ブドウも植物のひとつ、水なくしては生きることができない。 それでも、Vitis Viniferaと呼ばれるワイン造りに多用されるブドウ品種は、降雨量の少ない中央アジアが原産地で、それほど多くの降水量を必要としてはいない。
典型的な地中海性気候のNapaでは、6月から9月までの降雨量はほぼゼロ。この地では、灌漑設備によって水の供給が必要となる。砂漠気候が季節ごとに南北に移動するため、南北の極に近い側の夏季に乾季が訪れることを取り上げて地中海性気候と定義しているので、灌漑が必要なことはもっともである。一方、ブルゴーニュで灌漑は行われていない。恐らくDijonの降水量が適量に近いのではないか。
日本で知る限り、降水量が少ないブドウ産地は北海道と言うことになる。日本国内で比較すると、余市や岩見沢は気温のほか降水量までもがDijonに近いことがわかる。ブルゴーニュの高貴品種、ピノを造る最適地は北海道との意見にはそれなりの論拠となっている。
降水量 | 勝沼 | 辰野 | 菅平 | 新潟 | 鶴岡 | 酒田 | 左沢 | 高畠 | 余市 | 森 | 岩見沢 | Dijon | Napa |
1月 | 36 | 48 | 75 | 186 | 210 | 168 | 129 | 111 | 151 | 53 | 112 | 59 | 130 |
2月 | 40 | 56 | 76 | 122 | 131 | 114 | 99 | 77 | 109 | 64 | 83 | 53 | 141 |
3月 | 73 | 103 | 85 | 113 | 123 | 107 | 88 | 73 | 87 | 65 | 57 | 53 | 98 |
4月 | 71 | 99 | 74 | 92 | 104 | 102 | 73 | 66 | 65 | 81 | 54 | 52 | 40 |
5月 | 83 | 137 | 98 | 104 | 115 | 121 | 83 | 79 | 67 | 84 | 77 | 86 | 26 |
6月 | 121 | 188 | 128 | 128 | 121 | 121 | 116 | 105 | 45 | 56 | 55 | 62 | 5 |
7月 | 124 | 218 | 155 | 192 | 202 | 209 | 175 | 158 | 90 | 138 | 103 | 51 | 0 |
8月 | 150 | 149 | 125 | 141 | 174 | 179 | 137 | 142 | 127 | 161 | 150 | 65 | 2 |
9月 | 182 | 187 | 165 | 155 | 184 | 162 | 124 | 129 | 151 | 103 | 129 | 67 | 8 |
10月 | 117 | 116 | 103 | 160 | 215 | 181 | 102 | 101 | 148 | 92 | 109 | 58 | 38 |
11月 | 53 | 77 | 66 | 211 | 269 | 225 | 124 | 97 | 158 | 116 | 111 | 64 | 88 |
12月 | 31 | 43 | 70 | 217 | 257 | 204 | 133 | 101 | 156 | 90 | 123 | 62 | 133 |
年 | 1081 | 1421 | 1219 | 1821 | 2098 | 1892 | 1378 | 1235 | 1353 | 1097 | 1163 | 732 | 709 |
5-9月積算 | 660 | 879 | 670 | 720 | 795 | 792 | 635 | 612 | 480 | 542 | 514 | 331 |
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それでは、他の生産地では、水膨れしたブドウでワインを造るしかないのか?降雨を排除することでヨーロッパに似た気候を実現しようとする動きがある。次の写真は、山形県南陽市赤湯付近のブドウ畑。斜面にビニールハウスの枠組みを設置し、夏季にはビニールで屋根を造っている。地下水はそのままではあるが、上から降る雨は避けることが可能となる。赤湯の酒井ワイナリーもこれを実践するワイナリーのひとつ。ビニールは斜面の上から下に向かうように張り、ビニールの間には雨どいを置いて、斜面への降雨を徹底して除いている。自社畑が多く、糖度が23度に達することも多いとのこと。月山ワインを経営する庄内たがわ農協も、契約農家にはこの方式によるブドウ栽培を勧めている。収量を気にする契約農家は、早めに収穫する傾向が強いので、多少低めだが、それでも平均で21度は行くとのこと。
もうひとつの降雨量の問題は、冬季の積雪。以前の記事でも触れたが、ブドウ樹を斜めに生育させると、冬の間雪に埋めることが可能となる。雪が解けてから樹の値にかまぼこ板を縦に挟むことで樹が起き上がり立派に実をつけるそうで、多くの雪国のワイナリーで実践されている。元々樹を寝せることは、北海道で考案され、さらにかまぼこ板を挟むことも余市のドメーヌ・たかひこによって見出され、推進されているとのこと。岩見沢の10Rワインもこれをフォローしている。
山形県でも、雪の多い庄内地方の農家をはじめ、内陸部で雪の多い赤湯周辺などでは同様の対策を取っている。寝かせることがブドウ樹の健全性を損なわないかは不明である。しかし、特に斜面においては、雪が100ー140mを超えると、横に滑る力が増大するので、寝かせていない樹はなぎ倒されるリスクにさらされるとのこと。以下の写真は、当初考えていた候補地。こんなに雪深いところでは、寝かせるしかなさそうである。それでも、強烈な地吹雪を利用する風力発電による融雪、温泉地の湯や地熱を利用した融雪など思案中ではるが、、、
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