アメリカ南部のブドウ栽培者が恐れるピアス病(Pierce Disease、略してPD)は、シャープシューターと呼ばれるバッタの一種が媒介するバクテリアによって引き起こされるもので、罹患するとブドウが枯れ死する。シャープシューターは、アメリカ合衆国南部に広く生息し、近年カリフォルニア南部のテメキュラ・ヴァレーにも現れ、甚大な被害をもたらしている。カリフォルニア州政府は、この解決に全面的な援助を行っている。
その中で注目を集めているのが、UC Davis の教授、Dr. Andy Walkerが行っているPD耐性のあるブドウ樹のハイブリッドの育成。当初は、ムスカダイン属のrotndifliaとVitis Viniferaのハイブリッドに注目していたが、遺伝子の倍数対の構造が異なり難航したようだ。最近発表された研究結果では、より遺伝子特性の似ているPD耐性ブドウ、Vitis Arizonicaに対してVitis Viniferaを交配させたハイブリッドを使っている。(「交配」は同じ種どうしの場合、異種どうしの場合は「交雑」と言われるそうだが、馴染みが薄いのでここでは「交配」で表現を統一している)
世論の目が厳しい遺伝子組み換えは行わず、PD耐性が保持されていることを確認しながら交配を繰り返し、現存する品種に近いブドウ品種の選別を目指している。Vitis ArizonicaとVitis Viniferaを一回交配させると、Vitis Viniferaの構成比率は50%だが、生まれたハイブリッド種とVitis Viniferaをさらに交配させると、Vitis Viniferaの構成比率は75%となる。このVitis Viniferaとの交配を繰り返すことでVitis Viniferaの構成比率は87%、94%と上昇し、現在では97%のVitis Viniferaの構成比率のハイブリッド種が生まれ、いずれもPD耐性があることが確認されている。
ここで利用されているVitis Viniferaの品種は、カベルネ、シャルドネ、プティ・シラー、ジンファンデル。台木にもピアス耐性のあるものを接木している。Vitis Viniferaの構成比率が低いハイブリッド種は、飲むに堪えなかったようだが、94%、97%はパネル・テイスティングの結果も良好とのこと。実用化の日も近い。Silvarado及びCaymusの畑で数百本のハイブリッド・ブドウ樹の栽培が開始されている。
目下の関心事のひとつは、命名を含めたマーケティング方法。PDとの戦いの終焉も近い。その一方でDr. Andy Walkerが目指すものは、世界的なブドウ樹の疫病でもある、うどん粉病(Powderly Mildew、通称PM)対策。PM耐性のあるブドウ樹もあるので、ハイブリッドとして耐性を取り込もうとの考え。
2014年12月2日に開催された、UC Davis の講座「Crrent Issues in Vineyard Health」におけるUC Davis の教授、Dr. Andy Walkerの講座より。
同様の内容が「Wines and Vines」誌にも掲載されているのでリンクも掲載
http://www.winesandvines.com/template.cfm?section=news&content=140843