ネット政変以前に政権を担っていたある人物の談話がテレビ番組に登場。
「減税?やってみろ!って感じですかね。
大体この方、国を舵取りする経験もキャリアも無いし、首相になる志とか持ってんですかね?
確固たる信念のない人が首相になったら、この国の将来は終わりですよ。
ハハハハハ!」
どの口で言う?
テレビ画面の向こうで、昔懐かしいオジサンの顔。
平助が首相に就任した際の、増税メガネの談話であった。
政変以前の政界は、議員も高級官僚も二世・三世でなければその地位に就く事は不可能。
それは目に見えない 身分制度であり、『武士でなければ人でない』に等しい階級の断絶であった。
そして不可思議なことに国民はその事実に関心を持たず、全く問題だと思っていない。
それは身分制度だけではなく、どれだけ増税されても、購買力が低下し貧困が増しても、潜在的不満を持つだけで、自分たちの生活をどのように維持するか?問題解決の必要性に迫られた時、思考が停止した。
そして現実逃避に走り趣味や楽しみに没頭する。
だから上級国民たちは増長し、やりたい放題の愚政を敷く。
国民は家畜化し、狭い飼育小屋の中で最低限の生存しか許されない状況に追い込まれた。
牛や豚や鶏のように。
生存が許される条件。
それは社会や企業などの飼育小屋の中で、従順に生産に従事する事。
責任世代と呼ばれる労働力から外れた(外された)者は、世間体と人道的観点から国際批判を浴びない程度の最低限の培養状態に転落し、社会的弱者となる。
それが脆弱で貧相な社会福祉制度の実態である。
その結果、国民はただ生かされている状態から脱せず、未来に希望を見いだせないまま結婚・出産を忌避し、出生率は国の存亡を脅かすほど低下した。
また、アメリカの貿易摩擦解消圧力や、日本の国力削減を画策した策動等により、日本の国力自体著しい国力低下を招き、外国との相対的購買力も地に落ちた状態となる。
そして国民の不満が限界点を超えた時、ネット政変を迎えたのだ。
ただ、それまで権力を握っていた旧勢力は、その事態の深刻さを理解していない。
だから平助たち庶民の素人集団を舐めてかかり小馬鹿にした。
未だに現政府を揶揄するのも、現状分析が甘すぎるから。
でも国全体がそんな八方ふさがりの状態にあっても、一筋の光明があった。
それは日本が未だに保っている資産。
と云っても対外資産の事ではない。
日本固有の文化資産の事である。
外国人に人気を誇る日本文化は、落ちぶれた経済力をカバーし、リスペクトの対象として信用力・潜在的リーダーシップの立場を保持していた。
それ等は先人の努力の賜物であり、最後の財産と言える。
逆にいえばこれらプラスの資産を生かすことが、復活の最後のチャンスなのだ。
国際進出を広げる度信用を落とすどこぞの国と、信頼と尊敬をかち得る国。
その差がかけがえのない財産なのだと、ネット政府は理解していた。
その資産を最大限生かし、国を富まし、国民生活を豊かにする。
そんな政策を一年単位で代々受け継ぐのが平助たちの使命。
平助の代も、アメリカ・中国との外交交渉で、何とか一定の成果を出すことに成功した。
但し、国を富ます事も、国民生活の向上も未だ道半ば。
社会インフラの整備と、製品開発力・生産力の向上が至上命題なのは変わらない。
矢継ぎ早に発せられるネット国民アンケートの要求に追われる平助たちであった。
そんな時、生成AIによるフェイク事件が起きる。
平助の偽談話がネット上で拡散されたのだ。
卑猥で低俗、且つ軽薄な話題を放つ平助。
(元々卑猥で低俗、且つ軽薄な本性を持っているが)
これは全くのでっち上げであった。
その情報を真に受けたカエデが、来るなり平助にいきなり平手打ちを喰らわす。
「平助!何てことやらかした!普段からこんな恥ずかしい会話をしてるから拡散しちゃっただろう。恥を知れ!バカ平助!!」
「え、何のこと?
いきなり暴力を振うカエデはホントに狂暴なんだから。
何で僕の事ぶつんだよ!」
カエデが携帯の録画画面を見せ、
「こんな事言ってたら、国民は何と思うか分からない?
根が卑猥だからいつかはこんな事になるんじゃないかと心配してお目付け役になったのに、これじゃ意味ないじゃん!」
「へ?
僕はこんな事言ってないぞ!
何だ?この映像は?
大体いつボクが卑猥な事言った?
一度も無いだろ!
この映像もカエデも失敬な!」
最近の平助の口癖は「失敬な」であった。
「何、シラを切ってる!現にこうして喋っているジャン!こんな明瞭な動かぬ証拠を前にして堂々と否定してんじゃないよ!」
「だから言ってないって!!
これは何かの間違いか罠だろ?
よく見ろ!口の動きや背景や動作が不自然に荒いじゃないか!
これって作り物じゃないかな?
僕はこんな卑猥な人間じゃないし。」
「平助は十分卑猥だよ!
人間性の本質を良く捕らえているじゃない?
でも平助の言う通り、チョットこの動画って変ね。
これってフェイク動画?」
「だから言ってんだろ?フェイク動画だって!
それに卑猥、卑猥って・・・僕はこんな卑猥じゃないし。」
平助の訴えを無視し、
「これが作り物なら問題ね。女性に敵が多い平助だから誰が作ったか分からないけど、何か対策を立てなきゃ。
科学分析をして、これはフェイクだと発表しなきゃね。」
「僕に女性の敵が多い?んな訳無いだろ!
支持率だってそんな悪くないし。」
「支持率と好みは違うでしょ?自覚無いの?おバカさんね。」
「人を哀れんだ目で見るんじゃねぇ!犯人が女性とは限らないし・・・。」
段々自信を失う可哀想な総理大臣。
早速AI生成ガイドライン作成と法制化を急ぐ内閣であった。
つづく