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マルクス・エンゲルスの著作についていくつか

2005-01-04 16:29:44 | むかしに書いたもの
                          1997年夏に書かれたもの(学生のころ)


 マルクスとエンゲルスが、今日世界に与えた影響は否定することはできない。彼を受け入れるにしろ、否定するにせよ、彼らの思想に浸透されている。しかし彼らは19世紀の人で、また研究の手段も、彼らが残したもの、つまりは著作・手紙や遺稿が頼りとなるのである。ところが彼らの著作をめぐる問題は、相当難しい問題がある。草稿が多く、かつ刊行の時における編集の手法に問題があるとされているのである。

 Ⅱ
 大月書店から『マルクス=エンゲルス全集』が刊行されていた。これは現在では絶版になっている。現在ではWindows版とマッキントッシュ版がCD-ROMで刊行されている。この全集、日本語では『全集』である。しかし厳密には、『全集』ではないのである。それは中身のレベルだけではなく、原題からしてそうである。原題は、”Karl Marx- Friedrich Engels Werke”である。訳せば、『カール・マルクス=フリードリッヒ・エンゲルス著作集』である。それも著作以外の、手稿・書簡の多くを含む著作集ということである。
 ただ今日、この編集にはかなり問題があることが、明らかになっている。この著作集では、意図的にはずされた著作があり、また草稿関係のものの編集に問題があるとされているのである。政治的な恣意的解釈や、文献学的問題があるのである。ついていうとこの『著作集』は、旧ドイツ民主共和国(旧東ドイツ)のドイツ社会主義統一党中央委員会付属マルクス=レーニン主義研究所の編集によるものである。
 これに代わるもの、学術的な版として新しい全集が、現在刊行中である。それは新メガとも呼ばれる、”Karl Marx-Friedrichi Engels Gesammtausgabe”である。歴史的・批判的全集をめざして、全100巻の予定で刊行されだしたのである。しかしソ連および旧東ドイツの混迷と解体で最大の出資者を失い、編集が遅れ計画の部分的縮小が起きている。
 現在国際的な協力を受け、国際マルクス・エンゲルス財団の手で編集刊行が、やっとこ続けられている。ただ上記の資金的理由により、その編集のスピードは遅れておりその完成は21世紀になることが、ほぼ間違いのないことが明らかになっている。 
 この学術的全集の別名は、先にいったように新メガである。メガの上に新がつく。それは別名旧メガと呼ばれるものが存在するからである。


 いわゆる旧メガは、訳すなら『マルクス=エンゲルス全集』である。原書の綴りだと”Marx-Engels Gesamtausgabe”で略称がMEGAである。
これは、ソ連モスクワのマルクス=エンゲルス研究所とドイツのフランクフルトにあった社会問題研究所の、共同の編集でなされたものである。同時に出版は、両者共同の出資によってつくられた出版社で刊行された。刊行地は、始めはフランクフルトでなされた。その後ナチスの支配になり、モスクワに刊行地は移った。
 ただこの計画は、全42巻を予定していたが、1927-1935年のあいだに12冊の発行にとどまり、未完成のままに終わったのである。そのため、マルクス・エンゲルスの遺稿を包括的に含む出版というのは、新メガまでなされなかった。ただし断片的には、いくつかはでてきた。しかしその編集には問題があることも今日では判明している。


 マルクス・エンゲルスの遺稿は膨大な量になっている。いくつかあげるのなら、『ドイツ・イデオロギー』に関するもの、『1844年の経済学・哲学草稿』、経済学に関する手稿-たとえば『資本論』の下書きなど-、『自然の弁証法』関係のもの。その他たくさん、それもいろんな主題にわたる研究の成果物として書かれ、多くは未完成や未定稿のまま残されたものである。
 いずれもその編集と、収集はやっかいなものである。すでに刊行されたものは、すでに刊本はあるし、修正もバグ取りに限られるが、未定稿のものは、一本の著作としてなすための編集が不可欠であり、一般的に読まれるための編集・注解が必要になるのである。この点の問題は極めてやっかいで一筋縄にはいかなかったのである。
 そのたぶんの要素が、政治の介入である。特にレーニンなき後ソ連の最高指導者となったスターリンおよびその系統である。政治的偏向が、つまりスターリンなどの指導部の理論と矛盾しないような編集を求め、またソ連の研究者の指導的理解にそった編集をなしたのである。しかしこれは極めて危険な編集であった。一定の解釈のもとの編集本のみが、権威あるものとして刊行され、各国で翻訳刊行されたのである。

Ⅴ 遺稿『ドイツ・イデオロギー』
 マルクス=エンゲルスの遺稿の多くは、ドイツ社会民主党の手にいったん渡った。ただそこへの過程、そこに入ったあとの管理の杜撰さ、ナチの手から守るため移動したときに行方しれずになったモノは少なくないとされている。この過程で損なわれた部分、もしくは何かに紛れている部分の痛手は否定することはできない。全体的理解のため重要な部分がそこに紛れている可能性があるからである。
 さて社会民主党に入った文書について関心を持ったのは、ソ連であった。ソ連のマルクス=エンゲルス研究所の初代所長であったリヤザノフは、幾度か遺稿の調査をおこなった。
 その過程で未完成の遺稿『ドイツ・イデオロギー』などを見つけだし、その初めての全体的刊行をした。リヤザノフ版『ドイツ・イデオロギー』は、日本では三木清の翻訳で岩波文庫の一冊として『ドイッチエ・イデオロギー』として戦前に刊行された。その後リヤザノフは、スターリンの毒牙にかかり粛清された。
 その後アドラツキーらによって旧メガが刊行され、この版の『ドイツ・イデオロギー』が刊行された。しかしこれは遺稿を切り刻み、当時のソ連の研究者の一定の理解にそって切り分けた編集であった。編集的には杜撰であったことが後日明らかになった。しかしソ連の権威で普及したのもまた事実である。この版にそって、第一巻第一章フォイエルバッハは戦後版岩波文庫古在由重訳で『ドイツ・イデオロギー』として刊行された。これは一部手を加えた上で『マルクス=エンゲルス著作集』へと引き継がれ、日本語版『全集』や大月書店国民文庫版の真下信一訳の『ドイツ・イデオロギー』につながったのである。
 その後よりオリジナルの原稿に近いのを求め、ソ連の研究者バガトゥーリヤの新版(訳は合同出版社版『新版ドイツ・イデオロギー』)、大月書店版『マルクス=エンゲルス8巻選集』第一巻に納められている旧東ドイツのタウベルト版などがある。あと新メガの試行版、廣松渉の独自の編集本(河出書房新社刊)、最近では、服部文男監訳の新日本出版社版。これははじめ訳が日本共産党中央委員会理論政治誌『前衛』に連載され、単行本になったものである。
 この遺稿をめぐる議論は、なお白熱したものがある。研究家の間でも諸説があり、編集問題をめぐる議論も大きいものである。

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