日本人は「上がらない給料」の弊害をわかってない 「賃金を引き下げると雇用が創出される」という嘘
「Econofakes エコノフェイクス」とはスペイン・セビリア大学応用経済学教授であるフアン・トーレス・ロペスがつくりだした「経済のウソ」という意味の造語だ。
「経済学は、難解で抽象的な数式で提示されると、科学的で議論の余地のない真実のように見える。しかし、経済学には『科学』で存在するような普遍的な『法則』が必ずしも存在していない。実際は仲間内で権威を与え合う経済学者たちのゆがんだイデオロギーによって導き出された『ウソ』に満ちあふれている。そして、この『ウソ』によって権力や富が一部に集中するシステムが正当化されているのにも関わらず、多くの人はそのことに気づいていないのだ」とトーレス教授は言う。
それでは、その「ウソ」とはいったいどんなものなのか? そして「ホント」とは? トーレス教授の著書『Econofakes エコノフェイクス――トーレス教授の経済教室』より一部抜粋、再構成して全5回連載。第3回をお届けする。
賃金が高くなれば雇用者は減る?
★ウソ 給与を下げれば雇用は増える
賃金と雇用の関係は、経済分析の歴史において最もよく議論されてきた問題である。そのため様々なことがらについて議論があるが、ここでは、「雇用を創出するには賃金を下げる必要があり、そのためには最低賃金を定めたり、労働組合が力を持って労使関係に介入してくることを避けたりしなくてはならない」というウソを取り上げる。
この説を広めたジョン・ベイツ・クラークは、最低賃金の効果について最初に言及した経済学者の1人であり、こう言っている。
「詳しく調査するまでもなく、賃金が高くなれば雇用する労働者の数が減ることは確かだ」。
もう1人、イギリスの経済学者アーサー・セシル・ピグーもまた、1914年の著作『失業問題(Unemployment)』において同じように断言している。
「労働組合が賃金を同産業の賃金よりも高くしようとするあらゆる試みは、失業の原因となる」
2人の言葉は、一見理にかなっているようで異論をはさむ余地もなさそうだ。労働も1つの商品であって、他の商品同様、その価格、つまりここでは賃金が高くなればなるほど企業による需要が少なくなるという考え方だ。
近年、金融当局や銀行や大規模な雇用者団体は、雇用をつくりだすためには賃金を下げなくてはならないと、メディアを通してまるで呪文のように唱えつづけている。
「スペイン銀行によると、雇用創出は賃金の抑制のおかげだ」
「7パーセントの賃金カットで10パーセントの雇用増」
「スペイン経団連とスペイン中小企業連合は、さらなる雇用喪失を避けるために賃金の抑制を強く主張」
といった具合だ。
似たような例をいくらでも挙げることができる。しかし、いくら繰り返したところで、これらがウソであることに変わりはない。
ケインズは1929年に、こういう主張を擁護できるのは「頭の中がくだらないことでいっぱい」な者だけだと言っている。それはなぜなのか、これから見ていこう。
どこがウソなのか?
雇用を増やすためには賃金を引き下げたり最低賃金制度を廃止したりしなければならないという理論が真実ならば、これまでの研究やデータが、現実的にそういうことが起こっていることを示しているはずだ。しかし、そうした事実を示す証拠は見られない。
逆に、賃金が高い国ほど失業率が低いことは、調べれば容易にわかる。さまざまな調査が、賃金の抑制を擁護する人たちの主張とは反対の現象が起こっていることを示している。実際、賃金が上がるのと同時期に雇用が増えたという現象は多く見られる。
たとえば、1945年から1970年までの「資本主義の黄金時代」と呼ばれる時期には、西側諸国のほぼ全域でこの現象が起こった。ヨーロッパでは1980年から2005年の間に雇用が増えたが、同時に賃金も上がっている。そして雇用が減った時期には賃金も下がった。また、スペインでは「近代の先進国では前代未聞」といわれるほど賃金が下がった近年の経済危機の最中に、失業率が高くなった。
さらに、最低賃金の設定や引き上げが雇用創出を妨げるという事実がないことも明らかになった。
アラン・クルーガー、ローレンス・カッツ、およびデヴィッド・カードが1992年と1993年に行った調査では、最低賃金を引き上げたアメリカのさまざまな州で雇用も増加したことが示された。のちに、他の州でも1990年から2006年までに同様のことが起こっていたとわかった。
イギリス、フランス、ドイツ、ハンガリー、スペイン、さらにOECD諸国全般で行われた別の調査もある。そこでは、最低賃金の引き上げが、雇用量に対してマイナスの影響を及ぼさず、たとえ及ぼしたとしてもごくわずかだったり、労働人口の一部のみへの影響にとどまったりしたことが明らかになった。
社会保険料などの引き上げによる人件費の上昇は、雇用を破壊するとか、雇用の創出に影響を及ぼすともよくいわれるが、実際にそれを示す明確な根拠は存在しない。
さらには、雇用創出には賃下げが必要だという説を正当化するような根拠もない。
結局のところ、雇用量を増やすためには賃金を下げる必要があるという理論を裏付けるものはない。実際にはむしろ逆の現象が起こっており、賃金の増減以外にも雇用と失業の変動にかかわる別の要素があることもわかった。
長期的な雇用の推移については、経済政策の一般的状況や、投資、金利、資本コスト、技術革新のペース、さらに一般的には、需要の推移などの要素によってのほうがよく説明できるというデータがある。加えて、失業率の推移を左右するのはGDPや労働時間であって、賃金の動向でもなければ、自由主義経済学者たちが言うように、労働者の権利を認めることで労働市場が硬直化することでもない。
不可能な前提が必要
実際に、賃金の引き上げが雇用を壊し、その逆もしかりであると主張するためには、2つの前提が必要である。
1つ目は、すべての市場が完全競争市場であること。
2つ目は労働を商品の1つと考え、その価格(賃金)は労働の需要と供給によってのみ決まるという前提だ。
1つ目については、実際にはほぼありえない。労働市場のような干渉を受けやすい市場ではなおさらだ。
2つ目も、さまざまな理由から受け入れがたい。
第1に、労働市場でやりとりされる「商品」は「労働力」であり、人間のさまざまな状況にかかわっていて、どう考えても商品と呼ぶことはできない。人間は利益を生むために生産されたものではない。また、労働にかかわる状況も倫理的原則から逸脱したものであってはならないため、労働力を買った者が労働者を「消費」したり、好きなように使ったりすることは許されない。
第2に、たとえ労働力を「商品」の1つとみなしたとしても、その価格は単純に需要と供給の関係から決定することはできない。あらゆる財において需要と供給の関係には理論上の限界がある。
しかし、ここではそれ以上に大きな限界が存在する。つまり、労働力の供給の変動によって賃金(価格)が上がったり下がったりすると、所得の分配にも明らかな影響を与え、それは他の財の需要や価格、ひいては労働力の需要にも影響を与える。
要するに「雇用を創出するには賃金を下げなくてはならない」という説は誤りである。
そのウソがどんな結果をもたらすか?
高い賃金は雇用を破壊するという考えが浸透すると、多くの人の生活状況に悪い影響を与える4つの結果がもたらされる。
まず第1には、わずかなお金でやりくりしなければならなくなり、低賃金で不安定な雇用から生まれる貧困を根絶するはずの労働者の権利や最低賃金の保証などを手放さざるをえなくなる。しかも、低くなった賃金が完全失業率の低下につながることもない。
第2に、理屈の上では利益は増大するが、それはすべての企業で起こることではなく、市場支配力が最も大きい企業にしか起こらない。市場全体で賃金が下がると消費が減るので、大半の企業の売り上げも落ちる。その危機を回避できるのは、消費者たちにとっての絶対必需品を提供することで確固たる需要を手にしている企業か、または自社製品を海外市場で売っている企業だけだ。
この状況は、富の集中を高め、保護されていない弱小企業の経営を悪化させ、大企業の支配を拡大させる。これはまさに1980年代以降に起きたことで、新自由主義的政策が消費需要を低下させ、その結果雇用量の減少がもたらされた。
第3に、全体的に賃金が下がることによって、収入が減った多くの家庭や売り上げが落ちた企業、さらには貧困の拡大に対応しなければならない公共部門の負債を増大させる。
最後として第4に、賃金引き下げ政策は、経済全体、雇用、投資、経済成長の歩みを遅らせる。
世界で最も重要といわれる民間シンクタンク、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートは、2018年に発表した報告書でそれを指摘した。6カ国(ドイツ、スペイン、アメリカ、フランス、イギリス、スウェーデン)の7つの主要経済部門で過去30年に何が起こったかを調査した結果、生産性を決定するのはコストをはじめとする供給のさまざまな要素ではなく、財とサービスの需要だとわかった。
全体の賃金を下げれば悪循環に
賃金が上がれば、財とサービスの需要は高まる。そうなったときにはじめて企業は、技術革新に投資するインセンティブを持てるのだ。
この結論は、労働組合が経済活動に与える影響についてすでに他の多くの研究論文が明らかにしてきたことを裏付けている。それは、組合員の数が増え、組合自体が力を持つ時期は賃金が総じて上がり、さらに生産性、雇用、生産への投資、そして経済活動全体のレベルも高くなる。反対に、労働組合の力が弱く、賃金が低い時期には、これらすべてのレベルが低くなるということだ。
確かに、賃金が下がることで生産コストが下がり、利益が増える企業もあるだろう。それによって雇用が増えることもあるかもしれない。
しかし一部の人たちにとって有益なことが、すべての人たちにとって最善とは限らないという点に気をつけなければならない。
全体の賃金を下げるという戦略は、売り上げを低下させ、それによって雇用を生み出していた企業の収入を減らす。すると技術革新への投資に対する関心も低くなり、行きつくところは経済全体の悪化ということになるのだ。
★ホント 給料を下げれば企業の収入も減り景気は悪くなる
法人税回しは前年比+を計上しなければ融資が貰えないので+1%を計上したい経営者が大多数なので儲け過ぎた分は支出枠で交際接待費とか文房具代とか看板代とか雑費とかその他いろいろな経費で相殺しているのでそのおこぼれを貰っている関係者が潤い消費に回すので好景気になっていたのです逆に前年比-になれば融資が貰えないので必ず+にして帳尻を合わせるためにリストラしたり計画破産して支出枠を調整し帳尻を合わせて来たのでおこぼれを貰えなくなった関係者は当然消費に回さないので不景気です
法人税回しってそれだけのことですよ👈だから自然買いの経済動向に振り回されない国産の強制買いが必要なのです