うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

金の瞳と鉄の剣  虚淵玄  うな

2015年01月08日 | 読書感想
傭兵のタウと不思議な魔法を使う謎の少年キア。旅を続ける二人は様々な怪異に出会う。

明確にホモといっているわけでもない二人がいちゃいちゃしながら遍歴するという、少女向けファンタジーでよくある定番のアレを、なぜかいつもホモホモしくなることに定評のある硬派エロゲライター虚淵玄が書く。挿絵は高河ゆんで。
という色んな意味で星海社らせしい、鉄板の布陣で挑んだ作品。
が、結果的にはわりとおとなしいというか、普通の作品になってしまっていた。
多分、今作は虚淵作品の中で初めて明確に女性ファンを意識して書いた作品だと思う。人外の力を持つ代わりに常識の一切欠けた美少年と、憎めない小悪党である青年、というコンビは、計算の上では完璧に腐女子的なハートを直撃する組み合わせだ。
にもかかわらず、従来の虚淵作品よりホモ臭が感じなかったのは何故なのだろうか。
私見だが、虚淵作品のホモ臭さというのは、基本的に「異常な意思をもった人間」によってもたらされている部分が大きいのではなかろうか。世間の常識から外れ、倫理に背き、自らの痛みも苦しみも顧みず、ただ己がそうせずにはいられないからそうするという、異常な衝動を抱えた個人。虚淵作品の多くにはそういう人間が配され、それによって多くの事件が起きている。そしてまた、その存在の相棒ともいうべき人間は、最後まで共にすることができない。それに振り回されながらも、その生き方に憧れ、取り残され、破滅を眺めているしかない。
それゆえにこそ、その関係性には美しい執着と、しかし最後まではついていけない諦念とが宿り、正常な男女の性愛を超えたホモ臭い関係を作り出す。

対して本作は、二人の関係性はさして濃くはない。二人とも互いを無二の相棒だとは思っているようだが、そこには別離のおそれや激しい運命は待っておらず、ゆるやかな冒険が繰り返されるばかりだ。他の虚淵作品に見られるような悲劇的な展開は見受けられない。要するに二人がいちゃいちゃしながら旅するのをニヤニヤしながら楽しむべき作品なのだろうが、率直にいってしまえばその辺りに関しては虚淵玄は優れた作家とはいえないと思う。結果として、いまいち物足りない凡庸なバディ物となってしまった。

とはいえ、ファンタジーとしては無難で普通に楽しめる出来か。
一話完結方式で五話入っているが、廃城の鍵付き宝箱を開ける三話目がけっこう好きだ。鍵のやたらと凝った構造の説明と、それを開けることに情念を燃やす老盗賊の姿が、いかにも虚淵玄らしいフェチズムを感じられて良い。一本の話としてオチや構成も無難ながら綺麗にきまっている。
四話目の、都で貴族の若いツバメをやる話も良い。調子に乗ってなにもかも失いながらも、暗い印象を残さない終わり方が良い。
対して肝心の一話目は、龍殺しに行くというエピソードは開幕としては悪くないのだが、主人公二人の説明に終始している感が強く、説明ではなくもっとエピソードで二人の関係や出自をおしえて欲しいという気持ちが強くて、世界に入りづらかった。二人の出会いが描かれる五話目も、巻末に語るエピソードとしては妥当なのだが、引っ張った割にはこのエピソードから解ることがあまりにも少なく、消化不良感が残る。

全体的に栗本薫の『トワイライト・サーガ』を思い出すような、凡庸な、しかし手堅いファンタジー世界を描いたゆるホモ小説だった。
しかし『トワイライト・サーガ』が、主人公二人が別れたあとの姿を冒頭に描くことによって、いったい二人になにが起きたのかという興味が連作を飽きさせずに読者を引っ張る牽引力となっていたのだが、今作はそういう引きがないので、二人のキャラを気に入らないとどうも物語として弱い。どうも表紙には書かれていないが、内容からいって明らかに巻数をどんどん重ねていくタイプの作品で、そういう意味で一巻目としては妥当なのかもしれないが、やはり引きつける特色がないと厳しい。(もっとも『トワイライト・サーガ』は二巻の最後まで読んでも結局なんで主人公二人が別離したのかさっぱり説明されずに終わるので、読み終わったら不快感のほうが強い。風呂敷を広げるのだけはうまいが畳む気がない作家にはよくありがちなことだが、残念ながらそういう作家のほうが売れっ子になるし、実際自分も惹かれてしまうので困ったものだが、それでも栗本薫の数々投げっぱなしをぼくは許さないよ……)

ところどころ世界観にあまりそぐわない横文字が入ってくるのもちょっとむず痒かったが、これは好き好きか。
最大の問題は、明らかに巻数をどんどん重ねていく連載タイプの作風でありながら、売れなかったからか、作者が忙しいからか、二巻目が出る気配がまったくないことだが、これはもう諦めたほうが良いのだろうか? そんな投げっぱなしで良いのだろうか?
しかし虚淵先生にはこの続きを書くよりは頑張って欲しい別の仕事がたくさんある気もするので、これはこれでいいのかな、という気がしないでもない。
今作に関してはどちらかというとイラストの高河ゆんのほうがいい仕事をしていたと思う。21世紀に入ってからの彼女の画風はハッキリいってまったく趣味じゃないが、ホモコンビファンタジーに求められることを完璧にこなしていて、プロの仕事だなと思ったね。まさか高河ゆんにプロを感じる日が来るとは……

最新の画像もっと見る

コメントを投稿