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クルシャの天地

ふあふあな冬



みなさま温かくお過ごしでしょうか。
クルシャ君は増やした毛に空気を含んで暖かそうにしております。






それでも触れると、表面はさすがに冷たい。

飼主が幼稚園の頃ですから三、四歳の時分に、ありがちな大人の他愛の無い
嘘を信じて損をした記憶が、辿ってみると全くの間違いであったことを数年前
に知って、この幻惑と虚妄の根源、即ち営々と闘争を止めるべきではない相手という
のは徹底して自分に他ならないと確認したことがございます。記憶なんていうものは全く
信用のなら無い物で、どのようにでも検閲され、上書きされ、あるいは茫漠と
した証拠しか残さない代物であって、記憶なんかを素材にしてストーリーを作った時点
で事実と完全に異なったものになる、というのは皆さんご存じの通り。






ある日、初めて「ぶりの照り焼き」なんてものを食べたのです。
幼い飼主は、このふわふわな食べ物は何かと周囲に聞いたら、あっさり魚だと
教えられた筈なのに、ここで騙されたあるいは嘘を吐かれた記憶があるわけです。
辿ってみると、誰も嘘を吐いていない。なぜかその時、飼主は

「そのふわふわの食べ物はリスのしっぽだよ」と教わった記憶がある。

そこで納得して、ふわふわなものは美味しくて暖かくて云々なんていう観念連合
の戸棚に「ぶりの照り焼き」をしまい込んで、後にこのガラクタの記憶を引っ張り出し
ては、子供だと思ってひどい嘘を教える大人がいたものだと義憤を感じた期間が
あったわけです。しかし、違った。






リスの尻尾を持ち出すこと自体、幼児の発想。
自分で引っ張り出してきて思い込んだ間違いを、悪い大人のせいにしていたわけで、
ある意味思い込みと幻想性の強い飼主の傾向が起こした虚妄に過ぎなかったのです。


自分を良く見て、歪んだ記憶でも自律の裁きにかけていきたい。
あまりに無反省だと、間違いを他人から指摘されても幻想に逃げ込む、みっともない
ことになりますからね。ふわふわな食べ物がクルシャ君の尻尾みたいに暖かくて
甘い感じでも。






水のソーテール4: 酒神の血 サンギス・バッキウス (うるたやBOOKS)
東寺 真生,明鹿 人丸
うるたや






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