Vino Masa's Wine Blog

Weekly notable wine update.
毎週、気になったワインをアップデートします。

ぶどう樹の育苗

2016-01-03 | Viticulture

2016年植樹分の苗木調達がままならないので、日向エステートは目下育苗に注力している。

国内の数か所のワイナリーからぶどうの枝を分けてもらい、それを育苗する。最初の障壁は、多くのワイナリーが枝の分与に同意してくれない。これは、これらのワイナリーが苗木を日本の種苗業者から購入するに際し、枝の分与を禁止する契約を交わすことが条件になっているためである。育苗が容易なぶどうの苗木を勝手に育苗されると苗木業者の営業妨害になってしまう。そもそも苗木が枯渇しているので、現時点では意味がないのだが。比較的新しいワイナリーの多くは、この理由でNoと言う。良心的なワイナリーは、守秘義務契約を交わした上で、あるいは内緒にしてくれればと言って分与してくれる。老舗ワイナリーはこういった契約ができる以前に樹を購入したため寛容で、制約なく分けてくれる。

次の制約は、品種ごとのクローン管理を行っているところが少ないこと。新大陸の著名ワイナリーのように、数種類のクローンをミックスしてワインを造るのは容易ではない。もっともこの流儀に従わずとも、複数のワイナリーで栽培された同一品種を並行して栽培すれば似たものが造られる。品種が同じであれば、所詮ルーツはひとつである。幸いなことに秀逸なクローンを手に入れることができた。最良の枝は鶴岡市に保管し、近々酒田市にビニールハウスを間借りして育苗を開始する予定である。ロックウールポットに挿し木し、下に農業用マットを敷いて20℃程度まで根元を加温すると発芽・発根が促されるそうだ。

台木の選択は最大の障害である。19世紀終盤にヨーロッパのぶどう樹を壊滅させた、フィロキセラと呼ばれるアブラムシの一種に根を食い散らかされないために、ワイン用ブドウを耐性のある台木に接木しなくてはならない。しかし、日本にフィロキセラはいるのだろうか?仮にいるにしても鳥海山南麓までは来ていないのではないか?とりあえず自根で植えて増殖させ、同時並行して台木を育て、2017、2018年に接木すれば済むのではと考えて準備を進めている。

台木の一部は、先進的な台木の苗を分けていただき増殖させる予定だが、ほかに手立てはないか?日本に古来から生息しているやまぶどうは、日向エステートの脇で未だに成長し続けている。仮にここにフィロキセラがいたらやまぶどうにはフィロキセラ耐性があるという証になる。実際、やまぶどうにはフィロキセラ耐性があり、ヤマソーヴィニョンには耐性がないとの話を聞く。かつてアメリカのハドソン川流域に生息していたリパリアやルペストリスといった野生のぶどうの樹が台木に使われて来た。ならば日本の土地に合った台木こそやまぶどうではないかと思い、やまぶどうの育苗も同時に進めている。

次の写真は、10月頃にやまぶどうの枝を切り取って東京に持ってきて栽培したもの。すでに芽が出てきている。しかし専門家に聞いた話によると、やまぶどうの場合、五葉くらい出てこないと根付かず使い物にならないそうだ。枝が短いものを選んでしまったため、五葉までは持たないうちに枝に蓄えられた養分が枯渇して枯れると思われる。

 

次は、枝の長いやまぶどう。これだと枝の中に蓄積された栄養分を利用できるので、五葉まで待てる確率が高まるとのこと。最近、効率がよいと言われるロックウールキューブに刺して育苗している。これだと、根が張った苗をそのまま土中に植えられる。室外で日光浴中だが、夜間や寒い日は室内に移している。

 

 

果たして考えなくてはならない病害はフィロキセラだけであろうか?リーフロールなどのウィルス、つる割病などの菌など、多くの病因が想定される。事実、分けていただいた枝の多くはつる割病に罹患している。しかし、他に手立てがない以上、この枝から健全なものを選りすぐっていかねばならない。最初は目視で健全な枝だけを選りすぐり育苗を開始した。切り口には「カルスメイト」と呼ばれる傷口の殺菌剤を塗布する。つる割病懸念の枝は多く、かなりの枝を処分しなくてはならないことになった。

 

 

そこで、処分する枝の芽を取り茎頂点培養も同時並行して試している。これには、寒天を培地として利用し、アルコール消毒した剪定はさみで切り取った目先を培地の上に置き経過を見守ることとした。茎頂点培養は、芽の先端0.2mmはウイルスに侵されていないことから、ここを切り出して無菌・恒温室で培養すると、健全で発育の旺盛な苗が取得できるということで、研究機関などで採用されている手法である。無菌・恒温室などの設備は100万円~200万円と高価で投資できないが、つる割病の黒い菌がないものを切り出せばよいので、目視で1mmの切り取りでも可能と思い、室内にて行っている。とはいっても顕微鏡も微細メスもなく、なかなか健全な箇所だけを取り出せないものだ。結果は如何に。

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ぶどうのつる割病 | トップ | 成長点培養 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Viticulture」カテゴリの最新記事