかなくとも、「なぜ、扱いが違うのか」という不満は、現地に蔓延したはずだ。
種牛は「日本畜産の財産だから、処分回避を」と知事は言ったけれど、これはかなりまずい表現であったように思う。聞いた養豚農家やホルスタイン種を肉用牛として肥育している農家は、「自分たちの仕事に価値はないのか」「黒毛和種だけが特別扱いを許される財産か」と思っただろう。
黒毛和種の種牛を守っても、将来の影響を軽減されるのは黒毛和種関係者だけだ。
それに、宮崎牛が消滅したところで、黒毛和種自体はほかの県でも育成されており、宮崎県でも再生は可能だろう(時間はかかるし、同じ再生は無理だが)。宮崎牛の血筋を守るうんぬんと言うけれど、種牛の親をたどると他産地の種牛だったりする。例えば、安平の父は安福(岐阜県所有の種雄牛)、母の父も安福だ。この牛は、肉質が抜群によく精子が高価格で大量に取引され、全国各地に子孫がいる。
宮崎県の畜産の経済的主力は黒毛和種であり、知事がこだわる気持ちは分かる。松阪牛など他ブランドへの影響も大きい。
でも、黒毛和種の種牛を特別扱いして、ワクチン接種と殺処分がスムーズに進まず、さらに感染拡大したら、黒毛和種のブランド価値などとは比較にならないくらい深刻な大打撃を、日本の畜産に与えることになる。
したがって、東国原知事が「49頭は陰性だ。きちんと隔離している」と主張し、科学的なリスクという点では心配ないとしても、農水省は「49頭も殺処分すべし」と突っぱねるしかなかったのだ。
というわけで、ワクチン接種がほぼすべて終わった今、私は次の動きに注目している。もう、農家が「うちの牛、豚は処分させない」と拒否することはない。黒毛和種だけを特別扱いしても、実際上の問題はもうない。というわけで、やおら国が姿勢を軟化させる、なんてことが起きるかもしれない? 東国原知事が哀願し、赤松大臣、山田副大臣が日本の将来の畜産に思いを馳せ、政治主導の特例として認める?
一方で、口蹄疫が他道府県で発生する時のことを考えると、国はこれ以上前例を作りたくないだろう。各県がそれぞれ、種牛や種豚について「これは重要だから、特別扱いを」と言い出したら、殺処分による防疫措置が大混乱を来すのは目に見えている。
さて、どうなることやら。
念のため、処分の是非に関する私自身の思いを書くと、49頭がどのような方法で隔離されていたかということに関する情報がないので、科学的な判断は部外者には無理。ただ、黒毛和種の特別扱いには疑問がある。その陰で、養豚農家がひどい扱いをされたことを聞いているからだ。それに日頃から、黒毛和種の繁殖や飼育方法には問題が多すぎる、と思っていたので、どうしても黒毛和種産業には批判的になってしまう。
でも、「ひどい目に遭った人がいる人がいるから、あちらもひどい目に」という論法は、感情論だということも分かっている。判断は難しいです。
<訂正 5月29日>松坂牛と入力ミスをしていたので、松阪牛に直しました。ご指摘ありがとうございました。安福の記述の誤りについては、わざとそのままにしてありますが、コメント欄をご覧下さい。こちらも、ありがとうございました