うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

夜啼きの森  岩井 志麻子  うなぎ

2008年01月20日 | 読書感想
長編ホラー。

岡山北の山中、近親婚を重ねた血の濃いわずか三十数名の暮らす村。
夜這いの風習が残り、血と憎愛が日に日に濃くなっていくこの村で、昭和のはじめに惨劇は起きた。
『八つ墓村』の元ネタとしても知られる実在した事件「津山三十人殺し」をモチーフに、呪われた村の情景を描いた作品。

いやあ、これは厳しいな。
性的に乱れすぎた閉ざされた世界。代わり映えのしない日常と、その中で長い年月をかけて腐っていく人々。その世界に唐突に、しかし必然として訪れた滅び。あいかわらず岩井志麻子のホラーは、怖いというよりおぞましい。呪いを感じる。
あいかわらず流麗に、しみこむように

「津山三十人殺し」は、一人の鬱屈した青年により村人のほぼすべてが惨殺された事件なわけで、ややもするとその青年の異常性をクローズアップしたくなるところだが、岩井志麻子はちがう。
その村の、閉ざされた世界の人々の生活を、人生を描くことにより、この村が滅びの宿命を内包しており、青年の凶行は必然であったことを読者に納得させている。
この物語は、凶行を犯す青年・辰男を中心に、しかし辰男自身に語らせることはなく、周囲の人間に村の状況を語らている。辰男はその村の一部分でしかない。
だからこそ、辰男という滅びの鬼が、どのような必然により生まれたのかがわかる。村が鬼を必要としていたのかがわかる。

そのすべての象徴として、村の真ん中に存在する「お森様」
やはりこれが「津山三十人殺し」をモチーフとしたほかの作品と一線を画させている。具体的に森がなにかをしたわけでもない。森で何かがあったわけでもない。しかしすべては森がさせた、そう思わせる力量がお見事。

読み終わったあと、同様に「津山~」をモチーフにした山岸涼子の『負の暗示』を再読してみたが、やはり衰退期の山岸涼子、改めてつきあわせてみると、書いてある事実関係はほぼ同じなのに、閉ざされた村のぐっちゃんぐっちゃん具合が全然伝わってこず、一人の青年が鬱屈して逆切れしたよ、程度にしか感じられない。
やっぱり山岸先生にかけるのは女の情念、個人の情念が限界なんだなあ、と感じた。それでいてドキュメンタリィタッチの書き方をしているのがまったくあっていなかったり。はあ。返す返すも山岸先生は残念なことをした。

でもさあ、細かい経緯は知らないけど、少女小説家であった岩井先生は、離婚間際で『ぼっけぇ、きょうてえ』をものしたわけでしょ? やっぱりこう、なにか己の中の女との戦いってのは、越えなくちゃいけないんだろうなあ。

ま、ともあれ、殺人鬼を生み出した閉鎖社会の描写はピカイチの本作であった。
こんな村さっさと滅べばいいんだ、つうかどう考えても滅ぶ、って読みながら思っちゃうもんなあ。



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2 コメント

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Unknown (usa)
2008-01-22 04:52:57
うなぎさんこんにちは。
確かに山岸先生のアレは、ドキュメンタリーとしてもなんとも…という出来でしたね。
事実や内心はともあれ、岩井作品の方が、フィクションとしては数段上と感じます。
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Unknown (うなぎ)
2008-01-23 06:09:15
どうもどうも。
山岸先生は自分の書きたいこと、書くべきことから全力で逃げたからね。
二十四年組の中でも才能ならトップクラスだったと思うんだけどなあ、山岸先生。自分の中の女に負けたからなあ。
だったら結婚して幸せになってくれればこっちも諦められたのに……(まあ、山岸先生の好きなタイプは「結婚しても幸せにしてくれない男」だからそれも有り得ないんだけどさ)
逃げた人間と逃げなかった人間とでは、書く物のレベルも自ずと変わってきてしまうものさ。なむなむ
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