千葉県柏市の伊藤ハム東京工場で使用している地下水からシアン化合物が検出され、同社が10月25日から同工場で製造され地下水が使われた商品の自主回収を始めた。
シアン化合物濃度は0.02~0.03mg/L(水質基準は0.01mg/L)で、この水を使った食品に健康影響が出ることはまず考えられない。私は、これは「食の安全」の問題というよりも、食品企業に「地下水使用のリスク」を再認識させる事案であろうと思う。
もちろん、シアン化合物の基準超えが自主検査で明らかになってから公表まで時間がかかった伊藤ハムの非は責められるべきだが、「食の安全が揺らいだ」という表現は的を射ていない。
そう考えていたら、元神奈川県食品衛生監視員で食品衛生コンサルタントの笈川和男さんから、ニュースレターが送られてきた。私なんぞより遙かに詳しく、「地下水使用のリスク」を分析されていた。ご了解を得てそのまま転載する。
笈川さんは、定期的にニュースレター「生活衛生インフォメーション」を発行され、各自治体の食品衛生監視員や食品メーカー社員などに送っている。いわゆる「食監さん」の間では有名な方だ。
「生活衛生インフォメーション」第60号(笈川和男さん執筆)
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地下水使用のリスク
10月25日に千葉県柏市の伊藤ハム東京工場で使用していた地下水からシアン化合物が検出され、製品の回収との公表がありました。そこで、新聞報道などから、概要と個人的意見をまとめました。
先ず、新聞報道等だけでまとめたので、今後、行政の調査結果により問題点等がより明らかになると思います。現在言えることは、地下水使用には次のようなリスクがあり、安易に経費が安く済むからといって、地下水を使用すると大きな損害を蒙ることがあります。
1 施設 千葉県柏市 食肉製品製造業
2 使用井戸 3本 深さ200m(約40年前に掘られたもので、深井戸と考えられる)
(浅井戸と深井戸との違いは、深さ30m以上が深井戸との解釈があるが、不透水層(泥岩層、粘土層)より浅いところから取水するのが浅井戸、深いところから取水するのが深井戸。深井戸の場合、通常何箇所かの砂礫層から取水している)
3 事件の概要 9月18日に採水した井戸から24日にシアン化合物が0.02mg/Lを検出。再検査及びもう1本の井戸からもシアン化合物を検出。10月17日の採水検査では全て不検出であった。公表したのが10月25日であったので、初めて確認してから1ヶ月経過していた。
4 井戸汚染の原因
10月25日の公表の際には、9月18日採水前に集中豪雨の影響があったのではないかとの説明をしていた。10月28日、約300m東に旧日本軍の「毒ガス室」と呼ばれる存在していたことが判明。
(柏市水道は地下水を使用しており、10月27日に全ての取水井戸の採水検査をしたが、シアン化合物は検出されていない。)
笈川個人的意見
1 付近にはメッキ工場等のシアン化合物を使用している工場が無いとのことなので、旧日本軍の「毒ガス室」と呼ばれるところから流出して汚染した可能性が考えられる。
2 集中豪雨による汚染の可能性を説明している。その場合、井戸ピットから流入した可能性が高いが、井戸ピットの状況の説明が無く不明。
3 深井戸であり、地表に近い浅井戸の部分から取水されていないと考えられる。旧日本軍の「毒ガス室」から汚染を受けたなら、本来取水していない浅井戸部分に亀裂が入っている可能性がある。
4 一回止まった流入(亀裂)箇所を探すのは大変困難で、改修するのに多額の費用がかかる。しかし、流入(亀裂)箇所が不明ならば、再度同様な事故が発生する可能性がある。
5 「天然水使用の○○」と大きく広告をしている商品があるが、地下水使用のリスク(製造場付近に以前どのような施設があったか、使用水汚染の場合は大きな事故に発展する)を理解しておく必要がある。日常の点検は、水道水使用の場合より重要となる。
6 今回の伊藤ハムの対応は、この地下水使用に係るリスクの意識が低かった。
7 付近に柏市水道の取水場所(どの位離れているかは不明)があるが、検出されていない。少しでも場所が変われば水脈が変わるし、取水する位置(層)でも水質は変わる。
* 最後に、被害者が無かったのが幸いであるが、製品の回収費だけで3億円との報道があり、暖簾(ブランドイメージ)の傷はその数倍になる可能性があります。
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「生活衛生インフォメーション」第60号終わり
シアン化合物濃度は0.02~0.03mg/L(水質基準は0.01mg/L)で、この水を使った食品に健康影響が出ることはまず考えられない。私は、これは「食の安全」の問題というよりも、食品企業に「地下水使用のリスク」を再認識させる事案であろうと思う。
もちろん、シアン化合物の基準超えが自主検査で明らかになってから公表まで時間がかかった伊藤ハムの非は責められるべきだが、「食の安全が揺らいだ」という表現は的を射ていない。
そう考えていたら、元神奈川県食品衛生監視員で食品衛生コンサルタントの笈川和男さんから、ニュースレターが送られてきた。私なんぞより遙かに詳しく、「地下水使用のリスク」を分析されていた。ご了解を得てそのまま転載する。
笈川さんは、定期的にニュースレター「生活衛生インフォメーション」を発行され、各自治体の食品衛生監視員や食品メーカー社員などに送っている。いわゆる「食監さん」の間では有名な方だ。
「生活衛生インフォメーション」第60号(笈川和男さん執筆)
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地下水使用のリスク
10月25日に千葉県柏市の伊藤ハム東京工場で使用していた地下水からシアン化合物が検出され、製品の回収との公表がありました。そこで、新聞報道などから、概要と個人的意見をまとめました。
先ず、新聞報道等だけでまとめたので、今後、行政の調査結果により問題点等がより明らかになると思います。現在言えることは、地下水使用には次のようなリスクがあり、安易に経費が安く済むからといって、地下水を使用すると大きな損害を蒙ることがあります。
1 施設 千葉県柏市 食肉製品製造業
2 使用井戸 3本 深さ200m(約40年前に掘られたもので、深井戸と考えられる)
(浅井戸と深井戸との違いは、深さ30m以上が深井戸との解釈があるが、不透水層(泥岩層、粘土層)より浅いところから取水するのが浅井戸、深いところから取水するのが深井戸。深井戸の場合、通常何箇所かの砂礫層から取水している)
3 事件の概要 9月18日に採水した井戸から24日にシアン化合物が0.02mg/Lを検出。再検査及びもう1本の井戸からもシアン化合物を検出。10月17日の採水検査では全て不検出であった。公表したのが10月25日であったので、初めて確認してから1ヶ月経過していた。
4 井戸汚染の原因
10月25日の公表の際には、9月18日採水前に集中豪雨の影響があったのではないかとの説明をしていた。10月28日、約300m東に旧日本軍の「毒ガス室」と呼ばれる存在していたことが判明。
(柏市水道は地下水を使用しており、10月27日に全ての取水井戸の採水検査をしたが、シアン化合物は検出されていない。)
笈川個人的意見
1 付近にはメッキ工場等のシアン化合物を使用している工場が無いとのことなので、旧日本軍の「毒ガス室」と呼ばれるところから流出して汚染した可能性が考えられる。
2 集中豪雨による汚染の可能性を説明している。その場合、井戸ピットから流入した可能性が高いが、井戸ピットの状況の説明が無く不明。
3 深井戸であり、地表に近い浅井戸の部分から取水されていないと考えられる。旧日本軍の「毒ガス室」から汚染を受けたなら、本来取水していない浅井戸部分に亀裂が入っている可能性がある。
4 一回止まった流入(亀裂)箇所を探すのは大変困難で、改修するのに多額の費用がかかる。しかし、流入(亀裂)箇所が不明ならば、再度同様な事故が発生する可能性がある。
5 「天然水使用の○○」と大きく広告をしている商品があるが、地下水使用のリスク(製造場付近に以前どのような施設があったか、使用水汚染の場合は大きな事故に発展する)を理解しておく必要がある。日常の点検は、水道水使用の場合より重要となる。
6 今回の伊藤ハムの対応は、この地下水使用に係るリスクの意識が低かった。
7 付近に柏市水道の取水場所(どの位離れているかは不明)があるが、検出されていない。少しでも場所が変われば水脈が変わるし、取水する位置(層)でも水質は変わる。
* 最後に、被害者が無かったのが幸いであるが、製品の回収費だけで3億円との報道があり、暖簾(ブランドイメージ)の傷はその数倍になる可能性があります。
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「生活衛生インフォメーション」第60号終わり