松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

「中立公平な立場から科学的に評価を」と、消費者関連団体が意見書

2009-10-18 16:41:50 | Weblog
 エコナ問題で、(社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会(通称NACS)が15日、意見書を福島瑞穂・内閣府特命担当大臣や松本恒雄・消費者委員会委員長、小泉直子・食品安全委員会委員長、長妻昭・厚生労働大臣に提出した。

 消費者団体の一部が、消費者委員会などで非科学的な主張を行っていること、消費者委員会の議論の方向性に大きな問題があることを、本ブログでも伝えてきた。日経BPによれば、13日にあった消費者委員会の第3回会合では、委員から「政治的に利用されているという気もする」「こういう態度はおかしいのでは」などと異論が出たようだ。
日経BP記事1記事2
 
 NACSは「消費者団体はおろか消費者委員会までもが科学的とは到底いえない議論に終始している現状で、”消費者”を標榜するグループにもそうではない考えを持ったものがいることを示したい」と、意見書の文案を練り、出したという。


 意見書の主な内容は次の通り(全文は、ここで読める)。
1.科学的知見による安全性評価に基づく判断がされることを望む
2.安全性について懸念が生じた場合、リスクの程度や他のリスクとのバランスについての検討や議論が十分なされないままに、販売停止や回収すべきとの主張が広まることに、大きな不安を感じる。食品にリスクがあることは周知の事実であり、このリスクを科学的知見に基づいて評価し、健康に影響がない程度にリスク管理がなされることが重要
3.事業者に対して、科学的根拠に基づいたわかりやすい情報と、消費者がどのような行動をとったらよいのかが明確になるような情報の提供を望む

 最後に、NACSの姿勢として、こう書かれている。

 私たちNACSでは、安全性について不確定な状況が発生した場合には、一方的に行政や事業者への批判に終始することなく、当該商品をどうすべきか、消費者への情報提供はどうあるべきか、関係者はどのような対応をすることが望ましいのかなど、持続可能な社会構築のための客観的かつ冷静な議論と協働による解決を提案したいと考えています。
 また、食生活については、正しい知識を身につけること、バランスの良い食生活を送ること、適度な運動をすることを基本とすることの重要性を関係者とともに考えていきたいと思っています。

 NACSも大きな組織だから、会員の意見をまとめるのは大変だっただろう。しかし、消費者委員会の動きを受けて迅速に対応した。立派だと思う。
 「消費者意識」が必ずしも正しいわけではない。というよりも、科学的には間違っていることが多々ある。しかし、企業は客を否定できない。行政も消費者迎合、政治家に至っては、消費者に受けることしか考えていないのでは、と思える。不幸な状態だし、将来の国の行く末を思うと怖くなる。

 今、消費者の要望に「おかしい」と指摘できるのはなによりもまず、消費者自身である。だが、歴史ある消費者団体はこれまで常に企業や行政批判を繰り返し、それが“仕事”だと思っている。現代社会においてはそれだけではすまないことに、早く気がついてもらいたいのだが、無理なのだろうか。

消費者委員会と「あるある」問題

2009-10-16 12:01:46 | Weblog
 健康食品管理士認定協会理事長の長村洋一先生が、決心して協会のウェブサイトで告発された。
 私は、事実のみを簡潔に書こうと思う。そのうえで、長村先生の告発文をお読みいただきたい。

 消費者委員会は6日に開かれた第2回委員会で、「新開発食品調査部会」を設置することを決め、部会長に田島眞・実践女子大学生活科学部教授を充てることを決めた。この部会は、設置・運営規定の第3条によれば、「健康増進法の規定に基づき、販売に供する食品につき、内閣総理大臣が、特別の用途に適する旨の表示をしようとする者に当該表示の許可を行うとき、及び当該許可に係る食品について、新たな科学的知見が生じたときその他必要があると認めるときに、内閣総理大臣の求めを受けて調査審議する」となっている。

 もし、花王がエコナの特定保健用食品の失効届を出していなければ、この調査部会の最初の審議対象は、エコナになったはずだ。
 それを踏まえて、田島教授について書く。

 田島教授は、2007年に起きた「発掘! あるある大事典II」の捏造問題の時に、ちらっと名前が出てきた。捏造が問題になった納豆の回には関係していない。そうではなく、長村洋一・藤田保健衛生大学名誉教授(現鈴鹿医療科学大学大学院・教授)が告発したレタスの回に関係していた。

 このレタスの特集は、「発掘! あるある大事典II」の前身番組「発掘! あるある大事典」で1998年に放映された。「レタスをたくさん食べるとよく眠れる」という企画で、マウスにレタスを食べさせる実験を行い、マウスが寝た様子が流された。
 長村教授は番組から依頼を受け、マウスにレタスジュースを飲ませる実験をしたが、マウスは眠らなかった。しかし、番組はその実験の様子を流し、眠っているように見えるマウスの映像も流して、「眠ってしまった」と説明した。長村教授に依頼した実験であることに、番組はまったく触れなかった。そして、別の大学教授が「レタスにはラクッコピコリンという有効成分が含まれていて、即効性があります」とコメントした。この人物こそが、田島教授だ。

 長村教授は、レタスで眠らなかった実験結果であったにもかかわらず、その映像の一部を使い「眠った」と報じたのは問題があると考えて、納豆の回の捏造が明らかになった後に告発した。関西テレビが設置した調査委員会は問題事例とはしなかったが、英国の学術誌「Nature」が取り上げた。
(Nature 445, 804-805,22 February 2007)

 日本語の翻訳で脚色したと思われるのは困るので、Natureの記事の一部をそのまま引用する。

So Nagamura was surprised when he saw the programme show one of his mice, declaring: “It’s fallen asleep!” Makoto Tajima, a nutrition researcher at Jissen Women’s University in Tokyo, then appeared explaining that lactucopicrin, a chemical found in wild lettuce, and in trace amounts in cultivated lettuce, can induce sleep. “The programme left the impression that eating three leaves of lettuce can knock you out,” says Nagamura.
Tajima says he’s never carried out any experiments with lettuce, but that he gave accurate information from the scientific literature. He says he felt “a little uncomfortable” explaining another scientist’s results, but wasn’t too con- cerned: “We’re used like TV personalities, I say what the programme wants me to.” Tajima adds that he has appeared on more than 500 television programmes to explain nutrition. “If I didn’t do it, they’d get someone worse.”

 Natureは、日本語のダイジェスト版も出している。2007年4月号に、この記事を翻訳したものが掲載されていて、上記の文章の最後の部分は以下のように翻訳されている。

「我々はテレビタレントとして使われているのだ。だから指示通りにコメントする」と田島教授は話す。これまで500 以上のテレビ番組に出演して栄養素について解説したという教授は、「もし私が出なければ、もっとひどい研究者を取材するだろう」と話す。

 今、この田島教授が消費者委員会の「新開発食品調査部会」の部会長である。
 もう一つ、付け加えなければならないことがある。「発掘! あるある大事典」と「発掘! あるある大事典II」は、花王が単独スポンサーだった。
 

 以上が、明らかな事実だ。
 田島教授は、「あるある」に何回くらい出たのだろうか? ネットで検索するといろいろと出てくるのだが、回数まではつかめない。
 花王が単独スポンサーだった番組に出演し、Natureの記者に“We’re used like TV personalities, I say what the programme wants me to.”と語ったとされる人が、花王の問題商品を審査する? そんな事態は、花王の自主的な失効届によって、避けられた。だが、花王が再度、エコナを申請した暁には、新開発食品調査部会が審査する。

 どう受け止めるべきなのか? 
 私は、こう思うのだ。田島教授は消費者委員として、部会長として国民に説明する義務がある。どんな経緯であのような番組に関わり、Natureのインタビューにどのように話したのか、なにを考えて消費者委員を引き受け、部会長になったのか。
 「あるある」に出ていたからだめだ、などと言うつもりはない。Natureの記者がへんな奴で、発言を曲解された可能性だってある。だから、説明してほしい。
 ことの是非は、それから考えたい。

花王に救われた消費者庁と消費者委員会

2009-10-11 04:39:33 | Weblog
 これはひどい、としか言いようがない。
 消費者委員会の7日の会議だ。ぜひ、日経BP Food Scienceの森田満樹さんの連載「目指せ! リスコミ道」をお読みいただきたい。当日の審議の模様が詳細にリポートされている。議事録がまだ出ていない中での貴重な記録だ。森田さんのことだから、間違いはないはずだ。Food Scienceは有料サイトで月500円。だが、このリポートを読むだけでも十分に価値がある。それくらいすごい審議内容だ。
 私は残念ながら所用で傍聴に行けなかったのだが、森田さん、さすがです。素早いリポートを、ありがとう。今回は、このリポートを引用しつつ、論を進めたい。

 会議ではエコナの問題が取り上げられていて、特定保健用食品(トクホ)の認可について検討されている。だが、多くの委員がジアシルグリセロール(DAG)とグリシドール脂肪酸エステルという二つの問題があることを分かっていない。ごっちゃにしている。
 さらに、「発がん性は一切ないということを担保できて初めて許可を与えるのが普通ではないか」というような発言が出ている。「一切ない」などということは確認できない、という科学的基本が、無視されている。発言した委員は「遺伝毒性で発がん性が疑われているので、遺伝という言葉がある以上、子供孫にかかわる」というトンデモ発言もしている。うーん、この委員は消費者団体の事務局長である。

 結局、問題の本質を科学的に把握しないまま、「トクホは取り消せ」の大合唱。一人の委員だけが「非常に重要なことが分からないという状況がエコナについて発生している。この重要なポイント、分からないということはどういうことか。いったん許可したものを取り消すというのは、消費者庁長官の判断で取り消さないこともできるということだが、今はこの不明であるという状態でどのような判断をするのかとても大切で、このような問題はこれからも起こりうる。白か黒か分からない場合にどういう対応をするか、というのはよく議論していかなくてはならない」と、まともな発言をしている。
 この委員はさらに「このように、どうか分からないということで、物事を決める場合は危なかったという結果と、安全だったという結果の二つがある。その場合に取り消す時、補償の問題も出てくる。そこをきちんとした仕組みをとらないととんでもないことになる」と発言しているが、委員長はまともに取り合っていない。

 どうも、「健康によいとされるトクホに発がん性の懸念なんて、とんでもない」というのが、多くの委員の考え方の根底にあるようだ。だが、トクホがほかの食品に比べてより高い安全性を求められているわけではないはずだ。
 トクホは、厚労省のウェブサイトでは「からだの生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品で、血圧、血中のコレステロールなどを正常に保つことを助けたり、おなかの調子を整えるのに役立つなどの特定の保健の用途に資する旨を表示するもの」となっている。保健機能があるということと、安全性が高いということは、まったく別の事柄である。
 そして、食品中に発がん物質が含まれてはいけないわけでもない。酒も野菜も、発がん物質が含まれている。

 エコナの場合、含有成分が体内で発がん物質に変わる可能性がある、とされているだけで、実際にどうなのかはまだ分からない。リスクの大きさをまだ把握できていない。これまでの実験から、そのリスクはとりわけ大きいとは考えにくいが、「健康上の危惧が存在しないとは言えない」という段階だ。なのに、いきなり「トクホの認可を取り消せ」と迫るとは、なんとも飛躍した議論である。私は、花王を弁護する気はさらさらないし、トクホを守ろうなどという気持ちもないが、このような10年前に戻ったようなゼロリスク志向を認めることはできない。

 もし、消費者庁がこの議論を基に決定を下したら、さすがに食品安全委員会も「科学的に非常に大きな誤解があります」と説明せざるを得ないだろう。この議論を認めたら、これまでの食品安全委員会の緻密なリスク評価はいったいなんだったのか、ということになるからだ。そして、消費者庁と消費者委員会は大恥をかくことになる。
 
 だが、花王が許可の失効届を自主的に出してくれた。その結果、消費者庁と消費者委員会は救われた。よかったね。
 ただし、「食の安全」にかかわる企業や行政の関係者、生協関係者などはみんな、消費者委員会の実力を知った。とんでもない審議内容だったようだ、と私に真っ先に教えてくれたのは、生協職員だった。そのメールには、こう書かれていた。「まるでわかってないおばちゃん達の井戸端会議を覗いてるような…」。たしかに。別の知人はこう言う。「議事録が楽しみだ」。つまり、議事録でどれくらい取り繕われているか、という意味だろう。
 消費者団体も消費者委員会もこの程度、と露呈したことが今後、どこにどのように波及していくのか、見くびっていい加減なことをする企業などが出てこないか、心配になってくる。

遺伝子組換えイネ裁判棄却

2009-10-05 22:41:43 | Weblog
 新潟地裁で行われていた遺伝子組換えイネ裁判の判決が1日あり、原告側(反対派)の訴えが全面棄却となった。
 農研機構中央農業総合研究センター・北陸研究センターの組換えイネ栽培試験について、有機農家や有名歌手、漫画家などが差し止めを求めていたものだ。

北陸研究センターのプレスリリース
共同通信記事
判決前に裁判を詳しく説明した朝日新聞記事
判決を伝える朝日新聞記事

 私は、裁判が起こされた直後に関係書類を読んで、原告側の荒唐無稽な主張に呆然となった。推論に推論を重ねて、「実験に使われる組換えイネは危険だ。大変なことが起きる」と主張する。一つ一つの推論にかなりの無理があるのに、それを積み重ねて行くのだから、どうしようもない。
 これは、科学裁判と言えるような質のものではないというのが私の印象だ。

 ただ、裁判を起こす権利はだれにでもある。世の中に常識の通用しない人はいっぱいいるし、運動のツールとして裁判を使う人もいる。ちなみに、この裁判の訴訟代理人弁護士の中には、京大教授が中西準子先生を訴えて敗訴した例の裁判で、原告側の代理人を務めたおひともいる。「裁判闘争ごっこ」なのだ。
 被告側の北陸研究センターは大変だっただろうしお金も使っただろう。今回の裁判は原告全面敗訴で、裁判費用は原告負担となったが、研究者や関係者の無駄に費やした時間を考えると、被告側は莫大な損害を被っている。本当に同情するけれど、空しいけれど、でも、やっぱり仕方がない。

 だから、私が腹が立つのは、こういう裁判をさも科学的な論争であるように報じる新聞や雑誌だ。「なぜ、取材が足りないことに気づかないのか? もっと勉強しろよ」と正直に言ってこれまでたびたび思った。
 判決後の朝日新聞記事を読んで、さらに赤面。この手の、分かってないのに上から目線、というのは、同じ取材を生業としている人間として、読んでいて辛い。ああ、でも、新聞ってよくやります。私も現役の若い新聞記者だった頃にはやってしまったような。なんで、私が他人の書いた記事を、こんなに恥ずかしがらなきゃならんのだあああ。

 そこで、ちょっと思い出したことがあった。提訴後の2006年6月、栽培試験の一般説明会があったので、私はわざわざ新潟まで聞きに行った。裁判が絡んでいるので、地元の農家の反応を知りたかったのだ。その時の様子が、この写真。
 ざっと数えたところ、参加者は報道陣の数まで入れて40人強。報道陣とつくばなどから駆けつけたらしい関係者を除くと、たしかに前の方に反対派らしき人たちが10人くらい。でも、一般市民も普通の地元の農家も見当たらない。「もしや、一般市民は私一人では…」。そう思いながら、傍聴した。

 肝心の質疑もつまらなかった。前に陣取った反対派はいろいろと言うけれど、鋭い質問はなく、センターの説明もまったく面白くなく、「うーん、交通費を返してくれ」という感じ。後で聞いたところによれば、地元の農家の方々は、その前の説明会で実験の意味をすんなり理解してくれたそうで、わざわざこの説明会に足を運ぶということがなかったらしい。
 ところが、翌日の新潟日報の記事の見出しはこうだった。「2年目実験へ 疑問の声次々」

 記事は、説明する。
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 実験ほ場の周辺住民を対象にした、県条例に基づく説明会は4月に開かれたが、農林水産省の実験指針による一般向け説明会は本年度初めて。県内の農家ら約40人が参加し、同センターの研究者が今年の実験計画を説明した。
 質疑では、会場から「本県の農業にとって迷惑な実験。遺伝子組み換え食品を食べたい人はいない」「歓迎されない実験だ」など、実験の必要性を疑う質問が出た。
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 こう書いたら、なんだか農家がいっぱい集まって熱く抗議したような印象を与えるじゃありませんか。一般説明会といいながら、一般市民はたぶん私一人なんだけど……。
 うーん、やっぱり文章を書くというのはマジックだ!
 私は、この後しばらく講演などで、「マスメディアはこういう手口を使う」と説明しながらこの写真を見せていたけれど、あまりにも低レベルというかくだらないので説明するのも恥ずかしくなり、スライドから外してしまった。こういう裁判だったのだ。