切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『伯爵夫人』 蓮實重彦 著

2016-08-23 00:01:12 | 超読書日記
三島賞受賞会見が物議をかもした蓮實重彦の『伯爵夫人』。たまたま、掲載された時の「新潮」が手に入ってしまったんで読んでみました。ま、それなりに面白いです。とりあえず、簡単に感想っ。

蓮實氏には怒られそうだけど、万人向けの紹介をするなら、蓮實版『アイズ・ワイド・シャット』って感じの小説でした。長老によるエロネタ作品という意味もあるし、世代的な限界も感じなくもないという意味で・・・。

妖しげな謎の女「伯爵夫人」と帝大をめざす青年の一夜限りの体験・・・。

率直にいっちゃうと、蓮實一派の嫌いな村上春樹の小説みたいだな~と、わたしなんかは思いました。これって、『ねじまき鳥クロニクル』あたりの日本史取込み路線とどう違うのみたいな。でも、村上春樹より文章も構成も巧いのは確かで、その点の「芸」は認めざるを得ない。でも、後に何が残るんだってところで、疑問が残ったのは確かですね。

ちなみに、「新潮」の選評では、平野啓一郎だけが酷評。この青年の心意気にはじめて感じいったわたしです。

で、最初にキューブリックの遺作を持ち出した理由を追記しておくと、猥語連発のこの小説のスタイルに、『アイズ・ワイズ・シャット』の最後の台詞を思い出したってことがあるんですよ。

あの映画を映画館で観終わったとき、最後の猥語の台詞を聴いて、当時のわたしは「オヤジくせ~」と思いました!こういうのを「若さ」とみるべきか、「退行」とみるべきか、「時代錯誤」と思うのか、それは受け手の自由ですが、少なくともわたしにはまったく新鮮味がなかった。これが「芸」の限界かな~。

というか、酷評したのが一人だけってところが、蓮實氏のジレンマかもしれませんね~。ま、夏の夜の読書にどうぞ!

PS:わたしの感じだと、この小説の語りって、宇野千代の『色ざんげ』みたいな「読み物」に近い感じで、性にまつわる話題を散々ふりまきながら、皮膚感覚、生理的、触覚的な手触りが全く感じられず、蓮實氏がかつて「ライバル視している」と語ったサルトルの短篇(たとえば、「水いらず」とか。)の感触からは遠く及ばないと思いました。ま、老人が書いてるんだから仕方ないですけどね。ちなみに、蓮實氏のサルトルに関する発言は、昔の「文藝」のサルトル追悼号(?)に載っていましたよ。

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