切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『樅の木は残った』 山本周五郎 著

2016-07-13 23:59:59 | 超読書日記
今週のNHK「にっぽんの芸能」は、江戸時代の有名なお家騒動「伊達騒動」を題材にした歌舞伎の「伽羅先代萩」を取り上げるとのこと。伊達騒動の真相には諸説あるんだそうですが、「先代萩」の悪役・仁木弾正のモデル原田甲斐が実は忠臣だったという内容の作品が、この『樅の木は残った』で、山本周五郎の代表作ですね。ということで、正直、ヘビーな読書でした。簡単な感想のみ。

これは歌舞伎ファンなら読まなければいけいない本なんだけど、なにしろ上中下巻と長いんで、長らく積読状態でした。でも、意を決して読んでみて、思うところがあった。

敵も味方も欺くために、あえて敵方の懐に飛び込んだ原田甲斐。真正の慎重居士って感じのこのキャラがよくえば大人、悪くいえばもどかしい。でも、直情型高潔漢みたいな正義派はどんどん敵の術中にはまっていくんで、原田甲斐は賢かったとはいえるんだけど、最後の悲劇的な顛末がねぇ~。

お家を守るために家族みんなが犠牲になるって、今の価値基準ではありえないというか、家族のためにバカ社長におもねる方が大人って話に、今ならなるんじゃないでしょうか。

わたしが面白かったのは、原田甲斐が人との交渉を断って、山小屋で猟三昧の暮らしをするくだり。征韓論に敗れた西郷隆盛も似たような暮らしをした時期があるんで、茶の湯とか能とはまた違った意味で、狩猟というのは武人のたしなみだったんだろうなあ~と思いました。

あと、やはり、問題の結末。あえてぼかして書きますが、明暦の大火の出火元が実は老中の屋敷だったのを、幕府の体面のために吉祥院ということにしたという説があるんですが、このいやな感じに、この結末は似てますね。権力者の怖さというか・・・。老中の怖さに、ドストエフスキーの「悪霊」を想起したというか・・・。

というようなわけで、この小説を読むと、歌舞伎の「先代萩」の対決・刃傷が、素直に観れなくなってしまいますね。そういう意味では罪作りな傑作時代小説だと思います。

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