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土壌

2015-07-16 | Viticulture

気候、傾斜、向き、標高などを考えてブドウ栽培を行いたい土地をある程度絞り込んできたが、次のステップは土壌。契約に先立って、候補地を4か所2m程度掘削してもらい、そこで採取した土壌を調査会社に送り土壌の形状や成分などについて分析してもらった。日本でも大手ワイナリーの調査などを手掛ける会社があり、レベルは高い。先日その結果を受け取ったので、それらをもとに考察してみた。

場所は、鳥海山の南麓、標高400mの緩やかな傾斜地。ここが開墾されたのは明治以降、それ以前はまさに原野だったようである。ここ数十年間、赤かぶが栽培されてきた。赤かぶは、地表に種をまくだけでできるアブラナ科の野菜で、8月に種を撒いて11~12月に収穫をする。毎年、初夏までに表面10センチ程度をトラクターなどで掘り起こして種まきを待つサイクルが繰り返されて来た。

土地は、大まかには表土と下層土(心土)に分かれる。栽培の歴史が浅いためか、ここの表土は10cm程度。その下は、たどってきた地史に応じて地層が形成されてくるので、場合によって下層土は幾重にも異なる層で形成されていることもある。この候補地は、もともと丸石がごろごろしていたところに、鳥海山の火山灰が堆積して形成されたようで、地表10センチまでの黒土の下は、地表から80cm~120cmの火山灰粘土層、その下は大きな丸石の礫の間に粘土が入り込んだ層となっている。

「粘土」とは、土壌の粒子の大きさをしめしている。「礫」(~64mm)、「砂」(64~2mm)、「粘土」(2mm~)と分類されている。粒子の大きい粘土をシルトと細分化することもあるそうだ。この栽培候補地の粘土は、雨のあと歩いた長靴にまとわりついてくる。粒子は細かそうだ。この粒子のきめが細かくなり、純度が高くなると焼き物に使えるそうだ。ボルドーのデュクリュ・ボーカイユの畑やペサック・レオニャン一帯は礫が多く分布しているが、ボルドー右岸と呼ばれるサンテミリオンやポムロールでは粘土の比率が高い。ブルゴーニュも一般に「石灰質混じりの粘土」と呼ばれるので、粘土が多いはずである。

粒子の分類のほかに、「砂」と「粘土」の割合に応じた分類もある。「砂土」(粘土12.5%未満)、「砂壌土」、「壌土」(粘土25%~37.5%)、「埴壌土」、「埴土」(粘土50%以上)と分類されている。現在、ブドウ栽培を考えている土地の粘土含有量は「埴壌土」と「壌土」。オーストラリアではこれらに基づいたブドウ畑の土質が表示されている。

礫や砂は、水捌けが良く、粘土は水を通しにくいことは想像のとおりだが、実際の土壌はこれらが混じり、傾斜があるのでそう単純ではない。傾斜地で粒子の細かい粘土に覆われていれば、水は地表を流れ、雨が降っても地中は乾燥したままになる。傾斜のある粘土層の上に砂土の層があれば粘土層の上は地下水脈になる。候補地の土壌は粘土質が80~120cm、その下が礫岩質になっている。雨のあと掘削した場所を見ると、水が溜まる気配はない。根が礫層まで到達できれば、水捌けが良い環境となりそうだ。銘醸地では根が5-8mも下に伸びたとの話も珍しくない。この候補地の問題は、上部の粘土層が厚く、根が水分を多く含む地表近くを這うだけで、礫層に到達できないリスクが高い。

ブドウ樹には水捌けの良い土が求められると思われがちだが、必ずしもそうはいかない。スペインのアルバリサ土壌は、保水性が高いことで有名である。乾燥が激しい地中海性気候に位置する同地では、保水されないと瞬く間に水が必要となってくる。降水量に応じてブドウ樹に適度な水を供給できる土壌であることが望ましい。梅雨や秋雨のある日本では、水捌けの良い砂礫土壌が好ましいのかもしれない。

ブルゴーニュ・ワインやピノ・ノワールには、石灰岩神話と言っても過言ではない土壌至上主義がある。しかし、石灰土壌にも大理石のように固く水を通さない土壌から、細かく砕かれて浸透性がある土壌までいろいろ。ニュージーランドにある石灰岩土壌の多くは、硬すぎて使い物にならないところが多いとの話も聞く。石灰の効用とブドウの質の因果関係は究明されていない。

成分に着目すると、石灰岩は、炭酸カルシウムの含有量が多い。これは、海底に沈降した貝殻などからできたものと、鍾乳洞などの化学的組成がそうだったものの2種類ある。何故、石灰が良いのか?議論は続いているが、突き詰めるとカルシウム(Ca)とも言える。石灰岩は、Caを適量供給できる場所で、それが秀逸なブドウに好影響を与えると考えるのは可能性のある仮説かもしれない。

UC Davis の栽培の授業では、植物に必要な元素について多くの時間が割かれる。植物の生育に必要な元素を元素記号で列挙する。C(炭素)、H(水素)、O(酸素)、P(リン)、K(カリウム)、N(窒素) 、S(イオウ)、Ca(カルシウム)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、B(ホウ素)、Mn(マンガン)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Mo(モリブデン)、Cl(塩素)。"See HOPKINS Cafe Managed by Mine Cousins Mo & Cleo"と覚えるそうだ。炭素、水素、酸素それに窒素は当たり前であるが、他は馴染みの少ないものも多い。どれかが不足(あるいは過多)となると葉脈が浮き出たり、葉が白く変色したりなど生理障害を引き起こす。

私の土壌調査の結果にもリン(P)、マンガン(Mn)、カリウム(K)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)などが適量より多いか少ないかが書かれている。リン酸、石灰、マンガン、銅、亜鉛、ホウ素が欠乏しているようだ。これへの対応策も書かれている。10aあたり、完熟堆肥2t、石灰質資材180kgなど。1.2haの畑なのでこの12倍必要となる。かなりの量が必要だが、対応不能ではなさそうだ。ロマネ・コンティが馬車何百台分の客土をしていることを考えると、施肥を数トン入れることは問題ないと思う。

ついでに、肥料について面白い話を聞いた。最高の堆肥は馬、次は豚、牛は最下位だそうだ。牛の場合、反芻機能を持っているので、良いところは牛に吸収されてしまうそうだ。豚は雑食のため栄養分にムラが出るそうだ。そうはいっても馬の頭数は少ない。この栽培候補地近くには平田牧場があり、多くの養豚農家と契約しているそうだ。堆肥の購入可能性を聞いてみようと思っている。500m先に鳥海高原牧場があるので、牛の堆肥にすればリアカーで運んで来れるのだが。

 

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