松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

日和佐信子さんに、毎日新聞のこと、TPPのことを聞いた

2010-12-07 17:04:22 | Weblog

毎日新聞が、日和佐信子さんのTPPにかんするイン

タビュー記事について、訂正を出した。日和佐さんに直接会い経緯を聞いた。
本当はその詳細を、このブログに書くべきなのかもしれないが、それは私にとってあまりにも切ない。悲しい。なぜならば、私も一時期、毎日新聞記者として働いたからだ。それくらい、毎日新聞社のやったことはひどかった。
日和佐さんが言っていないことを掲載し、訂正記事でその部分を削除し、別の文章に差し替えた。言ってもいないことを、その人が言ったと書く。それを、一般社会は“捏造”と呼ぶ。さらに、組織としての対応も非礼きわまりない。単なる訂正記事でお茶を濁し、「お詫び」記事にしていないのだ。日和佐さんは、報道機関内で「訂正」と「お詫び」の重みがどれくらい違うか、御存知なかった。それを悪用して、毎日新聞社は「訂正」にとどめたのではないか。私にはそう思えた。(TPPと「食の安全」問題をリンクさせてはいけない参照)。

だが、日和佐さんから聞いた詳細を書くと、組織のとんでもなさをさらに露呈してしまう。お世話になった古巣にそこまでのことを、私はできない。

重要なのは、日和佐さんが今、TPPについてどのように考えているのかを、大勢の人たちに知ってもらうことだろう。日和佐さんは、訂正された部分だけでなく、ほかの記述についても「真意が伝わらなかった」と嘆く。「結局は、記事の書かれ損だった」と怒る。
だから、私の個人ブログなどあまりにも微力だけれど、日和佐さんの真意を伝える役割を果たしたい。


日和佐信子・雪印メグミルク社外取締役インタビュー

松永:毎日新聞の問題の記事は「TPP是か非か TPP識者に聞く」というシリーズでした。まず、単刀直入におうかがいします。是ですか非ですか?

日和佐:TPPについて良いか悪いかなんて、今はまだなにも言えません。毎日新聞の記者にも同じように問われて、「言えない」と答えたのですが、インタビュー後も2度ほど電話がかかってきて「あえて言うならどちら?」と問われた。その度に、言えませんと答えました。拙速な議論にするのではなく、じっくりと考えたいのです。今は多くの国民、消費者が、私と同じような感覚ではないでしょうか。TPPについて現在出されている情報は、経団連などの「参加を先送りすると世界の成長と繁栄から取り残される」という訴えと、農業団体などの「日本農業が壊滅する」という主張という両極端のものです。どちらも、その信憑性を確かめる術がなく、判断できません。 

松永:どんな情報が必要なのでしょうか?

日和佐:これまで、牛肉やオレンジ、さくらんぼなどが自由化されてきました。その結果、当時日本の農業団体などが主張した通り、日本のみかんや牛肉産業がつぶれてしまったのか? そうでもないように見えます。オレンジ自由化の後、生産者の努力によって多くの種類の柑橘類が出てきて、消費者は多様な種類を食べられるようになりました。牛肉やさくらんぼも、国産と輸入もので特徴が異なり、しっかりと棲み分けができているように見えます。でも、その陰で、輸入の打撃を受け廃業してしまった生産者もいるでしょう。実際にどうだったのか、国民にはわからないのです。したがって、これまでの事実、データをまず明らかにしてほしい。そのうえで、そのデータを基にして、関税撤廃によってなににどのような影響が出るかを詳しくシミュレーションして公表してほしい。それがあってやっと、国民的議論がはじめられるのではないでしょうか。

松永:試算はいろいろと出ていますが…

日和佐:私は、国内での食料生産は一定程度、きちんと確保された方がよい、と考えています。どの程度をどう確保するのか、日本の農業をどのようにして強くしてゆくのか? TPPと共に、こちらもシミュレーションを行い、みんなで考えて議論する必要があるのでは。どんな対策を打ったら、農業活性化につながるのかを考えるには、これまでの政策の検証も必要です。例えば、1994年のウルグアイ・ラウンド農業合意の後、対策としてさまざまな施設が作られましたが、今も活用されているのでしょうか? そのようなことも調べて、切り込んで将来を考えなければ。

松永:食の安全については、どうでしょうか。TPPによって、食の安全が揺らぐと考えている人もいるようですが

日和佐:輸入食品は危険で国内産は安全といった形にはまった言い方がされますし、顔の見える関係などと雰囲気的な言い方もされます。でも、国内で流通している食品は輸入、国産を問わず、同じルールで安全性は守られています。そして私たちの食は輸入食品に大きく依存していまるのです。TPPによって安全性が壊れるとは思っていません。『「住んでいる土地で生産されたものを食べる」というのが人間の自然の営み』だとか、「安易に安価な輸入作物ばかりを口にするのはいかがなものか」などとは、思ってもいませんし、言ってもいません。

松永: TPPの影響について私も、いろいろな人に取材しているのですが、「TPPへの参加は必要、でも国内農業も大事だし」というところで途方に暮れている人が、農業関係者に限らず多いような気がします。

日和佐:食料自給率を問題にする人が多いのですが、単なる数字にこだわっても無駄です。カロリーベースの自給率での議論には、野菜などの自給率の高さを反映させることができません。金額ベースの自給率の検討も必要です。自給率だけでなくさまざまなデータを集めて検証して、どのように農業を支援していったらよいか、落としどころを探らなければなりません。農地にかんする制度を改めて、農業で頑張りたい人が農地をもっと楽に入手できるようにしないと、農業活性化にはつながらないでしょう。一方で、日本はこんなに狭い国なのですから、大規模化による効率化にも限度があります。消費者の望む農産物を生産できているか、ということも考えた方がいいですね。例えば、果物の消費が落ちた、消費者が食べてくれない、と嘆くけれど、核家族化が進んだ今、「こんなに大きくて立派なリンゴを、日本の生産者は作れるんです」と差し出されても、「いやあ、家族が少ないので、食べきれません。結構です」ということになる。逆に、「そんなにおいしくて立派な食品なら、ぜひ欲しい」と海外の方たちが買ってくれる品目も出てくるでしょう。食の問題は複雑です。日本の食を、国内生産者や海外の生産者たちの手も借りながらどう良くして行くか、みんなで考えて行きたいのです。