以下の研究論文を見て、アントシアニンの成分による違いが我々がテロワールの違いと称する感覚に影響を与えていると感じる。われわれがブラインドテイスティングをするとき品種の特定を目指してしまいがちだが、ある著名ソムリエはまずどこの土地を感じるようにワインを利くと言っていた。特に赤ワインの場合、産地によって色合いや質感が異なってくるのであれば、このソムリエの言は意味深に感じる。
この研究はテロワールを科学的に分析しようとした点で画期的であり、更なるテロワールの端緒となることが期待される。様々な場所(国、土壌、気候)、多様な品種・クローン、多くのヴィンテージなどの違いについての研究が待たれる。
国際的にも権威あるアメリカの学会誌、「American Journal of Enology and Viticultreu」にマルベック種のテロワールについて科学的な実証を試みようとした興味深い論文が掲載されていたのでその紹介。
2015年のVolume1に掲載されたのは「Phenolic Composition of Malbec: A Comparative Study of Research-Scale Wines between Argentina and the United States」と題するもので、Univeresity of California, DavisのFernando BuscemaとRoger B. Boultonが発表したもの
栽培地は、アルゼンチン(メンドーサ):トゥプンガト、ルハン、マイプ、サンカルロス、カリフォルニア:ナパ、ソノマ、モントレー、サン・ホアキン、レイク、ヨーロー
それぞれ、同じ台木、同じクローンのワインを同一の仕立て、同じ剪定法等の栽培を行い、同水準の糖度に達した時点で収穫し、同一の商用酵母、同一のMLFスターターを用いて醸造の後、同じ熟成方法、期間を経たものの分析を行った。
含まれているアントシアニン(Gallic Acid、エピカテキン、各種シアニジンなどが例)は、HPLCを利用して分類し、さらに吸光光度分析器を用いて既知の成分と合致するアントシアニンの含有量を計測した。これとともに、総フェノール、総アントシアニン、LMWP(Low Molecular weight henolics、フェノールのうち小粒のもの)の計測も行った。
この結果、総フェノール量、総アントシアニンともにメンドーサとカリフォルニアの間に顕著な違いがみられた。LMWPは構成物質によってばらつきがあり、産地の違いが殆どないものから産地によって含有量が大きく異なるものもあった。
各アントシアニンの結果も合わせて主成分分析、重回帰分析を行ったところ、メンドーサのものについては相関性が高いが、カリフォルニアの各州のものにはばらつきが多かった。
この論文で結論付けられていることは、カリフォルニアに多いとされるアントシアニンがmalvidin-3-glucosideとmalvidin-3-transisomer、メンドーサに多いとされるのが、syringic acidとgallic acids。結果、カリフォルニアのものはより色が濃く、メンドーサのものは紫が強い。また、gallic acidsの影響でメンドーサのものはより収斂性が強く苦さを感じることになる。
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見出し写真はUC Davisの農場で収穫されなかった黒ブドウ。この投稿と関係はない。