在イタリア、ソムリエワインノートとイタリア映画評論、他つれづれ appunti di degustazione

ソムリエ 20年、イタリアワインのテイスティングノートと、なぜか突然のイタリア映画評論、日本酒、日本茶、突然アートも

Balthus @Scuderie del Quirinale

2015-12-19 23:12:35 | 何故か突然アート
バルトュス展
クイリナーレのスクーデリエにて



クイリナーレ、正確にはスクデリーエつまりクイリナーレ宮殿(現大統領官邸)の元厩舎となる建物で、10月からバルトュスの展覧会が開かれている。
クイリナーレで行われる展覧会はかなり質が良い。場所もゆったりしているし、見応えがあるものが多いので有名である。
実はこの展覧会は2カ所に分かれての展示というのが触れ込みで、もう1箇所はローマのメディチ家の別荘、つまりスペイン階段の上からすぐのところ、現在のフランス・アカデミーとなっている建物。
こちらはまだ行っていないので、終わるまでに行かなくては。
ちなみに、ヴィッラ・メディチのフランス・アカデミーはバルトュスが生前所長を務めていたというところでもある。

ローマでこれだけ大々的なバルトュスの展覧会が開かれたのは初めてではないかと思う。
バルトュスは、フランスの画家として知られているが(と思っていた)父親はポーランドの貴族、母親はロシアのユダヤ人らしい。
そして、日本と馴染みがあるのは、日本の女性と結婚していたということかもしれない。
50代で20歳の女性と出会い結婚、子供(娘)もいて、年の差婚のハシリらしいが、2001年、夫の死後も夫人はまだ健在。

クイリナーレは10のテーマに分かれ、見応え十分。
ルーブル美術館でほとんど独学で絵を模写していたというバルトュスの、マサッチョ、ピエロ・デッラ・フランチェスカのコピーから作品が展示されている。
さらっと写した作風がいい。
「道」は、1929年と33年の2枚があり、面白い比較ができる。何人かの登場人物は同じで、脇役に結構な変化が見られ、興味深い。
そして、今回のポスターにもなっている「忍耐」。圧巻。

いよいよ猫の登場。「猫の王様」「地中海の猫」、そして、ポルノか少女愛か、と思わせる作品多数、デッサン、習作も多く展示されている。
風景画も多数あり、色の使い方が心に安定を、静寂が心に響く。
浴室での裸の少女。決していやらしくはない。
イギリス風の縦線の壁紙、ソファー、鏡、窓などがキーワードか。
登場する人物は概して頭が大きく、上半身が小さく、足が長いところから、マンガチックと思えなくはないのだが、違う。これが均整取れている人物であるなら印象が全く違ってくる。一瞬デフォルメされている、しかし、その色使い、そして、遠近法はとても正確で安心して見られるところなど、天才、の文字が頭に浮かぶ。

少女が片足を折ってソファーに座っている絵など、足元から見ればパンツ丸見えだが、ポルノではない。
地面に肘をついて四つん這いになっている少女も、同じ角度から見ればやはりパンツが見えそうだが、いやらしくはない。
この年頃ならパンツが見えることなんて気にしない、だから、堂々とこんな格好ができてしまうし、そういえば私も、何も考えずにしていたかもしれない、と思ったり。

ただし、今ならスカートを履かない少女も多いと思うので、ズボンやジーンズでは絵にならないよね、と思ったり。うーん、きっと魅力半減。(それ以前に絵にならない?)
ある意味、少女も含む女性が、スカートを捨てズボンを履き始めたというのは、アート的に取り返しのつかない大きな損害かも知れないと思ったり。
2016年1月31日まで。ぜひ。






Pecore in erba di Alberto Caviglia イタリア映画 駆け出しの羊たち

2015-12-19 11:12:46 | 何故か突然イタリア映画
Pecore in erba 駆け出しの羊たち
監督 アルベルト・カヴィリア



2度びっくりした映画。いや、3度かもしれない。
まず、あらすじは読んでいたものの、かなり大雑把で、これは出たとこ勝負という感じだった。しかし、それと不釣り合いなのがキャスト。
監督は初めての長編。無名な上にびっくりするくらい若い(31歳)。
しかし、ウソか本当か、すごい人物が、これでもかというくらい出ているのである。
それも、女優俳優というのではなく、テレビのアナウンサー、ジャーナリストで超有名なメンターナや、政治家でもあり美術評論家で、これまた知らない人はいないヴィットリオ・ズガルビ、やはりテレビをつけるとしょっちゅう出ている司会のマーラ・ヴェニエル、ややポルノ風の作品で超有名な映画監督ティント・ブラスなどなど、はたまた、私の好きな女優のマルゲリータ・ブイも出ていた。
その数も多いのだが、どうしてこれだけの人物が???いったいどうやって???どんな風に???どんなところに???
と、???ばかり。

さて、始まると、レオナルド・ズリアー二が突然行方不明になりました、というSKY24NEWSの 一大ニュース。スタジオから、そして、多くの民衆が集まっているローマのポポロ広場からの中継が映し出される。すぐにズリアー二の少年時代を語る姉が登場、長々とインタヴュー。小学校の先生も出てくる。こんな少年でした、と少年時代の様子を語る。母親も出てくる。1歳の時にお父さんが家を出て行ってしまったのです、と。幼い時からの親友も語る、語る。まあ出てくるわ出てくるわ、いろいろな人物が。ズリアーニの生涯を語る一大ドキュメンタリーになっている。
語る人物がパッパッと素早く切り替わり、間にズリアーニの写真が多数、新聞の切り抜き(本物そっくり!)、などなど。
ええ、これって、本当にいる人物??いや、作り物の話のはずだけど。。。。
しかし、どうしても本物の長編ドキュメンタリー番組にしか思えない。

さて、行方不明になってしまった、まだ若きレオナルド・ズリアーニとは誰か?
ローマのトラステヴェレ生まれ、幼い時から反ユダヤ主義。超右翼。絵の才能があり、超有名漫画家にもなる。漫画は大ヒット。何か閃いたものを商品にして売ればこれまた大ヒット。まだ若いのに、彼の生涯を描いた映画まで製作されて大ヒット。超カリスマ人物である。でも気取らない。あまりに過激なユダヤ排斥主義を唱えるので、命まで狙われている。

随所で登場するのがくだんの有名人物。本当の名前で、ちゃんと肩書きも入っている。スタジオも本物そのもの。(のちのインタヴューでの話によると、本当のスタジオなどを使用)女優でも俳優でもない有名人が、ズリアーニについて熱く語る。どう見てもウソを語っているようには見えない。(結構演技うまいじゃん!)
途中でイスラムのチンピラっぽい感じの二人が出てくる頃には、やっぱり架空の人物だったのね、となったが、本当にびっくりするほど、まるで本物のようにドキュメンタリー番組が作られている。
お見事。とにかくお見事。
台本は300以上のシーンからなったというが、どんどん切り替わり、間に本物そっくりの新聞の切り抜き、何百枚ものズリアーニの写真が織り込まれている。
ここまで本物そっくりに作ったニセのドキュメンタリー番組は見たことがない。

もう一つのびっくりは、監督の登場。
1984年、トラステヴェレ生まれ、ローマ大学では哲学を専攻。その後、ニューヨークなどで映画を学び、監督のアシスタントを多数務め、初の自作。
どんな人物かと思ったら、ひょろっと痩せた、穏やかそうなとても感じの良い青年。とても頭が良さそうには見えるが、驕るようなところも、気取るようなところも全くない、ごく普通の若者である。え~彼がこれを作ったの???(頭の中が見たい)

反ユダヤ主義をテーマに、というのは偶然のひらめきだそうだが、台本を自分で書き、どうしてこれだけの有名人物が参加できたのか?という質問には、わからないけど、結構面白がって参加してくれた、と。スタジオなども本物を使わせてくれた、と言うし、無名の監督の卵の作品なのに、すごい。

ただ、劇場公開ではあまり受けなかったという。
最初19館、次の週3館、そして1館へ。全く宣伝していなかったので無理もないのだが、打ち切り。監督がめげていなかったのが救い。
見た人は大抵、すごく面白かったと言ってくれているのだけど。。。と。

こういう映画に日が当たらないのが本当に寂しいが、個人的には久々に素晴らしく良かった。

ところで、しばらく続けたこの突然のイタリア映画評論はこれで終わりになるかも。
残念ながら、イタリア女の嫉妬ほど怖いものはない。